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マーガリーフォレスト編

プロローグ

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「ぐぬぬ…まだだ!まだ終わっちゃいねえ!」

「ほう。ならまたやるか?」

「当たり前だ!!次こそは…次こそはお前をボコボコにしてやる!!!」

「あまり大声を出すと近所迷惑ですよ、ジュリア」

 魔窟の件から2週間ほど後。冬がいよいよ本格的に到来し、温暖なこのレディスタ北部の街にも雪が見え始めた。

 雲の隙間から放たれる月の光が街を照らす。人も動物も皆身体を休め、雪の結晶だけがただいそいそと降り続ける。そんな美しい夜に、彼らは夜通しでカードゲームを楽しんでいた。

「はい終わり。…通算で120対0…どこかで見たような数字の組やな」

「なんでだよ!?いくら何でも強すぎだろ!!」

「お前はカードの切り方が下手なんだよな」

「にしても0勝はないって!!カードゲームの醍醐味の運要素はどこだよ!!」

「で、もう一回やる?まだまだ時間はあるぞ」

 カードを切りながらニヤニヤしている黒髪赤目の男は火影 詠次ほかげ えいじといった。職業は傭兵、即ち雇われ兵であり、鉄糸や炎魔法を駆使して敵と戦う。

「当たり前だ!!今日こそは勝つまでやるぞ!」

 反対側で鼻息を荒くしながら机を叩くこの少女の名はジュリアである。白髪赤目、白のワンピースに透き通るような白い肌、そしてこれらが与える印象とは全く対照的な性格が特徴の傭兵であった。強力な魔法を使用する。

「早く寝た方がいいのでは?」

「うっせえ!こいつに勝つまでは俺の夜は終わらねえんだ!!」

「私も彼には勝てませんよ」

 丁寧口調で話す白衣を着たこの傭兵はヴィレーといった。才智に富み、様々な道具や情報を用いてサポートする頭脳派だった。
 …というより、彼らはヴィレーがまともに攻撃しているところを見たことがない、と言ったほうが正しいかもしれない。不思議な笑みを常に顔に浮かべる、そんな人間だった。

「…えっ…」

「あ、そうだったっけ。あんま戦っとらんから分かんないけど」

「…そもそも素人がプロに勝てる訳無いでしょう。彼はそのカードゲームで世界大会まで登った猛者ですよ」

「えぇ!?」

「あれ、話さなかったか」

「だからもう明日に備えて早く寝ましょう。私は寝たいです。いくら仕事が昼からとはいえ、夜更かしすると辛いですよ」

「…へへ…」

「ジュリア?」



「世界ランカーを倒せるチャンスが目の前に…燃えて来たぜ…」

 ここでヴィレー、頭を抱える。

「…ヴィレー、俺の部屋使ってええよ。ゆっくり寝てくれ」

「どうも。失礼します」












「…勝ったぞ!勝ったぞおおおおお!!!」

 ジュリアは叫びながら詠次のノートに書かれていた「128対0」の0をバツ印で消す。

「良かったな」

「俺は世界ランカーを倒したぞ!恐れ入ったか!ガハハハ!!!」

「はいはい。ならもう寝よか」

 詠次はカードを仕舞いながら時計を見る。もう既に3時を回っていた。

「…あいつも、もう寝とるやろな」

「叩き起こしに行くか?」

「ヴィレーのことじゃない。あと簡単に起こそうとするな」

「あ、マルル?」

「そう。ばあさんの所へ行くそうだ。
…話は覚えてるか?マルルがこの傭兵団に入る前も、ばあさんの家に通ってたってこと」

「当たり前だわ。俺は老人かっつうの」


 ジュリアが両足を机の上に置き、更にカードケースを頭の上に乗せてバランスを取る。

「でも不思議だよな」

「何がだ?」


「あいつのばあちゃん、歩くどころか走るのにも困らないくらい元気だって話なんだろ?
 …その、お前が言う通りならさ、今までずっとマルルに来させてることになるじゃん。良く分かんないが、普通、たまには自分の方から会いに行こう、とか思うんじゃないか?」


「…確かに。まあ、何か特別な理由があるのかもしれん。それも人に見せたくないものが。
 ただ、わざわざそれを俺達が詮索する必要はないな」

「ちなみにお土産を貰おうという魂胆がある」

「だと思った!」













 夜の列車。雪が降りしきる夜、まるで映画のワンシーンのような風景を車窓に収め、列車は走る。
 分厚いコートを着たただ一人の乗客が、目を瞑りながら隣の席に倒れ込む。白と緑の毛が宙に舞い、月の光に照らされて雪と同化した。



 彼女の名はマルル・ベリー。狐の姿をした、獣人の傭兵である。
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