上 下
58 / 100

58.メアリー様

しおりを挟む
 ようこそいらっしゃいませ、メーーーーー。ななな、なんですの、その仮面は!?

 はぁ、仮面がお好きなのは分かりましたわ、落ち着かないですから、外してくださいな。
さぁ、メアリー様、おせんべいの盛り合わせと番茶ですわ。


 なるほど、前世でヴェネツィア・カーニバルに行かれて、仮面の虜になられたのですね。ははぁ、非日常感、微かな背徳感、絶妙なチラリズム、匂い立つエロス、至高の存在であると……。まぁ。


 仮面が日常的に使える中世ヨーロッパ風世界に転生できて、毎日が夢のよう? 毎朝、転生への感謝の祈りを捧げていらっしゃるの?


 ええっと、仮面を日常的に使うというのは一体……? え、ほぼ毎日、仮面をつけていらっしゃるのですか? 屋敷の至る所に鏡をつけられて、仮面姿をニヤニヤして見てらっしゃるの? ……ちょっとしたホラーですわ。


 あの、ご家族や使用人はどのように受け止めていらっしゃるのかしら? パニック。なるほど。今は諦めている……。そうですか……。


 まぁ、舞踏会用の仮面を見せてくださるの? まぁ……こんなにたくさん……? 仮面舞踏会が少なくとも月二回? まぁ、どおりで……。


 おや、これは能面の小面ですわよね? まぁ、お抱えの職人に作らせたのですか。あの、舞踏会で浮きませんでしたの? それは浮きますわよねぇ、会場の視線を独り占めですわよね……。退廃的で仄暗い煌めきに包まれた会場に、そっと浮き上がる能面。……刺激的ですわ。

 
 まぁ、仮面舞踏会に対する批判の声が上がっているのですか? 風紀が乱れていると? あら、乱れておりますの? ほう、それなりにオイタをしている人たちもなきにしもあらず……。そうですわね、仮面をつけると羽目を外したくもなりますわよねぇ。


 それで、どなたが批判を? ええ、教会……? それは厄介ですわ。批判の芽はなるべく早く摘まないと、強権を発動されてしまいますわ。えぇ、仮面舞踏会を禁止されるのは阻止しなければなりませんわ。


 いぇ、メアリー様、教会との全面戦争はなりませんわ。うまく絡め手を使わなくては、のちのち禍根を残すことになりますわ。そうですわねぇ、要は金を握らせて黙らせればよいのでしょうけれど……。あまりにあからさまですと、教会側も反発するでしょうしねぇ……。


 あぁ、そうですわ、ごく自然にお金を流せるイベントがございますわ。仮面舞踏会でオークションを開催いたしましょう。聖女が祈りを捧げた仮面、孤児たちの手による仮面、教会の地下から発見された仮面、聖典に記されている仮面。これらをオークションにかけるのです。適度にお酒が入った貴族たちですから、飛ぶように売れますわよ。


 はい、売上の一部を教会に渡せばよろしいですわ。いえ、まさか全部差し出す必要はございませんわよ。会場運営費、孤児に仮面作りを教える費用など、諸経費がかかりますでしょう? メアリー様が仮面舞踏会オークション運営委員長として管理なさればよろしいですわ。


 資金を元手に、仮面作りを領内の主要産業に育てればよろしいわ。雇用の創出、市場の活性化、観光客の誘致、領地のブランディング、建前は作ればよいのですわ。メアリー様は領地の顔として、堂々と仮面で生活できますわ。

 


 新しい生活様式。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

婚約破棄をしてくれた王太子殿下、ありがとうございました

hikari
恋愛
オイフィア王国の王太子グラニオン4世に婚約破棄された公爵令嬢アーデルヘイトは王国の聖女の任務も解かれる。 家に戻るも、父であり、オルウェン公爵家当主のカリオンに勘当され家から追い出される。行き場の無い中、豪商に助けられ、聖女として平民の生活を送る。 ざまぁ要素あり。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

【短編】悪役令嬢の侍女 〜ヒロインに転生したけど悪役令嬢の侍女になりました〜

みねバイヤーン
恋愛
リリーは乙女ゲームのヒロインである。侍女として、悪役令嬢のクロエお嬢さまに仕えている。クロエお嬢さまには孤児院から救っていただいた大恩がある。生涯仕える覚悟である。だからってねー、広大な公爵家の敷地で指輪を探すなんて、そんなこと許しませんからね。ワガママお嬢さまをうまく誘導するのも侍女の務め。お嬢さまと猛獣使いリリーの戦いが繰り広げられる、そんな平和な日常を描いた物語。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

処理中です...