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第一章 さかな

(4) 不思議な祠

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 「その場所」を見つけたのは、確か小一の時だったはずだ。

 昔から人一倍冒険心が強かったわたしは、まだ行ったことのない場所を探検しようと突然思い立ち、ある日の朝家をこっそりと飛び出した。

 事前におやつを詰められるだけ詰めたリュックをしょいながら、しばらくワクワクと色んな道を歩き、面白そうな建物を見つけては近づいてみる。
 それから全く疲れることもなく、昼過ぎからは無謀にも山登りに初挑戦した。

 はじめのうちは覚えたての歌を歌いながら意気揚々とけもの道を進んでいたものの、時間が経っても一向に頂上にたどり着かず、さらにスコールまで降り出してしまった。

 とにかくがむしゃらに走り回り、雨宿りのできそうな場所を探す。
 そして偶然小さな洞穴を発見すると、勢いよくその中に駆け込んだ。

 雨がやむのを待っている間にも、濡れた服にどんどん体温が奪われていく。
 せめて不安を少しだけでも打ち消すべく、懐中電灯であちこち照らして気を紛らわせていると、やがて奥の方に何かが目に入った。

 気になって近寄ってみると、それはどうやら何かの祠みたいだ。
 それはとても古く荒れ果てていて、滅多に来訪者などいないことがわかった。

 寒さに震えながら適当にお供え物をし、手を合わせながら、雨が上がるように、無事お家に帰れるようにとひたすら祈りを込める。
 程なくして雨がやみ外に出ると、崖の上から見えたのは、島の雄大な自然とその上に架かった見たことないほどの大きな虹だった。

 その後くたくたになりながらやっとの思いで家までたどり着いたわたしは、両親からこっぴどく叱られたにもかかわらず、再びあの祠のある所まで向かった。
 やがて、何度も足を運んでいるうちに段々道も分かるようになっていって、今や月に数回のペースで洞穴を訪れるほどだ。

 崖から見える素晴らしい景色には確かに心惹かれるけれど、それ以上に、暗闇の中ポツンとたたずむあの祠がどこかもの悲しげに思えて、つい何度も足を向けてしまうのだった。

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 そんなわけで、今日も洞穴に辿り着いた。
 スマホをライトモードにすると、いつものように奥まで向かう。隅っこにカバンを置いて前に立ち、そっと手を合わせる。

 それからじっと黙り込む祠に向かい、今日学校で起こったことをゆっくりと語りかけた。

「休み時間に、友達が言ったんだけどね。今度、バレー部が本土まで遠征に行くんだって。もう十年連続なんだよ、凄いよね。それから、紅葉ちゃんも展覧会が近くて、週末には色んな場所に撮りに出掛けてるみたい。あーあ、今からでも何か部活、始めたほうがいいのかなぁ」

 小さく零した呟きは、静かな洞穴中に大きく反響する。
 もちろん、何か返事が来たりするはずもない。

 けれど、不思議と祠に話し掛けるだけで、すっと胸の中が晴れやかな気持ちになった。

「また来るね」

 それから後も色々と話し込み、満足すると足元に向け軽く一礼する。
 そして仄かな光の射す出口まで駆け足で戻った。
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