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23 五日目の出会い①
しおりを挟む五日目。材料の下処理が終わり、とうとう薬の調合がはじまった。
こうなるとコニーは一層忙しくなって。
従騎士たちは作業場に立ち入り禁止となった。
唯一コニーの世話を任されたフランソワだけが入室を許されたが、そんな彼でも作業台の周りは危険と近寄ることを禁じられる。コニーは普段とても柔和だが、そういうところは厳しかった。
さて。子熊の従騎士が心配そうに見守る中で、魔法薬師の顔をしたコニーは作業台の上に魔法陣を敷いて、その上に鍋をつるし、魔法の炎で緑色の液体を煮ている。
真剣な顔のコニーは、時々呪文を唱え、鍋をかき混ぜ、魔法陣に炎の結晶石をくべたりと忙しい。
陣の上で結晶石がはぜると、その度炎が上がり結晶がキラキラと赤く輝いた。
フランソワはそれを興味深そうに見ていた。
作業場はなんとも言えない不思議な匂いが充満していて。コニーはもう早朝から数時間ずっとこの調子。
初めて目にする光景は面白くていいのだが……フランソワは、もうそろそろ休憩してはどうかとコニーを心配していた。だが、彼女の目はいつになく真剣で。とても話しかけられるような雰囲気ではなかった。
そうして昼を過ぎ──しばらく時間が過ぎた頃。
片時も鍋から目を離さなかったコニーがやっと視線を上げた。
「ふう……」
緊張し、ずっと息をつめていたのが苦しかったのか、コニーはため息と共に襟巻きを緩める。深呼吸をしていると作業場の扉が開き、ちょうどお茶用の湯を取りに行っていたフランソワと目があった。
「あ! コニーさん!」
鍋から離れ、肩を回しているコニーを見た来た少年は嬉しそうにやってくる。
「フランソワ」
「おつかれさまです、大丈夫ですか? だいぶん長時間作業したから疲れたでしょう? お茶にします? あ、それよりお昼ご飯……あ、わ……っ」
にわかに慌てだした少年に、コニーは小さく笑う。
「ありがとう、大丈夫よ」
と、言った途端。コニーのお腹が、ぐぅ……と鳴って。
「!」
「あ」
顔を見合わせた二人は。──次の瞬間弾けるように笑いあった。
「ごめんねフランソワ、気がつかなくて……」
二人仲良く並んで座った中庭のベンチ。コニーはパンを手に隣のフランソワに頭を下げる。
彼女の隣に腰を下ろしたフランソワは、器とスプーンを手にもぐもぐと口を動かしている。
どうやら……彼もコニーと共に昼食を取るつもりでいて、結局食べ損ねていたらしい。
それを聞いたコニーは驚いて。さすがの没頭魔のコニーもこれはまずいと慌て、彼にこれ以上の迷惑をかけることを避けるべく、一度しっかりと作業から離れようと二人で作業場を出て来た。
はじめは食堂で食事をとらせてもらうつもりが、生憎と食堂は清掃中。仕方なく二人は中庭で遅い昼食と相成った。
「お腹すいたでしょう? 次からは待たないでいいからね? ううん、これからはどうしても手を話せない時以外は私もきちんとご飯の時間を気にする……ごめんね?」
従騎士の彼とはいえまだ子供の彼にひもじい思いをさせてしまったことを反省したコニーが重ねて謝ると、フランソワはにこりと笑う。
「いいえ。僕、コニーさんと一緒に食べたかったんです」
「フランソワ……(天使……)」
コニーがじぃんと感じいっていると、フランソワはそれにと言う。
「コニーさんのお仕事も、見ていてとっても楽しかったんです。僕たち普段そんなに魔法って見ることないから」
いろいろ知りたいと言うフランソワ。興味津々のイキイキとした瞳に、コニーが嬉しそうに微笑む。と、そんな彼女に「でも」と少年は言葉を強める。
「コニーさん、ご飯はなるべく規則正しく食べましょうね?」
「……はい」
すみませんとコニー。
と、そんな時だった。
「……あら……?」
誰かの声がした。
「?」
コニーの手が反射的に食事のために下ろしていた襟巻きを引き上げて。二人はベンチに座ったまま横を見る。
──と、視線の先に、見慣れない人族の女性が二人と魔法使いふうの男が一人。
どうやら外部からの来客のようだった。
女性のうち一人はどこかの令嬢のようで、他の二人は彼女が引き連れて来たらしい。
令嬢は見るからに上質な服を身に纏っている。愛らしい顔に長い睫毛。柔らかそうな栗毛にグレーがかった淡いすみれ色の瞳と……可憐を絵に描いたような娘だった。お付き女性らしい人が手に持っている夏用のツバの大きな美しい帽子はきっと彼女のものだろう。それを被ったらさぞ様になることだろうなぁ……と思ったコニーはちょっとうっとり美少女を眺めたが……
令嬢から向けられる目は冷たかった。そのじろじろと遠慮のない視線には、やや惚け気味だったコニーも戸惑った。
コニーがおそるおそる会釈をすると、隣でフランソワが、あ……という顔つきをした。どうやら彼女たちの身元について何か心当たりがあるらしい。
しかし、コニーが彼に何かを聞く前に、令嬢が愛らしい眉間にシワを寄せて言う。
「……ちょっと、どういうこと? どうして騎士団本部に女がいるの?」
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