上 下
23 / 87
第二章 さなぎ

(5) きみの全部に恋してる

しおりを挟む
 その後、隣にその子を招いて、最近流行りのドラマ『きみの全部に恋してる』の話題を持ち掛ける。
 すると、次第に調子を取り戻してきて、感想や推しポイントなどをかなり細かく話してくれた。

 こうして一緒にバスケや雑談をして、少しは仲良くなれたかなと思って、ものは試しと尋ねてみる。

「ねえ、明日予定空いてる?」

「うん、空いてるよ。どしたん?」

「もしよければなんだけど、わたしの友達を紹介したいんだ。北平の生徒なんだけどね、音楽が好きで、今年から一緒に音楽活動をすることにしているの。テレビとかも好きな子だから、きっと話が合うと思うんだ。それでよかったら一緒に遊ぼうよ」

 彼女は話を聞きながら、どこか不安そうにモジモジとしている。
 でも、「遊ぼう」の言葉を聞いて少しほっとした表情をすると、最後には元気よく頷いてくれた。

「……わかった! 今日初めて会ったけど、いつも一人だったから少しだけきみと遊べて、うちも楽しかった。どうせ休みの日はヒマだから、きみがいるなら遊びに行ってみてもいいかなって思う。ヨロシクね!」

 今日、学校で久々に新しい友達ができたのと、明日活動場所に人を呼べることになったという、二重の喜びを噛み締める。
 ……あ、しまった、肝心なことを聞いていなかった。

「こちらこそ! そして、ゴメン。ずっと名前言うのを忘れてた。わたしは一年二組の、遠矢桜良っていいます。改めて、よろしく!」

「そういや、そうだったっけ。うっかりしてた。うちは一組の美樹。相星あいぼし美樹みき。よろしくね、桜良ちゃん!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今日は嬉しいことが沢山あった。
 美樹ちゃんと、バスケを通じて仲良くなって、明日も会えることになった。

 しかも、話はなんとそれだけでは終わらなかった。
 別れ際に、美樹ちゃんが急に閃いたような顔をして、提案してくれたのだ。

「あのね、桜良ちゃん。確か、明日友達を紹介してくれるって言ったよね。よかったら、うちもクラスの友達を連れて来てもいいかな? その子って、うち以上に音楽とか好きだから、きっと話が合うと思うんだ」

 もちろん快くOKすると、美樹ちゃんはあとで連絡するね、と言って嬉しそうに手を振りながら去っていった。

 その夜、早百合にラインで報告する。

『明日、二人遊びに来るよ、楽しみだね』

 しばらくして、「了解!」のスタンプと一緒に簡単なメッセージが来た。

『ありがとね、桜良。明日、私も楽しみにしてる』

 ラインを閉じた後、だんだん心がうきうきしてくるのを感じ、思わず壁に向けて、楽しみだなぁ、と独りごちる。
 すると、突然真後ろから、やわらかい声で返事が来た。

「よかったわね、桜良」

 驚いて振り向くと、さっきまで誰もいなかったはずのところにナナ様がいて、のんきにくつろいでいた。

 そういやここ最近会ってなかったなぁ、とそれとなく思ってはいたけど、とはいえ急に現れても困る。
 だから思わず、「びっくりしたぁ! 何でいるの?」と若干抗議を込めて聞いた。
 そしたら。

「だって、最近祠にも遊びに来てくれないし、つまらないじゃない。だから、こっそり遊びに来ちゃいました」

 そう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべながらウィンクを向ける。
 その無邪気な仕草に、へなへなとその場に腰を下ろした。

「もう! ここに来るのは別にいいけど、いきなり話しかけてくるのはやめてよね。びっくりするから」

「はいはい、ごめんなさいね」

 本当にちゃんとわかっているのかは知らないけど、機嫌が良いからこれ以上あれこれと言うのをやめて、代わりに近況報告をしてあげることにした。

 練習場所のこと、紅葉ちゃんのこと、そして明日友達が二人遊びに来てくれること。
 ナナ様はうんうんと興味深く耳を傾けて、しばらくしてからおもむろに口を開いた。

「色々と順調みたいでよかったわね。ところで、一つ気になることがあるのだけど」

「なあに?」

「その友達の、美樹ちゃんって子には、何て言って誘ったんだっけ?」

 そう言われて、何となくその時のことを思い出してみる。

「確か、『一緒に遊ぼう』って誘ったよ。友達を紹介したいとも言ったかな」

「合唱に誘う、みたいなことは言ったのかしら」

「いやいや。だって、さすがに今日会ったばっかだし。もしそういうのに誘うんなら、まずは沢山喋って遊んで、もっとその子たちのことがわかってからやんなきゃ」

「でも、そうしたら……」

 ここで、ナナ様はなぜか急に黙り込む。
 どうしたのか少し気にはなったけど、同時に昼間のバスケの疲れからか強烈な眠気を感じてきて、そろそろ寝ようかな、と伝えた。

 ナナ様は相変わらず何か言いたそうに考え込んでいたけれど、明日頑張って、とだけ告げてその場からいなくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

コンプレックス

悠生ゆう
恋愛
創作百合。 新入社員・野崎満月23歳の指導担当となった先輩は、無口で不愛想な矢沢陽20歳だった。

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

処理中です...