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ギーゼラ
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ある日届いた郵便の中に、その絵葉書はあった。
『ご結婚おめでとうございます』
何の変哲もない風景画の裏には、そう一言だけ書かれていた。
差出人の名前は、『ギーゼラ』。私には聞き覚えのない名前だった。夫婦連名の宛名で出されていたので、リヒャルト様の関係者と思った。
彼に渡すと、一瞬はっとした顔つきになり、そしていつもの無表情に戻った。受け取ると、私から隠すようにしてどこかへ持って行ってしまった。
でも、ギーゼラという人からの絵葉書はその後も届いたようだ。
毎回、毎回、リヒャルト様が私の目の届かないところへ持っていっているらしく、他の文面を確認はできなかった。
その人の事は私には知られたくないようだった。だから私も知ろうとはしなかった。内心気になって仕方なかったけれど。
そして、ある日とうとう、その中身に触れることになった。
「あら、確かこれ…」
葉書の束をある日リヒャルト様の机の引き出しから見つけてしまった。新しいはずのその机は、なぜか鍵が壊れていた。その中には、貴重品はなく、葉書の束だけが入っていた。
いけない。
良心が咎めたが、どうしても気になってしまう。私は恐る恐る束を手に取った。
見なければ、良かった。
後悔したけれど、遅かった。
また同じように、表に一言だけぽつりと書いてあり、裏はただの風景画で書き込みはない。
しかし内容は、後になるにつれ次第にあやしくなっていく。
『あなたにまたお会いできる日を楽しみにしています』
『私の事を忘れていませんよね』
『離れていても、私とあなたは繋がっています』
『ここを出れたら、一目散にあなたの腕に飛び込んでいきます』
『私を早く迎えに来て。寂しさで胸が張り裂けそう』
どうみても、恋人が書く文面だ。しかし、『ギーゼラ』は、一通目で、『ご結婚おめでとうございます』と書いてよこしてきたはず。しかも、宛名に私の名前まで書き添えて。
訳がわからない。
もしかして、私はお飾りの妻で、本当はこの『ギーゼラ』を愛しているの?
結婚できない相手を愛してしまい、体裁を整えるために私と結婚した?
悪い考えだけが、頭をぐるぐる巡ってしまう。私はこれ以上読む気にもならず、誰も来ないうちに急いで葉書の束を元の場所に戻した。
『ご結婚おめでとうございます』
何の変哲もない風景画の裏には、そう一言だけ書かれていた。
差出人の名前は、『ギーゼラ』。私には聞き覚えのない名前だった。夫婦連名の宛名で出されていたので、リヒャルト様の関係者と思った。
彼に渡すと、一瞬はっとした顔つきになり、そしていつもの無表情に戻った。受け取ると、私から隠すようにしてどこかへ持って行ってしまった。
でも、ギーゼラという人からの絵葉書はその後も届いたようだ。
毎回、毎回、リヒャルト様が私の目の届かないところへ持っていっているらしく、他の文面を確認はできなかった。
その人の事は私には知られたくないようだった。だから私も知ろうとはしなかった。内心気になって仕方なかったけれど。
そして、ある日とうとう、その中身に触れることになった。
「あら、確かこれ…」
葉書の束をある日リヒャルト様の机の引き出しから見つけてしまった。新しいはずのその机は、なぜか鍵が壊れていた。その中には、貴重品はなく、葉書の束だけが入っていた。
いけない。
良心が咎めたが、どうしても気になってしまう。私は恐る恐る束を手に取った。
見なければ、良かった。
後悔したけれど、遅かった。
また同じように、表に一言だけぽつりと書いてあり、裏はただの風景画で書き込みはない。
しかし内容は、後になるにつれ次第にあやしくなっていく。
『あなたにまたお会いできる日を楽しみにしています』
『私の事を忘れていませんよね』
『離れていても、私とあなたは繋がっています』
『ここを出れたら、一目散にあなたの腕に飛び込んでいきます』
『私を早く迎えに来て。寂しさで胸が張り裂けそう』
どうみても、恋人が書く文面だ。しかし、『ギーゼラ』は、一通目で、『ご結婚おめでとうございます』と書いてよこしてきたはず。しかも、宛名に私の名前まで書き添えて。
訳がわからない。
もしかして、私はお飾りの妻で、本当はこの『ギーゼラ』を愛しているの?
結婚できない相手を愛してしまい、体裁を整えるために私と結婚した?
悪い考えだけが、頭をぐるぐる巡ってしまう。私はこれ以上読む気にもならず、誰も来ないうちに急いで葉書の束を元の場所に戻した。
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