上 下
27 / 41

27 終わらない悪夢(後)

しおりを挟む

今は静かに眠るカムイだが、先ほどの慟哭が皆の耳から離れない。

「---魔法が効いていてぐっすり眠っているようだ。少しくらい離れても大丈夫だろう。・・・マリア、ついていてくれるかい?」
「ええ、もちろんよ」
「済まない。隣のアルトの部屋で少し話をしよう・・・いいか?」
「「「はい」」」

そういって、母さんはカムイに付き添った。
俺達は俺の部屋へと移動して防音の魔法をかけた。

「それで、何があった?」
「---さっき、カムイの声で目が覚めて急いで部屋に入ったら、ベランダから飛び降りようとしていたんだ。慌てて中に引きずり込んだんだけど・・・」
「・・・・・・先ほどの錯乱状態、か?」

コクリと頷いた。

「この前もジェイドの家で錯乱したと言ってたな。アレと同じか?」
「酒で酔っていて、眠った後に・・・。でも今日の方が酷いかも。酔いは前の方が凄かったけど」

前回は泥酔していて、朝、薬を飲むくらい二日酔いが酷かったな。

「・・・・・・酔って箍が緩んでいると表層に出てくるのかな。朝、起きるとその事を忘れているんだろう?」
「そうだけど、今日でお酒は二回目だし、絶対とは言い切れない」
「そうか・・・」

暫しの沈黙の後、兄達が言った。

「---なあ、さっき叫んでた言葉・・・って言ってなかった?」
「俺も聞いた。間違いないよ。『こんなクズがなんで勇者なんだよっ』て言っていた」
「---確かに私も聞いたよ。だが勇者なんてここ数十年話を聞かないが・・・・・・待てよ」
「父さん?」

少し考えた後、父さんがハッとした。

「アルト、確か水の精霊が、ジェイドが急に転移して消えたと言っていたと」
「え、ああ。それから六年もの間消息不明だって・・・まさか」
「・・・・・・何処かの国で勇者召喚を行ったのではないか? そしてそれにジェイドが巻き込まれたとしたら・・・・・・」

ハッとした。
それに巻き込まれて勇者と同じ場所に転移していたとしたら・・・・・・。

「そいつらにとってはジェイドがカモネギに見えただろうな・・・クソが」

シルヴィが想像したのか、顔を歪ませて悪態をつく。

「口が悪いぞシルヴィ・・・だがまあ、そういうことなんだろう。おそらくかなりの確率で当たっているだろうな」
「じゃあ、その勇者召喚を行ったヤツらを探せれば・・・」
「そうだな。召喚自体公にされていないのだろうが、頑張って探すぞ」
「「「ああ」」」

そうして、今夜はもう遅いと言うことで、皆は一旦部屋に戻って少し休むことにした。

俺はカムイの部屋へと入る。
母さんが俺を見て立ち上がった。
側に父さんもいる。

「ジェイド君は良く眠っているわ。後は頼むわね」
「ありがとうございます、母さん」
「ゆっくり休みなさい。貴方はお休みなんだから朝寝坊して良いわよ。ジェイド君と一緒にいなさいな」
「・・・・・・はい。お休みなさい」

そうしてカムイと二人きりになると、先ほどの怒りがふつふつと湧き上がる。

カムイを傷付けた者。
許さない。

ふと、カムイが身じろいだ。

ハッとして殺気を消す。

「・・・・・・カムイ。俺の大切なカムイ。君が泣かずに済むように、俺、頑張るよ」

そっと隣に横になると、無意識だろうカムイがアルトに向き直って手を伸ばしてきた。

「ぁ・・・・・・ると・・・アルト・・・」
「---カムイ、ココにいるよ」

そういってカムイを抱き込むと、一瞬強張った体から力が抜けて、再び静かな寝息になった。

「お休み、俺の愛しい人」



そうして、日が高くなる頃までぐっすりと眠ったのだった。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

変態の婚約者を踏みましゅ!

ミクリ21
BL
歳の離れた政略結婚の婚約者に、幼い主人公は頑張った話。

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

【完結】ねこネコ狂想曲

エウラ
BL
マンホールに落ちかけた猫を抱えて自らも落ちた高校生の僕。 長い落下で気を失い、次に目を覚ましたら知らない森の中。 テンプレな異世界転移と思ったら、何故か猫耳、尻尾が・・・? 助けたねこちゃんが実は散歩に来ていた他所の世界の神様で、帰るところだったのを僕と一緒に転移してしまったそうで・・・。 地球に戻せないお詫びにとチートを貰ったが、元より俺TUEEをする気はない。 のんびりと過ごしたい。 猫好きによる猫好きの為の(主に自分が)猫まみれな話・・・になる予定。 猫吸いは好きですか? 不定期更新です。

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

処理中です...