2 / 11
2.10日目
しおりを挟む
そうして迎えた十日目ー。
順調~順調~。さあ、ご覧ください、わたしの子どもたちを。
名づけて、カミッコー。
いえね、抜け毛をまるまるまるっと手で丸めてね、まっくろくろーなスケちゃんができましてね、それがなんと、わたしの言うことを聞くんですよ。すごくないですか?
スパイし放題、窃盗しまくりですよ。ふわふわゆらゆら漂いながら、どこにだって忍び込める。例えみつかってもただの髪の毛、女中にポイされるだけ。ありがたいことに、イグワーナは豊かで長い黒髪の持ち主なので、抜け毛に困ることがない。
ありがとう、ナイススキル! おかげさまで、初日に比べると圧倒的な快適監禁生活ですよ。
まずね、トイレ事情が改善しました! カミッコが運んできた金貨を、そっとアホの方の看守にあげまして。こっそり看守用のトイレを使わせてもらってます。やったね。
次、ベッドが囚人仕様から商人レベルにランクアップしました。カミッコが調達してきた糸や毛糸を使ってハンドメイドならぬ、ヘアーメイドですよ。ええ、織るのはわたしじゃない、カミッコだ。
黒い抜け毛が色とりどりの毛糸に絡みつき空中を乱舞するさまは、まるで花火のよう。鑑賞料とれるレベル。ただ難点は、糸くずとほこりが舞うので、鼻がむずむずする。何度かくしゃみをしていたら、カミッコたちがマスクになって鼻と口を覆ってくれた。ええ子たちや~。
カミッコたちのがんばりで、フワフワぬくぬくの毛布が完成したのです。ところどころ、抜け毛も織り込んでいて、抜け毛たちが適度な揺れで私を良質な睡眠に導いてくれるのですよ。かつてない熟睡を得られるおかげで、私の体調は絶好調。
あとはお風呂に入れたら言うことないんだけどなー。
そんな感じで充実したスローライフを送っていたら、来た! イグワーナの元婚約者の第一王子と、ヒロイン兼イグワーナの妹が。むさくるしい空間に全くマッチしない、豪華衣装に身を包んでいます。こちとら、弥生時代の貫頭衣コーデ、十日間着たきりだっていうのに。
「お姉さま、おいたわしいですわ……こんな狭苦しい場所に閉じ込められているなんて……」
涙目でプルプル震える妹マリワーナ。そんなマリワーナを心配そうに見つめるコケイーノ王子。
「ええー、そんなこと言うなら出してよー」
そっと目をそらされた。ちっ。
「たわけ、そなたは国家を揺るがす大反逆者だ。二度と朝日は拝めぬものと心得よ」
震えるマリワーナの肩を抱いて、私に言いつのるコケ王子。
「えーっと、処刑の日は拝めるのでは?」
「揚げ足を取るのではない、無礼者めが」
コケ王子のこめかみにピキリと青筋がたった。無駄に顔のいいコケは、怒った顔も絵になる。全く好みではないがなあ。
「質問です。私は何の罪で、捕らえれているのですか? 国家を揺るがす大反逆者とは具体的になんでしょう? 私、いたって真っ当な公爵家令嬢ですけれど?」
「そなたの罪はな、聖女であるマリワーナを貶めたことだ」
王子に肩を抱かれてうつむく妹。金色の髪が一筋垂れる。
「ええー、ただの姉妹喧嘩に王家が口出しするー?」
「民衆をたきつけて、王家の醜聞を広めようとした」
「え、それって、コケイーノ第一王子殿下が、婚約者の妹に手を出したってアレですか? ちょっと侍女に愚痴りましたけど……」
「他国と通じて王位の簒奪を企てた」
「うーん、婚約者が妹に手を出したから、婚活始めただけなんですけどー」
「黙れ、とにかく罪はもう覆らぬ、九十日後の処刑まで神妙にいたせ」
「横暴です、この国に法律は、いや良心はないのか……。哀れ、いたいけなイグワーナ公爵家令嬢は、無実の罪で処刑されるのであった……。それがこの国の行く末を大きく変える分水嶺となるのである……」
「……そなた、何を言っておる。もう既に気が触れておるのだな……。さらばだ、イグワーナ。もう会うことはないであろう。潔く散れ」
言いたいことだけ言って、ふたりは去っていった。
イグワーナの記憶を掘り返しても、私のおぼろげな原作知識をさかのぼっても、処刑されるほどのことはしていないんだよね。イグワーナの存在が邪魔だったのなら修道院にでも送ればいいのに、なぜ処刑なんだろう。
「……お前、ひどい目にあったんだな……」
「アホの方の看守……」
ふっ、やはり聞いていたな。チョロい。
「……バルサだ。俺にできることならやってやる。困ったことがあれば言えよ……」
「はい、お風呂に入りたいです」
そっと金貨を握らせると、バルサはうなずいた。
「ごはんに肉もつけてください」
もう一枚金貨を握らせる。ためらいがちにうなずくバルサ。
「ワインも飲みたいな」
「いやいや、さすがに贅沢じゃね? ここ牢屋!」
「ちぇー」
「まったく、お嬢さまとは思えねー肝のすわりかただ。気に入ったぜ」
バルサは金貨を懐にねじ込むと、ニカっと笑って戻っていった。
よっしゃー、ひとりゲッチュー。
順調~順調~。さあ、ご覧ください、わたしの子どもたちを。
名づけて、カミッコー。
いえね、抜け毛をまるまるまるっと手で丸めてね、まっくろくろーなスケちゃんができましてね、それがなんと、わたしの言うことを聞くんですよ。すごくないですか?
