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3.エイミーという名の少女

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「エイミー、新しい魔法陣はあるかい?」

 扉を開けて、魔女のテルマが入ってくる。

「テルマさん! わざわざどうしたんですか?」
「あんたの魔法陣が人気なんだよ。あるだけ売っておくれ」

「ええええ、信じられない。今までほとんど売れなかったのに」
「まあ、ね。これぐらいの呪いがちょうどいいって人もいるってことだね」

「今あるのはこれで全部です」
「ありがとう。代金と、これ」

 テルマが金貨と髪の束をくれる。

「こんなに! いいんですか?」

「いいんだよ。こっちも儲かってるからさ。あんたももっとたくさんお食べよ。相変わらずガリガリじゃないか。ちゃんと食べてんのかい?」

「えへへ、最近厳しくって。森の果物とか、パン屋の捨てるパンもらって食べてたの」

「ダメじゃないか。若い子は肉食べなきゃ、大きくなれないよ。そんな真っ平らな胸じゃ、男も寄ってこないよ」

「ひどい、テルマさん。気にしてるのに」

 エイミーは胸を両手で隠した。

「ははは、ごめんごめん。大丈夫、これからきっちり食べればそれなりに育つさ。あんたの母さん、立派なもの持ってたじゃないか」

「間に合うかな……」
「毎日たまご食べて、牛乳飲みなさい」

「はい!」


***


 エイミーは魔女だ。魔法陣を作るのが仕事だ。

 母さんも魔女だった。母さんは薬草から薬を作るのが得意だった。エイミーは薬はさっぱり作れないけれど、その代わり魔法陣が得意だ。


 魔法陣界隈では、エイミーの評判はよろしくない。

「あんた、まーだあんなチンケな魔法陣作ってるわけ? 才能ないのよ、やめちゃいなよ」

 攻撃魔法を強化する魔法陣が得意で、騎士団のお抱えになってるミランダにはよくバカにされる。



「あんな地味な魔法陣、買う人いるの? どんな人が買ってくれるの? 想像もつかないわあ。わたしなんてね、この間エイデン殿下からお褒めの言葉を賜ったんだから。エイデン殿下、すっごく素敵なのよね~。ああ~あんな人に抱かれたい」

 転移の魔法陣を専門にするドナは、エイミーにいつも自慢を垂れ流す。


 そりゃあ、エイミーだって威力の強い魔法陣を作ってみたい。でも無理なのだ。魔法陣を作るにも魔力がいる。エイミーの魔力はそれほど強力ではない。

 だから、エイミーはささやかな呪いの魔法陣を作る。だって、誰もが誰かを殺したい訳じゃないと思う。そんな強い呪い、怖いじゃないか。もし呪いが失敗して、自分に返ってきたらおしまいじゃないか。


 失敗しても、あーあ、のひと言で済む。成功したらちょっとだけ胸がスッとする、そんな魔法陣があってもいいと思う。きっと。


***


 初めて作った魔法陣は黒歴史だ。母にも誰にも言っていない。墓場まで持っていく秘密だ。

 以前、近所にスケベな男の子が住んでいたのだ。ビルはしょっちゅうエイミーのスカートをめくったり、つるぺたの胸を触ったりした。

「ビル、いい加減にしないと、呪いをかけるよ!」
 
 またスカートをまくられて、エイミーは切れた。

「へーん、やってみろよ。お前にどんな呪いがかけれるってんだ。たいした魔力もねーくせに。心配すんな、大人になったら俺の愛人にしてやる。嫁さんはおっぱい大きい方がいいからな。お前は予備だ」

「最低! 覚えておきなさい」

 エイミーはワナワナ震えながら家に帰ると、猛然と魔導書を調べ始めた。

「ふんふん、頭と股間に血液が集まってきたときに、その熱を感知してと。その熱から風魔法につなげて、登録した声が流れるようにすればいっか。登録する声は……」

 エイミーは胸はないが、知識はあった。目にもの見せてやる。力がたぎった。


 数日後、こっそりビルの靴下を洗い場から盗んだ。しつこくビルを尾行し、望みの声も魔石に登録した。


 エイミーは全力で魔力を流す。魔力枯渇寸前にまで陥ったが、魔法陣は美しくきらめいた。

 エイミーは木の上で、ビルの部屋を監視する。ビルが何やらモゾモゾし始めた。

 エイミーはニンマリする。いよいよだ。

「母さーん」

 ビルの大きな声がどこかで響く。ビルは集中しているようで、気づいていない。

 バーン ビルの部屋の扉が開いて、おばさんが立ってる。おばさんはポトリと持っていた麺棒を落とすと、何やら怒鳴りつけて扉をしめる。

 呆然としたビルが見えた。

「ざまあみろ」

 エイミーはスルスルと木から降りると、『自慰をすると終了間際にかならず知り合いに乱入される』魔法陣を戸棚の奥深くにしまった。



 それ以来、ビルはエイミーを避けるようになった。




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