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第一章 さかな
(10) 金縛りと夢の世界
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その日の夜。
いつものようにスマホをいじっていると、突然猛烈な眠気が襲ってきた。
段々と堪えきれなくなっていき、フラッとベッドに倒れ込む。
そのまま瞼を閉じ、すぐに深い眠りに入った。
異変が起こったのは、それから何時間か経った後のことだった。
急に目を覚ますと、身体に強い違和感を覚えた。
試しに腕を上げようとする。ダメだ、全く力が入らない。
真夜中だけど大声で叫んでみようか。でも喉は思うように震えず、息もちょっとだけしか出入りしなかった。
そうして戸惑う間に、だんだんと胸も苦しくなってくる。
まるで深い海に溺れたような身体の重さと息苦しさを感じながら、なす術もなくわたしは気を失った。
気づいた時、あの洞穴の中にいた。
どうしてそこにいるのか、全くわからなかった。
ひとまず寝巻のままで立ち上がり、辺りをきょろきょろ見回してみる。
すると一つだけ、現実の洞穴とは違う点を見つけた。今いる場所は、出口がなかったのだ。
はじめのうちは、自分が閉じ込められていることにかなり恐怖を感じた。
でも、しばらくするとその感情は次第に収まっていった。それは、今の自分が感覚らしいものを持っていないことがわかったからだ。
ものは試しに、頬をつねってみる。痛みも何も感じない。
思い切って頭を叩いてみても一緒だ。
だからわたしは、今ここが現実の世界ではないことを悟り、いつか目覚めるのなら、と自分でも不思議なくらい楽観的でいた。
そんな風に前向きに考えることができたのは、きっと今いる場所が、多少違うとはいえお気に入りの場所だったからというのもあるかもしれない。
不思議なことに、出入口がないにもかかわらず、洞穴の中はとても明るかった。
祠のあるところに目を向けてみると、夢の中でも変わらず同じ場所に鎮座している。
少し離れた所からいつもみたいに目を閉じ、手を合わせてお祈りする。
数秒後、ゆっくりと瞼を開くと、目の前に見知らぬ若い女の人が立っていた。
思わず、わっ、と大きく後ずさって、手の甲を勢いよく壁に当ててしまう。
白いワンピースを身にまとったその人は、落ち着き払った様子で目の前にしゃがみこむと、柔らかく微笑みながら話しかけてきた。
「驚かせちゃってごめんなさいね。はじめまして、桜良ちゃん」
相手が自分の名前を知っていることに少し不気味さを感じながら、ひとまず返事する。
「はじめまして。……あの、お姉さんは、一体?」
「ごめんね。今はまだ話すことができないの。怪しい者ではないから安心してね」
これが現実のシチュエーションなら、怪しくないで済ますことは絶対にあり得ない。
でも、よく考えてみればここは夢の世界だ。
夢ならば、相手が自分のことを知っていても別におかしくはない。
それに何より、目の前の若い女性はとても優しそうで、なぜか不思議と色々なことを話したいような気分になってきた。
「……はい、わかりました! あの、折角なんで、よければ話し相手になってもらえませんか?」
その人は目を大きく見開くと、吸い込まれそうな瞳に光をたたえ、嬉しそうに胸に手を当てる。
「いいわよ。私でよければ是非!」
「やった! ……あ、すみません」
「いいのよ、気を遣わないで。私のこと、今日は友達のように思ってくれていいわ」
それからしばらく、好きなことや昔の話などいろんなことを話した。
お姉さんは、自らのことについてはなかなか明かさなかったけど、とても聞き上手で、ついたくさんのことを喋りすぎてしまう。
ある程度まで話し終えた後、折角だからあのことも相談してみようかと思いついた。
わたしには小さい頃からの幼馴染がいて、その子とこの間久々に再会したこと。
その子は歌うことが好きで合唱部に入っているけど、そこでは今内部分裂が起きていること。
そして体育祭で起きたバトン事件のこと、学校で考えた憶測までを全てお姉さんに伝える。
あらかたわたしの話を聞き終え、少し間を置いてからお姉さんは口を開いた。
