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第三章 ささえ
(5) メーデー
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何とかしなきゃ。
走りながら、焦りが呟きとなって空気に混じる。
梢ちゃんは大事な後輩で、きっと都会にも慣れていない。
もし彼女に何かあれば、全部誘ったわたしのせいだ。
仲良くなるどころか、わたしは彼女のことを何一つとして見られていなかった。
他の人より少しテンポが遅いところも、年下だからあまり自分の意見を伝えられないのも、何にも考えてあげられなかった。
こんなわたしに、梢ちゃんを導く資格なんて、あるわけないや……。
適当なビルの陰に入り、思わず涙ぐみながらひたすらナナ様に念じる。
お願い、梢ちゃんを捜しているの。
見つけ出して、今すぐゴメンって謝りたいの。
だから、お願いします。
どうかわたしに、知恵を下さい!
そうやって三分くらい念じたけれど、何も変わらない。
もう諦めて、一旦みんなの元に戻ろうとした、その時だった。
ーーーもう。音美から飛んでくるの、大変だったんだからね!
突然聞こえてきた声に、頭の中で思わず名前を叫んでしまった。
最後の頼みの綱であるナナ様に、縋るように梢ちゃんを見つけ出す方法を尋ねる。
ナナ様は、ひとまず落ち着きなさい、と諭してから、いつも通りの優しい口調で耳元に囁いた。
ーーー桜良、よく聞いてちょうだい。一つだけその方法があるわ。
今から集中して、ひたすら梢ちゃんのことを思いながら、周りに耳を傾けなさい。そしたら、この近辺のありとあらゆる音が、一気に貴女の耳に飛び込んでくるわ。
ここは繁華街だから、入ってくる音の量は膨大になって気がおかしくなるかもしれないけど、でもその中から頑張って声を聞き分けるの。もし、その彼女が強く助けを求めているなら、きっとこの状況でも聞き取れるはずよ。
後は、それを元に居場所を捜し求めなさい。ーーーーー
やがて、ナナ様の声は途切れた。
すぐにじっと目を閉じ、聴覚にすべての意識を集中させる。
絶対に、梢ちゃんの声を聞き取ってみせる。
……絶対に、見つけ出すんだから!
強く決意したその瞬間、周りのありとあらゆる音や声が、一気にわたしの耳へと飛び込んできた。
路面電車の軋む音、車のクラクション、買い物客の談笑、店員の掛け声。
それらの音がぐるぐる混ざり合い、不協和音となって鼓膜を襲う。
思わず吐き気を催しながら、それでも必死に堪え、あのか細い声を捜す。
そうして、もう何分ほど集中していただろう。
わたしはとうとう、けたたましいノイズの中に彼女の声を聞き取った。
それは、SOSとして耳に伝わった。
ーーー助けて。
激しく動揺する胸を必死で鎮めつつ、少しでも何か情報はないか、さらに聴覚を研ぎ澄ませる。
やがて、集中して聴いているうちに、いくらか周囲の状況がわかってきた。
どうやら梢ちゃんは、どこかを歩きながら、ただひたすら、助けて、と小さく何度も呟いているみたいだ。
そしてすぐ近くからは、時折別の女性の声が聞こえてくる。
その人は何やらぶつぶつと独り言のように喋っていた。
そちらの方にも、意識を傾けてみる。
「うーん、と。電車通りはもう渡ったから、あとはそこのクレープ屋を右に曲がるだけ。ったく、ほんっと、わかりづらいなぁ」
その後横断歩道のメロディーが小さく流れ、しばらくすると声は聞こえなくなった。
確証はないけど、もしかしたら梢ちゃんはその女性と一緒にいるのかもしれない。
僅かな可能性を信じ、わたしはみんなの待つ場所に戻った。
走りながら、焦りが呟きとなって空気に混じる。
梢ちゃんは大事な後輩で、きっと都会にも慣れていない。
もし彼女に何かあれば、全部誘ったわたしのせいだ。
仲良くなるどころか、わたしは彼女のことを何一つとして見られていなかった。
他の人より少しテンポが遅いところも、年下だからあまり自分の意見を伝えられないのも、何にも考えてあげられなかった。
こんなわたしに、梢ちゃんを導く資格なんて、あるわけないや……。
適当なビルの陰に入り、思わず涙ぐみながらひたすらナナ様に念じる。
お願い、梢ちゃんを捜しているの。
見つけ出して、今すぐゴメンって謝りたいの。
だから、お願いします。
どうかわたしに、知恵を下さい!
そうやって三分くらい念じたけれど、何も変わらない。
もう諦めて、一旦みんなの元に戻ろうとした、その時だった。
ーーーもう。音美から飛んでくるの、大変だったんだからね!
突然聞こえてきた声に、頭の中で思わず名前を叫んでしまった。
最後の頼みの綱であるナナ様に、縋るように梢ちゃんを見つけ出す方法を尋ねる。
ナナ様は、ひとまず落ち着きなさい、と諭してから、いつも通りの優しい口調で耳元に囁いた。
ーーー桜良、よく聞いてちょうだい。一つだけその方法があるわ。
今から集中して、ひたすら梢ちゃんのことを思いながら、周りに耳を傾けなさい。そしたら、この近辺のありとあらゆる音が、一気に貴女の耳に飛び込んでくるわ。
ここは繁華街だから、入ってくる音の量は膨大になって気がおかしくなるかもしれないけど、でもその中から頑張って声を聞き分けるの。もし、その彼女が強く助けを求めているなら、きっとこの状況でも聞き取れるはずよ。
後は、それを元に居場所を捜し求めなさい。ーーーーー
やがて、ナナ様の声は途切れた。
すぐにじっと目を閉じ、聴覚にすべての意識を集中させる。
絶対に、梢ちゃんの声を聞き取ってみせる。
……絶対に、見つけ出すんだから!
強く決意したその瞬間、周りのありとあらゆる音や声が、一気にわたしの耳へと飛び込んできた。
路面電車の軋む音、車のクラクション、買い物客の談笑、店員の掛け声。
それらの音がぐるぐる混ざり合い、不協和音となって鼓膜を襲う。
思わず吐き気を催しながら、それでも必死に堪え、あのか細い声を捜す。
そうして、もう何分ほど集中していただろう。
わたしはとうとう、けたたましいノイズの中に彼女の声を聞き取った。
それは、SOSとして耳に伝わった。
ーーー助けて。
激しく動揺する胸を必死で鎮めつつ、少しでも何か情報はないか、さらに聴覚を研ぎ澄ませる。
やがて、集中して聴いているうちに、いくらか周囲の状況がわかってきた。
どうやら梢ちゃんは、どこかを歩きながら、ただひたすら、助けて、と小さく何度も呟いているみたいだ。
そしてすぐ近くからは、時折別の女性の声が聞こえてくる。
その人は何やらぶつぶつと独り言のように喋っていた。
そちらの方にも、意識を傾けてみる。
「うーん、と。電車通りはもう渡ったから、あとはそこのクレープ屋を右に曲がるだけ。ったく、ほんっと、わかりづらいなぁ」
その後横断歩道のメロディーが小さく流れ、しばらくすると声は聞こえなくなった。
確証はないけど、もしかしたら梢ちゃんはその女性と一緒にいるのかもしれない。
僅かな可能性を信じ、わたしはみんなの待つ場所に戻った。
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