(仮)攫われて異世界

エウラ

文字の大きさ
上 下
15 / 66

14 事情聴取 2

しおりを挟む
僕は頭をフル回転させて開示する情報を取捨選択する。

───いや、言えないことの方が多いな。
でもさっき、無理には聞かないって言質を取ったし。

「改めまして、僕の名前は唯颯ユラです。ナハトさんに最初に会ったときにもそう名乗りました」
「ああ」

エアリアルが確認するようにナハトを見ると、短く応えた。

家名はこのまま、言わないでおこう。この世界では一般人は家名がないかもしれないし、そもそも五十嵐の家名を名乗っても分からないだろう。

・・・・・・それにもう、あの家とは、いやあの世界とはとっくに縁が切れてるだろうし。
ココではただのユラで生きていく。

ただ、僕がここで生きていくためにはおそらく今までの暗部の力が必要になるはず。
だからこの力は下手に誤魔化さず、正直に打ち明けた方がいい。
例え異質であっても、今の僕にはこの身体一つしかないんだから。

「・・・・・・あの、僕は物心つく前から、色々と訓練を受けていて」
「───っうん」
「それは、いわゆる戦闘訓練というか、主に対人戦闘で、その・・・・・・」

息を呑んだエアリアルの反応がちょっと怖くて目を逸らす。
なんて言えばいいんだろう。こっちではどういう位置づけ? よく分からなくて言い淀んでしまう。

するとエアリアルの方から意を汲んで話してくれた。

「それはつまり、暗殺とかの類いの訓練ってことかな?」
「っそうです。それで小さな頃から、そういう作戦に加わったり、最近は・・・・・・自ら手を下していて・・・・・・」

これは家のため、仕事だと言い聞かせて任務を熟した。感情を消して、僕はただの道具だって思い込んだ。

だってそうじゃないと───。

「・・・・・・分かった。もういいから、泣くな」
「・・・・・・え?」

ナハトがぎゅっと抱きしめてそう言ったので、僕は不思議に思った。
泣いてる? 誰が? 僕が?

手を頬にあてると、濡れていた。

「・・・・・・何、で」

始めこそ辛くて泣いたけど、だからって訓練を止めてはくれない。それが分かって早々に諦めた。
それからそれ以降は泣くことなんてなかったのに。

「やりたくなかったんだろう? 無理矢理やらされて、それしか生きる道がなかった、そうだろう?」

何で、この人は僕自身気付かない、いや、封印した感情をくみ取ってくれるの?

「ここには君を害するモノはないと言ったろう。だからもう、苦しまなくていいんだ」

そう言ってくれて嬉しい反面、何もかも分かりきったような言葉が僕を苛立たせて───。

「───せに・・・・・・」
「ユラ?」
「───っ何も知らないくせに! 何でそう言いきれるんだ! 僕はっ・・・・・・僕が今までどんな気持ちでいたのか───」
「ッユラ!」
「誰にも愛されない、捨てられた僕に優しくしないでっ!!」

───じゃないと、僕は、独りに戻れなくなる───。

今まで押さえ込んでいた感情がついに耐えきれなくなって爆発した。

苦しい、辛い、独りでいい、独りはイヤだ。
優しくして、優しくしないで。愛さないで、愛して欲しい。
───愛せない。僕にそんな資格、ない。

無意識につむじ風のようなモノを身体から巻き起こし、火事場の馬鹿力でナハトの腕から抜け出すと出入り口の扉に走った。

とにかくここから、ナハトから今すぐ逃げ出したかった。
僕が僕じゃいられなくなる恐怖。
ココにいちゃダメだ。そう思って扉を開くと廊下に出た。

───アレ? でももういいんじゃないか?
だってここは僕のことを誰も知らない異世界なんだから。

出てすぐにそんなことを思った一瞬、ナハトに後ろから抱きしめられた。

「ユラ、逃げるな! 自分の気持ちから目を逸らすな! 俺ならユラを一生涯愛し続けられるから!」
「───っは、離・・・・・・!! ・・・・・・へ?」

暴れ藻掻いたそのとき、思いも寄らぬ言葉がナハトから飛び出し、ピタッと動きを止めた。ついでに涙も止まった。

一体何の騒ぎだと、下の階の冒険者達やギルト職員達が階下から覗き込んだり聞き耳を立てていた。

「───・・・・・・なんて?」

全注目を浴びる中、ナハトは僕を正面に向き直すと真剣な顔で告げた。

「ユラが好きだ。愛してる。俺と生涯を共にしてくれ」

───まさかの公開プロポーズ・・・・・・!?






