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10.ベアトリス様

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 ようこそいらっしゃいませ、ローゼリンデ様。わたくしエリザベートと申しますわ。

 
 さあ、どうぞお座りなってくださいな。そうそう、新鮮な魚を入手できましたのよ。もしよろしければ、お寿司はいかがかしら?

 
 え、お寿司とは何か、ですか……。そうですね、生の魚を使った東方の国のお料理ですわ……。ええ、もちろんですわ、生魚を食べることに抵抗がありますわよね。


 ローゼリンデ様を驚かせてしまって、申し訳なかったですわ。さあ、どうぞ。お茶と焼き菓子ですわ。ふふ、サックリとしておいしいですか? お口にあって嬉しいですわ。


 ローゼリンデ様は、第一王子殿下の婚約者でいらっしゃるのですわよね? そうですか、王妃教育がお忙しい中こちらにいらしていただけて光栄ですわ。まあ、ベアトリス様はお元気でいらっしゃるの? そうですか、今はローゼリンデ様の侍女見習いをされていらっしゃるの。ええ、ええ、大変なご苦労をされて、ローゼリンデ様の国に……ご無事でいらっしゃったのですね……。


 そう、ベアトリス様がローゼリンデ様にわたくしのことを……。無礼な男爵令嬢にお困りになっていらっしゃるのですね。具体的にはどのような?


 まあ、王妃教育の時間を減らして第一王子殿下との時間を増やすべき……秋の豊穣祭にお忍びで城下へ……義理の弟君の悩みを聞いてほしい……お父上である公爵閣下の税務処理を確認しては……そのような進言をローゼリンデ様に?


 まあ、それはあまりにも大胆な……いえ、不躾な物言いですわね。ローゼリンデ様はさぞ困惑なさったのでは? ええ? あまりにも無礼だから、内々に処断を命じようと? それをベアトリス様がお止めになったのですわね。まあ。



 そうですわね。男爵令嬢を処分なさるのは、時期尚早ではないでしょうかしら。そのー、男爵令嬢は微量ながらも聖なる魔力をお使いになるのでしょう? 民や兵士から人気が高いのですわね?


 素行の悪かった騎士団長の息子が男爵令嬢につきまとっている? 男爵令嬢は逃げ惑っている? まあ……そのー、あのー、第一王子殿下と男爵令嬢は……


 そうですの、男爵令嬢は第一王子殿下がいらっしゃる場所には一切現れないのですね。ただ執拗にローゼリンデ様にまとわりついてくると。


 僭越ながら、ローゼリンデ様は懐の深い貴婦人でいらっしゃると愚考いたしますわ。素性の確かではないベアトリス様に助けの手をむけられましたもの。ええ、ベアトリス様はローゼリンデ様に忠誠を誓っていらっしゃると思いますわ。


 いかがでしょう? 男爵令嬢も懐に囲ってしまわれては? 元平民ということですので、礼儀がまだおぼつかないでしょうし、身分が上のローゼリンデ様との距離感がおかしいのは、おいおい躾けていけばよろしいのでは?


 ええ、切って捨てるのはいつでもできますもの。民に人気のある聖女の卵を遠ざけるのは悪手ですわ。取り込んでしまうのが最善ですわ。


 そうですわね、ただおそらくですが、男爵令嬢から魅了の魔術が漏れ出しているのではないかと。ええ、騎士団長の息子の行動は腑に落ちませんわ。男爵令嬢自身にはどうしようもできないかもしれませんわね。香りの高い花には、ハチは吸い寄せられてしまいますもの。花にはどうすることもできませんわ。


 ですので、男爵令嬢は殿方からなるべく遠ざけておくことですわ。そうですわ、特にローゼリンデ様に近しい殿方には一才接触させてはなりませんわ。無用な争いや誤解を生むだけですわ。こっそりと隠すように、男爵令嬢をローゼリンデ様の庇護下に置いてくださいませ。


 国母となられるローゼリンデ様にとって、全ての民は子供のようなものではありませんか。ええ、馬鹿な子ほどかわいいと申しますでしょう? ローゼリンデ様の役に立とうと尻尾を振っては寄ってくる子犬ですわ。躾をしつつ、かわいがってあげてくださいな。


 次回はベアトリス様と男爵令嬢も一緒にいらしてくださいな。楽しみにお待ちしておりますわ。




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