【完結】悪役令嬢のカウンセラー

30．トリシア様

　ようこそいらっしゃいませ、トリシア様。わたくしがエリザベートですわ。

　えぇ、おにぎりとお味噌汁ですわね。かしこまりました。


　……どうなされたの、トリシア様？　震えていらっしゃるようですが。梅干しが酸っぱすぎましたかしら？


　え、革命？　革命を起こしたいのですか？　お料理革命ですかしら、それとも下着革命かしら？　ええっ、王侯貴族や教会から権力を奪って民主主義国家を作りたい……？　まあ……。


　ええ、はい、なるほど。税金が高く、平民は一生貧しいままで、搾取されている。王侯貴族や教会や一部の富豪だけが富を貪っている。えぇ、よく分かりますわ。どこの世界にも似たような問題がございますわ。


　そうですわねぇ、トリシア様はフランス革命でどれくらいの人が亡くなったかご存じですかしら？　十万人、百万人、一千万人、どれくらいだと思います？　五十万人ぐらい？　五十万人というと、鳥取県と同じくらいの人口ですわ。いえ、フランス革命では死者二百万人と言われておりますわ。長野県や栃木県の人口ですわ。


　トリシア様のお国の人口がどれくらいかは分かりませんが、もし革命を起こしたら、少なくとも数万人の命が消えますわ。トリシア様の好きなパン屋のおばさんも、肉屋のおじさんも、トリシア様の侍女の家族も……。トリシア様にその死を背負う覚悟はございますか？


　トリシア様って会社を経営されたことございます？　ない？　一般の平社員でしたのね。学校で生徒会長や部長は？　ありませんのね。もし奇跡的に無血革命ができたとして、国の運営はどうなさるおつもりなの？　え？　誰かにやってもらう？　その方が現状より優れた政治ができるという根拠はありますの？


　えぇ、分かりますわ。政治家は無能に見えますわ。王も貴族も腐敗しきって、上をすげ替えたらどれほど簡単に国がよくなるか、そう思ってしまいますわ。


　トリシア様のお国は、隣国との関係はよろしくて？　友好なんですね？　では、隣国のさらに向こう側との関係は？　あぁ、帝国なんですね、隣国と共に帝国に立ち向かってきた歴史がおありになると。


　トリシア様のお国で無血革命が起こったとして、隣国や帝国は黙って見ているのかしら？　内輪で揉めている国があれば、手を出したくなってしまわないかしら？　侵略されたら、さらに多くの民が亡くなりますわ。生き残っても、今より厳しい生活になるのでは？


　そうですわ、ええ、急がば回れと言いますでしょう。まだ他にできることがあるはずですわ。文句を言うのは簡単ですわ、でもいざ自分がやるとなるとねぇ……。百人をまとめるのも大変ですのに、数十万人を統治するとなると、とてもとても……。


  えぇ、まだまだ学ぶことがたくさんありますわ。優秀な人を引き入れないといけませんわ。今無能なように見える人でも、仕組みが変わればできるようになるかもしれませんし。


　数万人の死を背負うことに比べれば、大概のことはなんとかなりますわよ。


　えぇ、そうですわ。

　命大事に。