スパイし放題、窃盗しまくりですよ。ふわふわゆらゆら漂いながら、どこにだって忍び込める。例えみつかってもただの髪の毛、女中にポイされるだけ。ありがたいことに、イグワーナは豊かで長い黒髪の持ち主なので、抜け毛に困ることがない。
ありがとう、ナイススキル! おかげさまで、初日に比べると圧倒的な快適監禁生活ですよ。
まずね、トイレ事情が改善しました! カミッコが運んできた金貨を、そっとアホの方の看守にあげまして。こっそり看守用のトイレを使わせてもらってます。やったね。
次、ベッドが囚人仕様から商人レベルにランクアップしました。カミッコが調達してきた糸や毛糸を使ってハンドメイドならぬ、ヘアーメイドですよ。ええ、織るのはわたしじゃない、カミッコだ。
黒い抜け毛が色とりどりの毛糸に絡みつき空中を乱舞するさまは、まるで花火のよう。鑑賞料とれるレベル。ただ難点は、糸くずとほこりが舞うので、鼻がむずむずする。何度かくしゃみをしていたら、カミッコたちがマスクになって鼻と口を覆ってくれた。ええ子たちや~。
カミッコたちのがんばりで、フワフワぬくぬくの毛布が完成したのです。ところどころ、抜け毛も織り込んでいて、抜け毛たちが適度な揺れで私を良質な睡眠に導いてくれるのですよ。かつてない熟睡を得られるおかげで、私の体調は絶好調。
あとはお風呂に入れたら言うことないんだけどなー。
そんな感じで充実したスローライフを送っていたら、来た! イグワーナの元婚約者の第一王子と、ヒロイン兼イグワーナの妹が。むさくるしい空間に全くマッチしない、豪華衣装に身を包んでいます。こちとら、弥生時代の貫頭衣コーデ、十日間着たきりだっていうのに。
「お姉さま、おいたわしいですわ……こんな狭苦しい場所に閉じ込められているなんて……」
涙目でプルプル震える妹マリワーナ。そんなマリワーナを心配そうに見つめるコケイーノ王子。
「ええー、そんなこと言うなら出してよー」
そっと目をそらされた。ちっ。
「たわけ、そなたは国家を揺るがす大反逆者だ。二度と朝日は拝めぬものと心得よ」
震えるマリワーナの肩を抱いて、私に言いつのるコケ王子。
「えーっと、処刑の日は拝めるのでは?」
「揚げ足を取るのではない、無礼者めが」
コケ王子のこめかみにピキリと青筋がたった。無駄に顔のいいコケは、怒った顔も絵になる。全く好みではないがなあ。
「質問です。私は何の罪で、捕らえれているのですか? 国家を揺るがす大反逆者とは具体的になんでしょう? 私、いたって真っ当な公爵家令嬢ですけれど?」
「そなたの罪はな、聖女であるマリワーナを貶めたことだ」
王子に肩を抱かれてうつむく妹。金色の髪が一筋垂れる。
「ええー、ただの姉妹喧嘩に王家が口出しするー?」
「民衆をたきつけて、王家の醜聞を広めようとした」
「え、それって、コケイーノ第一王子殿下が、婚約者の妹に手を出したってアレですか? ちょっと侍女に愚痴りましたけど……」
「他国と通じて王位の簒奪を企てた」
「うーん、婚約者が妹に手を出したから、婚活始めただけなんですけどー」
「黙れ、とにかく罪はもう覆らぬ、九十日後の処刑まで神妙にいたせ」
「横暴です、この国に法律は、いや良心はないのか……。哀れ、いたいけなイグワーナ公爵家令嬢は、無実の罪で処刑されるのであった……。それがこの国の行く末を大きく変える分水嶺となるのである……」
「……そなた、何を言っておる。もう既に気が触れておるのだな……。さらばだ、イグワーナ。もう会うことはないであろう。潔く散れ」
言いたいことだけ言って、ふたりは去っていった。
イグワーナの記憶を掘り返しても、私のおぼろげな原作知識をさかのぼっても、処刑されるほどのことはしていないんだよね。イグワーナの存在が邪魔だったのなら修道院にでも送ればいいのに、なぜ処刑なんだろう。
「……お前、ひどい目にあったんだな……」
「アホの方の看守……」
ふっ、やはり聞いていたな。チョロい。
「……バルサだ。俺にできることならやってやる。困ったことがあれば言えよ……」
「はい、お風呂に入りたいです」
そっと金貨を握らせると、バルサはうなずいた。
「ごはんに肉もつけてください」
もう一枚金貨を握らせる。ためらいがちにうなずくバルサ。
「ワインも飲みたいな」
「いやいや、さすがに贅沢じゃね? ここ牢屋!」
