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27 終わらない悪夢(後)
しおりを挟む今は静かに眠るカムイだが、先ほどの慟哭が皆の耳から離れない。
「---魔法が効いていてぐっすり眠っているようだ。少しくらい離れても大丈夫だろう。・・・マリア、ついていてくれるかい?」
「ええ、もちろんよ」
「済まない。隣のアルトの部屋で少し話をしよう・・・いいか?」
「「「はい」」」
そういって、母さんはカムイに付き添った。
俺達は俺の部屋へと移動して防音の魔法をかけた。
「それで、何があった?」
「---さっき、カムイの声で目が覚めて急いで部屋に入ったら、ベランダから飛び降りようとしていたんだ。慌てて中に引きずり込んだんだけど・・・」
「・・・・・・先ほどの錯乱状態、か?」
コクリと頷いた。
「この前もジェイドの家で錯乱したと言ってたな。アレと同じか?」
「酒で酔っていて、眠った後に・・・。でも今日の方が酷いかも。酔いは前の方が凄かったけど」
前回は泥酔していて、朝、薬を飲むくらい二日酔いが酷かったな。
「・・・・・・酔って箍が緩んでいると表層に出てくるのかな。朝、起きるとその事を忘れているんだろう?」
「そうだけど、今日でお酒は二回目だし、絶対とは言い切れない」
「そうか・・・」
暫しの沈黙の後、兄達が言った。
「---なあ、さっき叫んでた言葉・・・勇者って言ってなかった?」
「俺も聞いた。間違いないよ。『こんなクズがなんで勇者なんだよっ』て言っていた」
「---確かに私も聞いたよ。だが勇者なんてここ数十年話を聞かないが・・・・・・待てよ」
「父さん?」
少し考えた後、父さんがハッとした。
「アルト、確か水の精霊が、ジェイドが急に転移して消えたと言っていたと」
「え、ああ。それから六年もの間消息不明だって・・・まさか」
「・・・・・・何処かの国で勇者召喚を行ったのではないか? そしてそれにジェイドが巻き込まれたとしたら・・・・・・」
ハッとした。
それに巻き込まれて勇者と同じ場所に転移していたとしたら・・・・・・。
「そいつらにとってはジェイドがカモネギに見えただろうな・・・クソが」
シルヴィが想像したのか、顔を歪ませて悪態をつく。
「口が悪いぞシルヴィ・・・だがまあ、そういうことなんだろう。おそらくかなりの確率で当たっているだろうな」
「じゃあ、その勇者召喚を行ったヤツらを探せれば・・・」
「そうだな。召喚自体公にされていないのだろうが、頑張って探すぞ」
「「「ああ」」」
そうして、今夜はもう遅いと言うことで、皆は一旦部屋に戻って少し休むことにした。
俺はカムイの部屋へと入る。
母さんが俺を見て立ち上がった。
側に父さんもいる。
「ジェイド君は良く眠っているわ。後は頼むわね」
「ありがとうございます、母さん」
「ゆっくり休みなさい。貴方はお休みなんだから朝寝坊して良いわよ。ジェイド君と一緒にいなさいな」
「・・・・・・はい。お休みなさい」
そうしてカムイと二人きりになると、先ほどの怒りがふつふつと湧き上がる。
カムイを傷付けた者。
許さない。
ふと、カムイが身じろいだ。
ハッとして殺気を消す。
「・・・・・・カムイ。俺の大切なカムイ。君が泣かずに済むように、俺、頑張るよ」
そっと隣に横になると、無意識だろうカムイがアルトに向き直って手を伸ばしてきた。
「ぁ・・・・・・ると・・・アルト・・・」
「---カムイ、ココにいるよ」
そういってカムイを抱き込むと、一瞬強張った体から力が抜けて、再び静かな寝息になった。
「お休み、俺の愛しい人」
そうして、日が高くなる頃までぐっすりと眠ったのだった。
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