【完結】悪役令嬢のカウンセラー

29．ネフティス様

　ようこそいらっしゃいませ、ネフティス様。わたくしエリザベートと申しますわ。


　焼き肉定食とビールですね、はい、かしこまりま……せん。ちょーっとお待ちになって、ネフティス様、あなたおいくつでいらっしゃるの？　え？　三十五歳？　いえ、前世ではなく、今世です、今、今だよ。


　六歳？　小学一年生！　ビールはいけません。ノンノン。えーではありません。子供の体にアルコールはご法度です。んもうー、仕方ないですわねぇ、ノンアルビールをお出ししますわ。これ以上の譲歩はできませんことよ。


　えぇ、それで、今日はいかがなさいましたの？　まあ、ふむ、ええ、その通りですわ、分かりますわ。あーねー、それな、ですわ。


　分かります。転生して何がいちばん辛いって、マンガが読めないことですわよね。完全に同意ですわ。マンガ、それは日本が世界に誇る至宝。神による信者への施し。信者はせっせとお布施をし、神の次なる作品の誕生を夢見るのですわ。新作の発売日が生きるよすがなのですわ。


　うううう、もう読めないわたくしの数々の聖典たち。脳内で続きを妄想するだけの日々。心が張り裂けそうですわ。


　はっ、失礼いたしました。つい、タギってしまいましたわ……。


　えぇ、なんとかしなければなりませんわ。ネフティス様の人生、これから先まだまだ続きますもの。ノーマンガ、ノーライフですわよ。


　これはね、もうね、ネフティス様が描くしかない、うん。ええーだって、マンガの知識があるのはネフティス様だけではありませんか。え？　絵心がない？


　うーん、そうですわねぇ、でしたらネフティス様はネームを描きましょう。ネームなら棒人間でもなんとかなりますでしょう？　えぇ、絵心のある人を募集すればよろしいわ。そうですわねぇ、きっと宗教画みたいな写実的な絵になるのでしょうね……。でも、それはそれで、ありですわよ。えぇ、荘厳なマンガになりそうですわ。ふふふ。


　ええ、ネタはどうすればですか？　それは、まぁ、ね、著作権についてはね、異世界ということで、ノーカンということで？　えぇ、そうですわよ、ネフティス様がお好きなマンガをちょーっとゴニョゴニョして、切ったり貼ったり、縮めたり、合体させたりして……そう、いい感じに！


　
　ええ、そうですわ。オマージュですわ。インスパイアですわ。リスペクトですわ。