「『早百合ちゃん』とは、一度会ってちゃんと話をした方がいいと思うわ」
いつものようにスマホをいじっていると、突然猛烈な眠気が襲ってきた。
段々と堪えきれなくなっていき、フラッとベッドに倒れ込む。
そのまま瞼を閉じ、すぐに深い眠りに入った。
異変が起こったのは、それから何時間か経った後のことだった。
急に目を覚ますと、身体に強い違和感を覚えた。
試しに腕を上げようとする。ダメだ、全く力が入らない。
真夜中だけど大声で叫んでみようか。でも喉は思うように震えず、息もちょっとだけしか出入りしなかった。
そうして戸惑う間に、だんだんと胸も苦しくなってくる。
まるで深い海に溺れたような身体の重さと息苦しさを感じながら、なす術もなくわたしは気を失った。
気づいた時、あの洞穴の中にいた。
どうしてそこにいるのか、全くわからなかった。
ひとまず寝巻のままで立ち上がり、辺りをきょろきょろ見回してみる。
すると一つだけ、現実の洞穴とは違う点を見つけた。今いる場所は、出口がなかったのだ。
はじめのうちは、自分が閉じ込められていることにかなり恐怖を感じた。
でも、しばらくするとその感情は次第に収まっていった。それは、今の自分が感覚らしいものを持っていないことがわかったからだ。
ものは試しに、頬をつねってみる。痛みも何も感じない。
思い切って頭を叩いてみても一緒だ。
だからわたしは、今ここが現実の世界ではないことを悟り、いつか目覚めるのなら、と自分でも不思議なくらい楽観的でいた。
そんな風に前向きに考えることができたのは、きっと今いる場所が、多少違うとはいえお気に入りの場所だったからというのもあるかもしれない。
不思議なことに、出入口がないにもかかわらず、洞穴の中はとても明るかった。
祠のあるところに目を向けてみると、夢の中でも変わらず同じ場所に鎮座している。
少し離れた所からいつもみたいに目を閉じ、手を合わせてお祈りする。
数秒後、ゆっくりと瞼を開くと、目の前に見知らぬ若い女の人が立っていた。
思わず、わっ、と大きく後ずさって、手の甲を勢いよく壁に当ててしまう。
白いワンピースを身にまとったその人は、落ち着き払った様子で目の前にしゃがみこむと、柔らかく微笑みながら話しかけてきた。
「驚かせちゃってごめんなさいね。はじめまして、桜良ちゃん」
相手が自分の名前を知っていることに少し不気味さを感じながら、ひとまず返事する。
「はじめまして。……あの、お姉さんは、一体?」
「ごめんね。今はまだ話すことができないの。怪しい者ではないから安心してね」
これが現実のシチュエーションなら、怪しくないで済ますことは絶対にあり得ない。
でも、よく考えてみればここは夢の世界だ。
夢ならば、相手が自分のことを知っていても別におかしくはない。
それに何より、目の前の若い女性はとても優しそうで、なぜか不思議と色々なことを話したいような気分になってきた。
「……はい、わかりました! あの、折角なんで、よければ話し相手になってもらえませんか?」
その人は目を大きく見開くと、吸い込まれそうな瞳に光をたたえ、嬉しそうに胸に手を当てる。
「いいわよ。私でよければ是非!」
「やった! ……あ、すみません」
「いいのよ、気を遣わないで。私のこと、今日は友達のように思ってくれていいわ」
それからしばらく、好きなことや昔の話などいろんなことを話した。
お姉さんは、自らのことについてはなかなか明かさなかったけど、とても聞き上手で、ついたくさんのことを喋りすぎてしまう。
ある程度まで話し終えた後、折角だからあのことも相談してみようかと思いついた。
わたしには小さい頃からの幼馴染がいて、その子とこの間久々に再会したこと。
その子は歌うことが好きで合唱部に入っているけど、そこでは今内部分裂が起きていること。
そして体育祭で起きたバトン事件のこと、学校で考えた憶測までを全てお姉さんに伝える。
あらかたわたしの話を聞き終え、少し間を置いてからお姉さんは口を開いた。
「『早百合ちゃん』とは、一度会ってちゃんと話をした方がいいと思うわ」
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