4 / 11
4.30日目
しおりを挟む
暗ーい気持ちで始まる三十日目……。
快適な牢屋におさらばし、監視の厳重な塔にドナドナされました。シクシク、毛布も本も捨てられちゃった。
新しいマイホームは、塔の一番上にある薄暗い部屋。窓は上の方にひとつだけで、私の身長では椅子に乗っても届かない。扉の外には看守が常に見張っている。その看守、残念ながらピリピリした雰囲気で、チョロさは皆無。ち、札束で顔をはったいても無駄そうだな。金貨しか持ってないけど。
私が意気消沈してる様を、わざわざ王子が確認しにきた。そして、ふんっと鼻で笑って出ていった。王子のやつー、性格が悪いにもほどがあるわ。くそー。
ざらざらと波立つ心を落ち着かせるため、感謝の正拳突きを始める。百回でぜーぜーした。これ一万回って無理じゃね。
ジョギングと正拳突きは違う筋肉を使うのね、よく分かった。
ヒーヒー言いながらベッドに腰かけると、外に放っていたカミッコたちがワラワラと集まってきた。ゆらゆらわいわいしながら、調べたことを教えてくれる。そう、念話のようなものです。元々自分の抜け毛ですから、なんとなく通じ合うのです。便利です。
そっか、看守ふたりは無事に追放になったのね。打ち首を回避できてよかったよ。カミッコに金貨渡してもらったから、なんとか元気でやっていってくれればいいな。
弱みを握っていた大臣に、秘密のお手紙を書いて裏からこっそり手を回してもらったのです。
「カミッコー、これ大臣に渡してきて~。大臣が読み終わったら手紙は粉々にしてね」
『おはよう大臣君。
看守ふたりの追放を確認した。
約束の機密文書を返してやろう。
私はまだまだ秘密を知っているよ。
看守ふたりと私の身に何か起こったら
王都中にばらまいてやる。
せいぜい命がけで守ってくれよ。
なお、この手紙は自動的に消滅する。
成功を祈る。
悪役令嬢イグワーナ』
はっはっはっ、がんばって守ってくれたまえ。マジで。
さーてお次は。
あみあみあみあみ、三つ編みあみあみ。ふっふっふっ、できました。抜け毛による長ーい三つ編みロープ。イグワーナの髪が長くて剛毛でよかったよ。毎日抜け毛を大事に保管しておいたのですよ。
古今東西のお姫様は自分の三つ編みを伝って、塔を昇り降りするって決まってるんですよ。
とうっ
かっこよく三つ編みロープを上の窓に投げました。むなしく落ちてきました。カミッコが気を使いながら、スルスル~っと三つ編みロープを持ってよじ登って、窓枠に引っかけてくれました。
「ありがとね」
お礼を言うとふわふわゆらゆらするカミッコ。かわいい。
「えいさっ えいさっ」
三つ編みロープを登るけど、遅々として進みません。体が重いし腕力がないので腕がプルプルする。あっ……足が滑って下に落ちる……と思ったら、三つ編みロープが私の腰にクルクルっと巻きつき、窓枠まで持ち上げてくれました。
「ええーそれできるなら最初からやってほしかったよー」
気まずい感じでピルっと震える三つ編みロープ。……そうか、気を使ってくれていたのか……。ともかく登れたわけで、素晴らしい成果である。
が、窓がかなり小さい。ぐいぐいねじ込まないと通り抜けないタイトなジーンズ感。服が、引っかかる~。
「ごめん、もっかい下に降ろしてくれる?」
三つ編みロープに降ろしてもらって、質素なワンピースを脱ぎ、産まれたままの姿に。
「カミッコー、おねがーい!」
サタデーナイトなフィーバーの決めポーズをとる私に、カミッコたちが巻きついていく。
「闇に生まれ闇に帰す、髪を操る漆黒の堕天使! ヘアリーブラック! 見参!!」
全身をピッタリと覆う漆黒の髪製ボディースーツ。気分はキャットウーマン。
凹凸がなくてさえない感じではあるが……。ないんペタンではあるが……。クッ、イグワーナ……悪役令嬢なのに幼児体型ってどういうことなの。
ともかく、準備は整った。さあ、行ってみようか。
カミッコの助けを借りて漆黒の堕天使であり、厨二病でもある私は、王宮でも最上位の警戒がしかれている部屋に忍びこんだ。不寝番の見張りはカミッコがキュッと首に巻きついて眠らせている。
サラリとした手触りの天蓋をくぐると、まだあどけない顔をしたガンディーヤ第二王子がスヤスヤと眠っている。
「殿下、殿下、起きてください……」
ペチペチとやや強めに頬を叩くと、長いまつ毛が重たげに持ち上がる。焦点の合わない瞳は、闇に浮かぶ私の目に気づいて恐怖の色を浮かべた。叫ばれないように、すかさずカミッコが王子の口をふさぐ。
「殿下、大丈夫です。あなたの義理の姉になる予定だったイグワーナです。私と手を組んでください。そうすればあなたに王位を献上しましょう」
激しく瞬きを繰り返す王子。恐慌に陥る五秒前ってところか。
「コケイーノ第一王子殿下と聖女マリワーナは私がいずれ排除します。あなたは黙って見ているだけで、王位がその手に転がりこみます。王位が欲しいですか? 欲しければゆっくりと瞬きしてください」
激しく瞬きを繰り返す王子。……あれ?