「ちぇー」
「まったく、お嬢さまとは思えねー肝のすわりかただ。気に入ったぜ」
バルサは金貨を懐にねじ込むと、ニカっと笑って戻っていった。
よっしゃー、ひとりゲッチュー。
0
お気に入りに追加
115
あなたにおすすめの小説
王子様、あなたの不貞を私は隠します
岡暁舟
恋愛
アンソニーとソーニャの交わり。それを許すはずだったクレアだったが、アンソニーはクレアの事を心から愛しているようだった。そして、偽りの愛に気がついたアンソニーはソーニャを痛ぶることを決意した…。
「王子様、あなたの不貞を私は知っております」の続編になります。
本編完結しました。今後続編を書いていきます。「王子様、あなたの不貞を私は糧にします」の予定になります。
【完結】悪役令嬢はおせっかい「その婚約破棄、ちょっとお待ちなさい」
みねバイヤーン
恋愛
「その婚約破棄、ちょっとお待ちなさい」まーたオリガ公爵令嬢のおせっかいが始まったぞ。学園内での婚約破棄に、オリガ公爵令嬢が待ったをかけた。オリガの趣味は人助け、好きな言葉はノブレス・オブリージュ。無自覚な悪役令嬢オリガは、ヒロインの攻略イベントをことごとくつぶしていく。哀れなヒロインはオリガのおせっかいから逃げられない。
【完結】リクエストにお答えして、今から『悪役令嬢』です。
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「断罪……? いいえ、ただの事実確認ですよ。」
***
ただ求められるままに生きてきた私は、ある日王子との婚約解消と極刑を突きつけられる。
しかし王子から「お前は『悪』だ」と言われ、周りから冷たい視線に晒されて、私は気づいてしまったのだ。
――あぁ、今私に求められているのは『悪役』なのだ、と。
今まで溜まっていた鬱憤も、ずっとしてきた我慢も。
それら全てを吐き出して私は今、「彼らが望む『悪役』」へと変貌する。
これは従順だった公爵令嬢が一転、異色の『悪役』として王族達を相手取り、様々な真実を紐解き果たす。
そんな復讐と解放と恋の物語。
◇ ◆ ◇
※カクヨムではさっぱり断罪版を、アルファポリスでは恋愛色強めで書いています。
さっぱり断罪が好み、または読み比べたいという方は、カクヨムへお越しください。
カクヨムへのリンクは画面下部に貼ってあります。
※カクヨム版が『カクヨムWeb小説短編賞2020』中間選考作品に選ばれました。
選考結果如何では、こちらの作品を削除する可能性もありますので悪しからず。
※表紙絵はフリー素材を拝借しました。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
悪役令嬢がキレる時
リオール
恋愛
この世に悪がはびこるとき
ざまぁしてみせましょ
悪役令嬢の名にかけて!
========
※主人公(ヒロイン)は口が悪いです。
あらかじめご承知おき下さい
突発で書きました。
4話完結です。
悪『役』令嬢ってなんですの?私は悪『の』令嬢ですわ。悪役の役者と一緒にしないで………ね?
naturalsoft
恋愛
「悪役令嬢である貴様との婚約を破棄させてもらう!」
目の前には私の婚約者だった者が叫んでいる。私は深いため息を付いて、手に持った扇を上げた。
すると、周囲にいた近衛兵達が婚約者殿を組み従えた。
「貴様ら!何をする!?」
地面に押さえ付けられている婚約者殿に言ってやりました。
「貴方に本物の悪の令嬢というものを見せてあげますわ♪」
それはとても素晴らしい笑顔で言ってやりましたとも。
【完結】悪役令嬢とは何をすればいいのでしょうか?
白キツネ
恋愛
公爵令嬢であるソフィア・ローズは不服ながら第一王子との婚約が決められており、王妃となるために努力していた。けれども、ある少女があらわれたことで日常は崩れてしまう。
悪役令嬢?そうおっしゃるのであれば、悪役令嬢らしくしてあげましょう!
けれど、悪役令嬢って何をすればいいんでしょうか?
「お、お父様、私、そこまで言ってませんから!」
「お母様!笑っておられないで、お父様を止めてください!」
カクヨムにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる