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閑話 五十嵐アリスだった者 1(sideティアリスティア)
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私の最愛の息子・唯颯が行方不明になってからはやひと月が過ぎた。
双子の弟妹の一五歳の誕生日パーティーのあと姿を消して捜索した結果、少し離れた海辺で見つかったというパーカーと腕時計、壊れたスマートフォン。
どれも海水に濡れて浜辺に打ち上げられていたそう。
───つまりはそういうこと・・・・・・。
波に攫われたか、自ら飛び込んだか・・・・・・。ユラはアレから見つかっていない。
たぶんもう、この世界にはいない。
───だから私ももう、止めた。
首から下げたタグを服の上から触ると私は自嘲して呟いた。
「ごめんなさい、ノスタルジア。貴方との約束を破るティアリスティアを許して」
そうして私は覚悟を決めた。
───私ことティアリスティア・ウィステリアはココとは違う世界の住人でハイエルフの国の王妃だった。
国王はノスタルジア。私達は運命の番い同士で結ばれた、相思相愛の仲だった。
ハイエルフ同士は子供が出来にくいが長命なため、数百年は二人だけの時を過ごした。
そして待望の第一子を身籠もり、あと少しで産まれるという時にわが国に侵略してきた巨人の国ゴライアス。
精霊魔法などに長けているとはいえ、人数的にも不利で非力な私達には到底勝てるはずもなく、私やノスタルジア他優秀な魔導師達が可能な限り国民達を大陸に点在する『聖域』に転移させていった。国民達もまた、自力で転移していき、残りは私達と魔導師達のみ。
「陛下! もう十分です! 避難を」
「お前達も限界だろう。先に転移するといい。助かった」
「王妃様もお急ぎ下さい! もう、お腹の御子を第一に───っ!」
そこに押し入ってきたゴライアスの兵達に慌てて、咄嗟に転移魔法を発動するとノスタルジア達も転移魔法を発動しているのが見えた。
きっと、皆、無事のはず───!
しかし普通ならさほど苦でもない転移にもの凄い魔力を持っていかれて気を失い、気付いたときには聞いたことのない言葉を話す人族の老夫婦の家のベッドに横たわっていた。
私は咄嗟に言語理解の魔法を使った。心配だったが、魔法が普通に使えてホッとする。すると何とか会話に支障がなくなり、これまでの経緯を彼らに教えて貰った。
それによると、彼らの家の裏庭に倒れていた私を見つけて何とかベッドに寝かせ、医者に診せたのだという。
疲労で寝ているだけらしいと言われてホッと一息吐いていたところだと。
そして詳しく聞くと、ここは地球という星の世界のイギリスという国だという。
───なんということだろう。
私は転移魔法で国どころか世界を越えてしまっていた。
困り果ててしまった私に、老夫婦はいつまでもいてくれていいと笑った。
すでに息子達も家を出ていて夫婦二人だけだからと、何か事情があるのだろう、と。
何より臨月間近なのだから安静にしていなさい、と。
確かに知らない世界でこれから生まれる子を思うとそれが最善だと思えて、私は申し訳なくもそれに甘えた。
「よろしくお願いします。私は───アリスです」
「アリスちゃんね。可愛い名前ねえ」
「よろしくな。儂はテレンス、妻はリサーナだよ」
「よろしくお願いします。テレンスさん、リサーナさん」
こうして居候させて貰い、それからひと月後に私は子を産んだ。
ノスタルジアと私の子。
ウィステリア国王の第一子、第一位王位継承者となるユーリディス・・・・・・ユラを───。
私は国を追われるときにウィステリア王族の証の魔導具であるタグに組み込まれた幻惑魔法で人族に姿を変えていたが、生まれる我が子にこの幻惑魔法は効いていない。
当然ハイエルフの特徴である長い耳を持って生まれる。
私は生まれた瞬間にこの子のためにあらかじめ作って持っていたタグを握らせたが、この子を取り上げてくれたリサーナさんとテレンスさんには見られただろう。
私は蒼白な顔で謝罪とも懇願ともつかない言葉を発した。
しかしリサーナさんはそっと私の頭を撫でて・・・・・・。
「大丈夫よ。訳ありなのには気付いていたわ」
「アンタも妖精みたいに綺麗だからのう。それにこの土地には妖精や精霊の伝説が数多く残っておってな」
「皆、そんな彼らを親しい隣人と思っているのよ。心配しないで。誰も貴方を害さないわ」
そう優しく言ってくれて、私は久しぶりに子供のように大泣きした。
ユーリディスも元気に泣いていた。
嬉しかった。
しばらく平穏な日々が過ぎたある日、ユーリディスが立って歩けるようになった頃。
───私とユーリディスにとっての災厄がやって来た。
※ユラの母親の話が続きます。
重い話です。
実はユラは愛称で本当の名前はユーリディスでした。ユラはそのことを知りません。
これまでも呼ばれていたけど小さくて覚えていません。このあとその名を呼ばれることはなくなったので。
タグにもユラと刻まれていますが、母親であるティアリスティアに隠蔽されてます。正式には『ユーリディス・ウィステリア』となっていますがコッチもある条件が満たされないと隠蔽解除されません。安全第一。
補足でした。
双子の弟妹の一五歳の誕生日パーティーのあと姿を消して捜索した結果、少し離れた海辺で見つかったというパーカーと腕時計、壊れたスマートフォン。
どれも海水に濡れて浜辺に打ち上げられていたそう。
───つまりはそういうこと・・・・・・。
波に攫われたか、自ら飛び込んだか・・・・・・。ユラはアレから見つかっていない。
たぶんもう、この世界にはいない。
───だから私ももう、止めた。
首から下げたタグを服の上から触ると私は自嘲して呟いた。
「ごめんなさい、ノスタルジア。貴方との約束を破るティアリスティアを許して」
そうして私は覚悟を決めた。
───私ことティアリスティア・ウィステリアはココとは違う世界の住人でハイエルフの国の王妃だった。
国王はノスタルジア。私達は運命の番い同士で結ばれた、相思相愛の仲だった。
ハイエルフ同士は子供が出来にくいが長命なため、数百年は二人だけの時を過ごした。
そして待望の第一子を身籠もり、あと少しで産まれるという時にわが国に侵略してきた巨人の国ゴライアス。
精霊魔法などに長けているとはいえ、人数的にも不利で非力な私達には到底勝てるはずもなく、私やノスタルジア他優秀な魔導師達が可能な限り国民達を大陸に点在する『聖域』に転移させていった。国民達もまた、自力で転移していき、残りは私達と魔導師達のみ。
「陛下! もう十分です! 避難を」
「お前達も限界だろう。先に転移するといい。助かった」
「王妃様もお急ぎ下さい! もう、お腹の御子を第一に───っ!」
そこに押し入ってきたゴライアスの兵達に慌てて、咄嗟に転移魔法を発動するとノスタルジア達も転移魔法を発動しているのが見えた。
きっと、皆、無事のはず───!
しかし普通ならさほど苦でもない転移にもの凄い魔力を持っていかれて気を失い、気付いたときには聞いたことのない言葉を話す人族の老夫婦の家のベッドに横たわっていた。
私は咄嗟に言語理解の魔法を使った。心配だったが、魔法が普通に使えてホッとする。すると何とか会話に支障がなくなり、これまでの経緯を彼らに教えて貰った。
それによると、彼らの家の裏庭に倒れていた私を見つけて何とかベッドに寝かせ、医者に診せたのだという。
疲労で寝ているだけらしいと言われてホッと一息吐いていたところだと。
そして詳しく聞くと、ここは地球という星の世界のイギリスという国だという。
───なんということだろう。
私は転移魔法で国どころか世界を越えてしまっていた。
困り果ててしまった私に、老夫婦はいつまでもいてくれていいと笑った。
すでに息子達も家を出ていて夫婦二人だけだからと、何か事情があるのだろう、と。
何より臨月間近なのだから安静にしていなさい、と。
確かに知らない世界でこれから生まれる子を思うとそれが最善だと思えて、私は申し訳なくもそれに甘えた。
「よろしくお願いします。私は───アリスです」
「アリスちゃんね。可愛い名前ねえ」
「よろしくな。儂はテレンス、妻はリサーナだよ」
「よろしくお願いします。テレンスさん、リサーナさん」
こうして居候させて貰い、それからひと月後に私は子を産んだ。
ノスタルジアと私の子。
ウィステリア国王の第一子、第一位王位継承者となるユーリディス・・・・・・ユラを───。
私は国を追われるときにウィステリア王族の証の魔導具であるタグに組み込まれた幻惑魔法で人族に姿を変えていたが、生まれる我が子にこの幻惑魔法は効いていない。
当然ハイエルフの特徴である長い耳を持って生まれる。
私は生まれた瞬間にこの子のためにあらかじめ作って持っていたタグを握らせたが、この子を取り上げてくれたリサーナさんとテレンスさんには見られただろう。
私は蒼白な顔で謝罪とも懇願ともつかない言葉を発した。
しかしリサーナさんはそっと私の頭を撫でて・・・・・・。
「大丈夫よ。訳ありなのには気付いていたわ」
「アンタも妖精みたいに綺麗だからのう。それにこの土地には妖精や精霊の伝説が数多く残っておってな」
「皆、そんな彼らを親しい隣人と思っているのよ。心配しないで。誰も貴方を害さないわ」
そう優しく言ってくれて、私は久しぶりに子供のように大泣きした。
ユーリディスも元気に泣いていた。
嬉しかった。
しばらく平穏な日々が過ぎたある日、ユーリディスが立って歩けるようになった頃。
───私とユーリディスにとっての災厄がやって来た。
※ユラの母親の話が続きます。
重い話です。
実はユラは愛称で本当の名前はユーリディスでした。ユラはそのことを知りません。
これまでも呼ばれていたけど小さくて覚えていません。このあとその名を呼ばれることはなくなったので。
タグにもユラと刻まれていますが、母親であるティアリスティアに隠蔽されてます。正式には『ユーリディス・ウィステリア』となっていますがコッチもある条件が満たされないと隠蔽解除されません。安全第一。
補足でした。
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