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38 神様の願い 1

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《心配せずとも良い》

そう、静かで心地良い声が聞こえた。

「---え?」

思わず目を開けて世界樹を見上げた。
世界樹は綺麗な葉っぱをさわさわと揺らしているだけ。

《こうして話すのは初めてだな、ジェイド・カムイ。我はこの世界の神、アスガルドじゃ》
「・・・あの手紙の、神様?」

頭に声が響く。

《そうじゃ。巻き込まれたお主に詫びに色々とちーとを付けたのでな、種族がハイエルフになってしまったろう?》
「それは、まあ仕方ないかなと思ってたんだけど、俺、アルトと結婚するんだ。したいんだ・・・けど、寿命が違うんでしょう? だから・・・」

どうにかならないかなって呟いたんだけど。

「・・・・・・あれ? さっき、心配しなくて良いって、言った?」
《おう。言った言った。お詫びの一つとして、お主の番いにはお主と同じ寿命を授ける故、婚姻の際はここで二人、番いと祈るのだぞ。叶えてやるからな。良いか、ちゃんと番いの黒狼と話し合って、同じ寿命でも良いと同意を得てからだぞ。無理強いはするなよ。分かったか?》
「---分かった! ありがとう、神様!!」
《よいよい。それでは次は婚姻の時かの? まあ何かあればここでまた祈ると良い。出来うる限り声を届けよう》
「ありがとうございます!!」
《ではまたの》

カムイがヒャッハーと喜んで飛び跳ねているうちに神様の声は聞こえなくなった。

嬉しくてウキウキとしながらログハウスの中を整理して、もう一度世界樹をぎゅっと抱き締めてから公爵家に転移した。

公爵家の玄関先に転移したカムイに驚いたメイドが悲鳴を上げたのでカムイもビックリして声を出した。

二人でキャーキャー叫んでいたらマリア母さんが来てカムイはサロンに引き摺られて行った。


そこでお茶を飲みながら、世界樹での出来事を事細かに話して聞かせた。

「まあ、まあまあ!! なんて素敵なの! 大丈夫、アルトは喜びこそすれ、拒絶はしないわよ。絶対、ないない!」
「そ、そうかな・・・」
「そうよ! 帰ってきたらさっきの事をそのままアルトに話してあげると良いわ!」

そういってひとまず部屋に戻った。

「---本当に、アルト、俺とずっと一緒にいてくれるのかな? 飽きられたりしない? 嫌われたら・・・ずっと・・・・・・長い間、嫌われっぱなし? そんなの耐えらんないよ・・・」

どういう訳かさっきまでの楽しい思考がネガティブになっていって、どんどん体も俯いていって、しまいにはソファの上で膝を抱えて横になっていた。

ブツブツと暗い事ばかり呟いている。
先ほどの明るいカムイじゃない。

これは心が壊れたカムイだ。
アルトに嫌われたら・・・という思いから、かつての記憶が表層に浮かび上がってきてしまったようだった。


・・・・・・俺、何でココにいるんだっけ? ああ、巻き込まれたんだっけ。
アイツらは俺を・・・俺を・・・・・・どうしたっけ?
俺、俺はどうなったんだっけ・・・?

俺・・・は・・・・・・。

ヒュッと息を呑む。

なんか、覚えの無い記憶が頭を過る。
なんだこれ、こんなヤツら知らない。
俺の体を拘束して無理矢理犯すヤツら。

何度も何度も何度も・・・・・・!

知らない知らない知らない---!!

助けて、アルト・・・・・・!!

その思考を最後に、カムイの意識はブラックアウトした。

耐えきれなかった負荷に脳がシャットダウンしたのだ。

カムイの異変を感じたアルトが慌てて転移したときには、意識を無くしたカムイがソファの上で自分の体をギュッと抱き締めていた。

「・・・・・・!! カムイ?!」

アルトが、固くシャツを握りしめた手の指を一本づつ剥がしてからそっと抱き上げ、ベッドへ寝かせる。

「・・・・・・母さん、何か知ってる?」

いつの間にか部屋に来ていたマリアに静かに尋ねる。

「・・・・・・今日、ジェイドは世界樹に行ったの。そこでアスガルド神と話をしたらしいわ。それでね・・・・・・寿命の話になったそうよ」
「---っそれで?」
「・・・アスガルド神は伴侶となるアルトにはジェイドと同じ寿命を与えると仰ったそうよ。ただし、本人の意思を確認して、無理強いはするなと。ジェイドは不安がっていたわ・・・。アルトは喜ぶだろうと言ったのだけど・・・」

自分と同じ寿命で永い時を生きてくれるのか、と。

・・・・・・その不安が、暗い思考へと移り、結果としてかつての忌まわしい記憶を甦らせたのか?

「分かった。ありがとう、母さん」
「・・・・・・私もジェイドに付いていれば良かったわ、ごめんなさい」

アルトは首を振る。

誰のせいでもない。
強いて言えば、カムイに心の傷を負わせたヤツらだ。

ここに居合わせた皆が悲痛な面持ちでいる中・・・。

《すまぬカムイ・・・・・・今一度、魂の奥底に沈めようぞ。アイントラハト、なるべくカムイに寄り添っていておくれ》

神の声が響いた。


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