「殿下はもしや王位がいらない?」
ゆっくりと瞬きをする王子。……がーん。
マジかよ
快適な牢屋におさらばし、監視の厳重な塔にドナドナされました。シクシク、毛布も本も捨てられちゃった。
新しいマイホームは、塔の一番上にある薄暗い部屋。窓は上の方にひとつだけで、私の身長では椅子に乗っても届かない。扉の外には看守が常に見張っている。その看守、残念ながらピリピリした雰囲気で、チョロさは皆無。ち、札束で顔をはったいても無駄そうだな。金貨しか持ってないけど。
私が意気消沈してる様を、わざわざ王子が確認しにきた。そして、ふんっと鼻で笑って出ていった。王子のやつー、性格が悪いにもほどがあるわ。くそー。
ざらざらと波立つ心を落ち着かせるため、感謝の正拳突きを始める。百回でぜーぜーした。これ一万回って無理じゃね。
ジョギングと正拳突きは違う筋肉を使うのね、よく分かった。
ヒーヒー言いながらベッドに腰かけると、外に放っていたカミッコたちがワラワラと集まってきた。ゆらゆらわいわいしながら、調べたことを教えてくれる。そう、念話のようなものです。元々自分の抜け毛ですから、なんとなく通じ合うのです。便利です。
そっか、看守ふたりは無事に追放になったのね。打ち首を回避できてよかったよ。カミッコに金貨渡してもらったから、なんとか元気でやっていってくれればいいな。
弱みを握っていた大臣に、秘密のお手紙を書いて裏からこっそり手を回してもらったのです。
「カミッコー、これ大臣に渡してきて~。大臣が読み終わったら手紙は粉々にしてね」
『おはよう大臣君。
看守ふたりの追放を確認した。
約束の機密文書を返してやろう。
私はまだまだ秘密を知っているよ。
看守ふたりと私の身に何か起こったら
王都中にばらまいてやる。
せいぜい命がけで守ってくれよ。
なお、この手紙は自動的に消滅する。
成功を祈る。
悪役令嬢イグワーナ』
はっはっはっ、がんばって守ってくれたまえ。マジで。
さーてお次は。
あみあみあみあみ、三つ編みあみあみ。ふっふっふっ、できました。抜け毛による長ーい三つ編みロープ。イグワーナの髪が長くて剛毛でよかったよ。毎日抜け毛を大事に保管しておいたのですよ。
古今東西のお姫様は自分の三つ編みを伝って、塔を昇り降りするって決まってるんですよ。
とうっ
かっこよく三つ編みロープを上の窓に投げました。むなしく落ちてきました。カミッコが気を使いながら、スルスル~っと三つ編みロープを持ってよじ登って、窓枠に引っかけてくれました。
「ありがとね」
お礼を言うとふわふわゆらゆらするカミッコ。かわいい。
「えいさっ えいさっ」
三つ編みロープを登るけど、遅々として進みません。体が重いし腕力がないので腕がプルプルする。あっ……足が滑って下に落ちる……と思ったら、三つ編みロープが私の腰にクルクルっと巻きつき、窓枠まで持ち上げてくれました。
「ええーそれできるなら最初からやってほしかったよー」
気まずい感じでピルっと震える三つ編みロープ。……そうか、気を使ってくれていたのか……。ともかく登れたわけで、素晴らしい成果である。
が、窓がかなり小さい。ぐいぐいねじ込まないと通り抜けないタイトなジーンズ感。服が、引っかかる~。
「ごめん、もっかい下に降ろしてくれる?」
三つ編みロープに降ろしてもらって、質素なワンピースを脱ぎ、産まれたままの姿に。
「カミッコー、おねがーい!」
サタデーナイトなフィーバーの決めポーズをとる私に、カミッコたちが巻きついていく。
「闇に生まれ闇に帰す、髪を操る漆黒の堕天使! ヘアリーブラック! 見参!!」
全身をピッタリと覆う漆黒の髪製ボディースーツ。気分はキャットウーマン。
凹凸がなくてさえない感じではあるが……。ないんペタンではあるが……。クッ、イグワーナ……悪役令嬢なのに幼児体型ってどういうことなの。
ともかく、準備は整った。さあ、行ってみようか。
カミッコの助けを借りて漆黒の堕天使であり、厨二病でもある私は、王宮でも最上位の警戒がしかれている部屋に忍びこんだ。不寝番の見張りはカミッコがキュッと首に巻きついて眠らせている。
サラリとした手触りの天蓋をくぐると、まだあどけない顔をしたガンディーヤ第二王子がスヤスヤと眠っている。
「殿下、殿下、起きてください……」
ペチペチとやや強めに頬を叩くと、長いまつ毛が重たげに持ち上がる。焦点の合わない瞳は、闇に浮かぶ私の目に気づいて恐怖の色を浮かべた。叫ばれないように、すかさずカミッコが王子の口をふさぐ。
「殿下、大丈夫です。あなたの義理の姉になる予定だったイグワーナです。私と手を組んでください。そうすればあなたに王位を献上しましょう」
激しく瞬きを繰り返す王子。恐慌に陥る五秒前ってところか。
「コケイーノ第一王子殿下と聖女マリワーナは私がいずれ排除します。あなたは黙って見ているだけで、王位がその手に転がりこみます。王位が欲しいですか? 欲しければゆっくりと瞬きしてください」
激しく瞬きを繰り返す王子。……あれ?
