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9.80日目

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 叩かれたショックで記憶があいまいなイグワーナです。元々興味ないことはすぐ忘れる体質なので、特に変わりないなと思い直したイグワーナです。打たれ強い! 八十日目ー!


 しかし、ペレグリーノ王子ー。

「中央教会の地下墓地の奥の奥のそのまた奥に、王家の秘密が隠されているという噂があります」

 おいおいおいおい、勘弁してくれよ、なんつーガセネタつかませてくれてんの。おかげでガッツリ隔離されちゃったじゃねーかーい。


 まあ確かに、王家の秘密は隠されていた。そこは間違いではない。だってねぇ、地下墓地から陛下の部屋につながってるのは秘密だよね。うんうん。いざというときの避難経路かな? 王宮にはありがち。テヘペロってなるかー。


 私、今プライバシーはナッシング。皆無。新しい監禁部屋に入れられて、そこにずっと監視人がおる。しかも金に転ばない感じの、監視のプロって雰囲気の、とにかくイヤな奴らじゃー。


 キィィィィィーーー。
 トイレも扉開けてやるんだよー。そのときはさすがに女性監視人だけども。


 死んだ、私の外聞は死んだ。もうお嫁にいけない。まあ、死刑囚だからもう既に地に落ちてたんだけどね。



 そしてね、毎日めっちゃ暇。監視がすぐそばにいるから外出できないし、買い食いもできないし、シャワーも入れないし、本も読めない。

 ないないづくし、ないづくしー。


 とりあえず感謝の正拳突きはやるよね。あとは色んな筋トレ。髪の毛であやとり。バレたら困るから動かない抜け毛使ってあやとり。動かない三つ編みロープで縄跳び。

 ボルダリング、壁登りね、もやってみたけど、無理ー。指で自分の体重支えるとか絶対無理ー。爪がはがれるかと思ったわ。


 好き放題やってるけど、監視人はスルー。でも会話はしてくれないのよ。ただ見てるだけ。笑ってくれないかなーって思って、にらめっこの遊びやってみたけど、怒りの波動を感じたからやめました。こう見えて引き際は心得てる。どこがやって? うん、そうね、引き際見誤ってこうやって隔離されております。ぴえん。


 しかしだ、なにごとにも少しはいい面があると言いますよね。ええ、開発しました、新たなスキルをー。名付けて、他人の抜け毛も操れるスキル~、ドーン。

 どう、これ、来た、来たよこれ。


 暇だけど見る対象が監視人しかいないわけですよ。でもじろじろ見ると怒られるから、チラ見してたところ、監視人の肩に髪の毛ついてるのが見えたんだよね。私のじゃなく、監視人の抜け毛ね。


 ひらめいたのよ。もしかして、もしかするのではって。強く念を送ってみました。なんだか抵抗を感じました。さらに強く念じました。いやいやって伝わってきました。ふざけんな燃やすぞって思ってみました。陥落しました。チョロいな。


 抜け毛操りスキルは 他人の抜け毛も操れるスキルに 進化した!
 イグワーナは 新イグワーナに 進化した!

 イエーイ


 まだ自分の抜け毛ほどには操れないんだけども。とにかく強気でいけばなんとかなる。

 私のカミッコたちは、こんな感じで~、よろしく~って念じれば、はーいってやってくれるわけです。ツーカーよ。

 他人の抜け毛はね、おい、お前。お前だ、お前。こっち見ろ、俺が話してんだろ、イヤじゃねえ。やれ。とにかくやれ。燃やすぞ。…………はい。みたいなノリ。疲れる。

 まあ、時間はたっぷりあるから。がんばろう。





 そしてついに、コツを会得したぜ! どっせーい。

 いやーつきあってくれた監視人の皆さん、ありがとう。妙な空気だったと思うけど、スルーしてくれてありがとう。

 監視対象が自分をチラ見しながらずっと無言で気合い入れてたら、私なら逃げるね。だってどう考えても頭おかしいじゃん。

 仕事だから逃げれないのよね、ちょっと同情しちゃ、わねーわ。するわけねーわ。

 コツはね、気づけば呆気なかった。他人の抜け毛を見つけます。マイカミッコをさりげなく向かわせます。マイカミッコが他人の抜け毛をつかみます。以上、終了。


 え、それだけって思った? やめてーダメダメ、私がバカみたいじゃーん。

 え、私バカなのかな? いや、それは深淵だ。深淵はのぞいちゃいかん。鈍感力!


 ということでですね、素晴らしいひらめきでもって、他人の抜け毛ももはや自由自在ですわ。


 そして、さらにさらに、マイカミッコをどんどん他人の抜け毛とつなげることで、王都は完全に私の探知範囲内におさまった。そう、蜘蛛の糸を張り巡らせるように、抜け毛で全てを網羅したのだ。ふあーはっはっは。


 私は髪の神になった。カミカミだ。


 ふざけるのもそれぐらいにしてと、久しぶりの外出ー。わーい。




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