※そろそろ作者のシリアス展開が限界なのでギャグ路線に入っていきます。悪しからず。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】俺の嫁はどうも悪役令息にしては優し過ぎる。

福の島
BL
日本でのびのび大学生やってたはずの俺が、異世界に産まれて早16年、ついに婚約者(笑)が出来た。 そこそこ有名貴族の実家だからか、婚約者になりたいっていう輩は居たんだが…俺の意見的には絶対NO。 理由としては…まぁ前世の記憶を思い返しても女の人に良いイメージがねぇから。 だが人生そう甘くない、長男の為にも早く家を出て欲しい両親VS婚約者ヤダー俺の勝負は、俺がちゃんと学校に行って婚約者を探すことで落ち着いた。 なんかいい人居ねぇかなとか思ってたら婚約者に虐められちゃってる悪役令息がいるじゃんと… 俺はソイツを貰うことにした。 怠慢だけど実はハイスペックスパダリ×フハハハ系美人悪役令息 弱ざまぁ(?) 1万字短編完結済み

【完】ちょっと前まで可愛い後輩だったじゃん!!

福の島
BL
家族で異世界転生して早5年、なんか巡り人とか言う大層な役目を貰った俺たち家族だったけど、2人の姉兄はそれぞれ旦那とお幸せらしい。 まぁ、俺と言えば王様の進めに従って貴族学校に通っていた。 優しい先輩に慕ってくれる可愛い後輩…まぁ順風満帆…ってやつ… だったなぁ…この前までは。 結婚を前提に…なんて…急すぎるだろ!!なんでアイツ…よりによって俺に…!?? 前作短編『ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活』に登場する優馬の続編です。 今作だけでも楽しめるように書きますが、こちらもよろしくお願いします。

【完結】狼獣人が俺を離してくれません。

福の島
BL
異世界転移ってほんとにあるんだなぁとしみじみ。 俺が異世界に来てから早2年、高校一年だった俺はもう3年に近い歳になってるし、ここに来てから魔法も使えるし、背も伸びた。 今はBランク冒険者としてがむしゃらに働いてたんだけど、 貯金が人生何周か全力で遊んで暮らせるレベルになったから東の獣の国に行くことにした。 …どうしよう…助けた元奴隷狼獣人が俺に懐いちまった… 訳あり執着狼獣人✖️異世界転移冒険者 NLカプ含む脇カプもあります。 人に近い獣人と獣に近い獣人が共存する世界です。 このお話の獣人は人に近い方の獣人です。 全体的にフワッとしています。

【完結】異世界転生して美形になれたんだから全力で好きな事するけど

福の島
BL
もうバンドマンは嫌だ…顔だけで選ぶのやめよう…友達に諭されて戻れるうちに戻った寺内陸はその日のうちに車にひかれて死んだ。 生まれ変わったのは多分どこかの悪役令息 悪役になったのはちょっとガッカリだけど、金も権力もあって、その上、顔…髪…身長…せっかく美形に産まれたなら俺は全力で好きな事をしたい!!!! とりあえず目指すはクソ婚約者との婚約破棄!!そしてとっとと学園卒業して冒険者になる!!! 平民だけど色々強いクーデレ✖️メンタル強のこの世で1番の美人 強い主人公が友達とかと頑張るお話です 短編なのでパッパと進みます 勢いで書いてるので誤字脱字等ありましたら申し訳ないです…

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】ゆるだる転生者の平穏なお嫁さん生活

福の島
BL
家でゴロゴロしてたら、姉と弟と異世界転生なんてよくある話なのか…? しかも家ごと敷地までも…… まぁ異世界転生したらしたで…それなりに保護とかしてもらえるらしいし…いっか…… ……? …この世界って男同士で結婚しても良いの…? 緩〜い元男子高生が、ちょっとだけ頑張ったりする話。 人口、男7割女3割。 特段描写はありませんが男性妊娠等もある世界です。 1万字前後の短編予定。

【完結】伝説の勇者のお嫁さん!気だるげ勇者が選んだのはまさかの俺

福の島
BL
10年に1度勇者召喚を行う事で栄えてきた大国テルパー。 そんなテルパーの魔道騎士、リヴィアは今過去最大級の受難にあっていた。 異世界から来た勇者である速水瞬が夜会のパートナーにリヴィアを指名したのだ。 偉大な勇者である速水の言葉を無下にもできないと、了承したリヴィアだったが… 溺愛無気力系イケメン転移者✖️懐に入ったものに甘い騎士団長

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...