「殿下はもしや王位がいらない?」
ゆっくりと瞬きをする王子。……がーん。
マジかよ
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの断罪シーンの夢を見たのでとりあえず王子を平手打ちしたら夢じゃなかった
月
恋愛
気が付くとそこは知らないパーティー会場だった。
そこへ入場してきたのは"ビッターバター"王国の王子と、エスコートされた男爵令嬢。
ビッターバターという変な国名を聞いてここがゲームと同じ世界の夢だと気付く。
夢ならいいんじゃない?と王子の顔を平手打ちしようと思った令嬢のお話。
四話構成です。
※ラテ令嬢の独り言がかなり多いです!
お気に入り登録していただけると嬉しいです。
暇つぶしにでもなれば……!
思いつきと勢いで書いたものなので名前が適当&名無しなのでご了承下さい。
一度でもふっと笑ってもらえたら嬉しいです。
【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました
hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。
そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。
「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。
王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。
ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。
チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。
きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。
※ざまぁの回には★印があります。
婚約破棄されたおっとり令嬢は「実験成功」とほくそ笑む
柴野
恋愛
おっとりしている――つまり気の利かない頭の鈍い奴と有名な令嬢イダイア。
周囲からどれだけ罵られようとも笑顔でいる様を皆が怖がり、誰も寄り付かなくなっていたところ、彼女は婚約者であった王太子に「真実の愛を見つけたから気味の悪いお前のような女はもういらん!」と言われて婚約破棄されてしまう。
しかしそれを受けた彼女は悲しむでも困惑するでもなく、一人ほくそ笑んだ。
「実験成功、ですわねぇ」
イダイアは静かに呟き、そして哀れなる王太子に真実を教え始めるのだった。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
転生できる悪役令嬢に転生しました。~執着婚約者から逃げられません!
九重
恋愛
気がつけば、とある乙女ゲームの悪役令嬢に転生していた主人公。
しかし、この悪役令嬢は十五歳で死んでしまう不治の病にかかった薄幸な悪役令嬢だった。
ヒロインをいじめ抜いたあげく婚約者に断罪され、心身ともに苦しみ抜いて死んでしまう悪役令嬢は、転生して再び悪役令嬢――――いや悪役幼女として活躍する。
しかし、主人公はそんなことまっぴらゴメンだった。
どうせ転生できるならと、早々に最初の悪役令嬢の人生から逃げだそうとするのだが……
これは、転生できる悪役令嬢に転生した主人公が、執着婚約者に捕まって幸せになる物語。
悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います
蓮
恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。
(あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?)
シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。
しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。
「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」
シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。
小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。
婚約破棄されたのたが、兄上がチートでツラい。
藤宮
恋愛
「ローズ。貴様のティルナシア・カーターに対する数々の嫌がらせは既に明白。そのようなことをするものを国母と迎え入れるわけにはいかぬ。よってここにアロー皇国皇子イヴァン・カイ・アローとローザリア公爵家ローズ・ロレーヌ・ローザリアの婚約を破棄する。そして、私、アロー皇国第二皇子イヴァン・カイ・アローは真に王妃に相応しき、このカーター男爵家令嬢、ティルナシア・カーターとの婚約を宣言する」
婚約破棄モノ実験中。名前は使い回しで←
うっかり2年ほど放置していた事実に、今驚愕。
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
【完結】黒ヒゲの七番目の妻
みねバイヤーン
恋愛
「君を愛することはない」街一番の金持ちと結婚することになったアンヌは、初夜に夫からそう告げられた。「君には手を出さない。好きなように暮らしなさい。どこに入ってもいい。でも廊下の奥の小さな部屋にだけは入ってはいけないよ」
黒ヒゲと呼ばれる夫は、七番目の妻であるアンヌになんの興味もないようだ。
「役に立つところを見せてやるわ。そうしたら、私のこと、好きになってくれるかもしれない」めげない肉食系女子アンヌは、黒ヒゲ夫を落とすことはできるのか─。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる