上 下
35 / 49

34 復讐のやり方はいろいろあります。 by魔法薬師コニー

しおりを挟む
 


「「!?」」

 その瞬間、コニーとマリウスの顔がギョッッッとした。
 二人は一瞬時が止まってしまったかのように身をこわばらせて。唖然とスタンレーの顔を見つめている。

「………………え……? い、ま……え?」

 しばしの沈黙のあと……青い顔のマリウスが、ガタガタしながらスタンレーをブルブル指差す。
 彼に“聞き間違えか?”と問うような視線を向けられたコニーは──目を点にしたまま、動かない。おそらくまだ呼吸も止まっている。
 そんな二人に怪訝そうなのは、当人スタンレー。

「? にゃん?」

 沈黙する二人に、狼顔の男がキョトンとした表情で、もう一度そう鳴いた──瞬間、限界を迎えたマリウスの口がぶっと噴き出した。
 青年はもう堪らんという顔で、身を折り、そこでやっとスタンレーも己の鳴き声の異変にハッとした。

「にゃん!? なぁあああああ!?(な──なんなんだこれは!?)」

 立ち上がって叫ぶスタンレーに、マリウスはゲラゲラ笑い倒している。

「ちょ、だ、だめだ! ひ、ははははは! もう俺スタンレー様の言葉分かんない! 猫語だから!!」

 あーははは! と、遠慮なく容赦なく笑う従弟を、スタンレーが壮絶に睨んでいる。そんな恐ろしい形相にも臆することないマリウスは涙を流すほどに笑って、

「ちょ、ど、コニーちゃんこれどうなってるの!? あはは、どうしたら治──……」

 ……と──青年は。
 そこで、長椅子の傍に膝をついたまま、シン……としているコニーの表情に気がついた。
 コニーの顔は白かった。その口元が弓形に薄く笑っているのに気がついて……マリウスが笑いを吞み込む。
 コニーはどこか一点を見つめたまま、ひっそりと笑んでいる。……しかし目がカケラも笑っていないのだ。
 その細められた瞳に殺気がたぎっているように見えて──マリウスが引きつった。

「コ、コニーちゃん……?」
「にゃ──? にゃん? (どうかしたのか?)」

 ゲラゲラ笑い転げていたかと思ったら、急に上擦った声を出すマリウスに、スタンレーも何やら不穏なものを感じたらしい。従弟を睨むのをやめ、己の鳴き声の異常も後回しにし。スタンレーは不自然に微笑んでいる娘の顔を覗き込んだ。
 と、コニーは、そんな男たちを見上げ、ここ一番のいい笑顔で言った。

「……やっぱり……あの魔法使い、もうちょっと痛めつけてきましょうね?」

 そうして「さてと」と、なんでもないことのように立ち上がった娘は、その辺に散歩にでも行くような朗らかなテンションで団長室を出て行った。

「え……?」
「にゃ……?」

 それを唖然と見送った男たちは──しばし顔を見合わせていたが──
 閉められた扉の向こうから……

「あれ? コニーさん? 予備の杖なんて持ってどこ行くんですか? あれ? そのすごい色のものは……毒?」

 ──と、いうフランソワの不思議そうな声が聞こえて。男たちはやっとハッとした。

「っコニーちゃん! 待って!」
「にゃっ! (ヒヨコ頭!)」

 ──二人は、慌てて団長室を飛び出して。
 廊下の先で、据わった目で腕いっぱいに、何やら毒々しい色の小瓶を抱えたコニーを、必死で捕まえたのだった……




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたけれど獣人と仲良くなり楽しく暮らせています! ~穏やかライフは良いですね~

四季
恋愛
婚約破棄されたけれど獣人と仲良くなり楽しく暮らせています!

元悪徳領主の娘ですが、蛮族の国に嫁いで割と幸せにやってます

みなかみしょう
恋愛
ルルシア・グランフレシアの実家は、悪徳領主である。 とても悪い領主なので、ある日突然、世間から断罪された。 それはもう、しっかりと。 両親の悪行に頭を悩ませていたルルシアは、学院でその報を聞き、絶望した。 「せめて卒業してから投獄してくださいまし!」 しかし、時計の針は止まらない。 目の前に突きつけられたのは、貴族令嬢の使用人か、蛮族と呼ばれる人々の住まう国へ嫁ぐこと。 彼女は思った。罪人の娘として暮らすより、他国へ嫁いだ方がマシでは? そんな一縷の望みにかけて、ルルシアは嫁ぐことを選択する。 覚悟を決めて嫁いだ先で待っていたのは、思ったよりも、悪くない生活。 穏やかな夫と、静かな田舎の風景、それとちょっと厄介な出来事の数々。 「邪魔者扱いされないように、頑張らないとですわ!」 居場所を失った悪徳領主の娘が、居場所のために頑張る日々が始まった。 ※だいたい三万字いかない程度で完結します。

「ばらされたくなかったら結婚してくださいませんこと?」「おれの事が好きなのか!」「いえ全然」貴族嫌いの公爵令息が弱みを握られ令嬢に結婚させら

天知 カナイ
恋愛
【貴族嫌いの公爵令息が弱みを握られ、令嬢と結婚させられた結果】 「聞きましたわよ。ばらされたくなかったら私と結婚してくださいませんこと?」 美貌の公爵令息、アレスティードにとんでもない要求を突きつけてきた侯爵令嬢サイ―シャ。「おれの事が好きなのか?」「いえ、全然」 何が目的なんだ?と悩みながらも仕方なくサイ―シャと婚約したアレスティード。サイ―シャは全くアレスティードには興味がなさそうだ。だが彼女の行動を見ているうちに一つの答えが導かれていき、アレスティードはどんどんともやもやがたまっていく・・

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄の話し合いの帰り道、傷ついた獣人を拾いました。~その獣人を傷つけていたのは意外な人で……!?~

四季
恋愛
婚約破棄の話し合いの帰り道、傷ついた獣人を拾いました。 そして後に判明するのだが。 その獣人を傷つけていたのは意外な人で……!?

旦那様はチョロい方でした

白野佑奈
恋愛
転生先はすでに何年も前にハーレムエンドしたゲームの中。 そしてモブの私に紹介されたのは、ヒロインに惚れまくりの攻略者の一人。 ええ…嫌なんですけど。 嫌々一緒になった二人だけど、意外と旦那様は話せばわかる方…というか、いつの間にか溺愛って色々チョロすぎません? ※完結しましたので、他サイトにも掲載しております

処理中です...