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11 王立騎士団長(sideフルクベルト)

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半年前、世界樹を定期巡回中の団員から齎された報告に一瞬耳を疑った。

世界樹の傍に高濃度の魔力を感知したと。
どうやら人らしいと。

それを受け、調査をする事数回。
危険はなさそうだが状況把握は必要と、我が団所属のアイントラハトを向かわせることになった。

アイントラハトは私、騎士団長の三番目の息子でもある。
何故か小さい頃から世界樹の結界にすんなりと入れる体質で、その為今回も満場一致で選ばれた。

「世界樹の結界に受け入れられている者だ。危険はないだろうが十分注意するように」
「は、任務遂行に尽力致します!」

格式ばった挨拶をしたあと、頭を撫ぜて、気を付けるように言う。

父親として無事を祈る。


ワイバーンで去って行ったアイントラハトを見送ってから執務室に戻った。

「---お疲れさん、フルクベルト団長」
「・・・ああ、書類整理すまなかった。助かった」

執務室では留守にした私のかわりに書類整理を手伝ってくれていた副団長のエンドルフィンが出迎えてくれた。
私とは幼馴染みの腐れ縁である。
気心が知れて気安い間柄だ。


「・・・今回の調査は、初めての案件ケースだな」
「ああ、アルトなら問題なく遂行出来るだろうが・・・何か、予感めいたモノがあるんだよな」

お互い、手を動かしながら雑談をする。

「お前の予感って良くあたるよな。大丈夫なのか?」
「・・・悪い感じでは無いんだ。どちらかというと、アルトに対してプラスに働くような・・・?」
「ふーん。なら良いんじゃないか?」
「そう、だな」

歯切れ悪く言う私にエンドルフィンはニヤリと笑って言った。

「お前もいい加減子離れしろよ?」
「---良い度胸だ。午後の訓練を覚えておけよ」
「うわ、藪蛇だった!」

賑やかな声が執務室の外にまで響いていた。

「またやってるよ、団長達」

居合わせた団員達は聞こえた声に苦笑していたとか。




宣言通り午後の訓練でエンドルフィンを叩きのめした後、シャワーを浴びて着替え直した私はしているエンドルフィンと共に執務室に戻った。

休憩でお茶を飲んでいるときに腕輪がアルトからの通信を受信した。

エンドルフィンに目配せをして人払いをし、執務室の防音結界の魔導具を作動させると同時に、自分達の周りにも魔法で防音結界を張る。

「・・・はい、ああアルトか。守備はどうだ、接触出来たか?」
〔はい。すでに接触済みです。彼の家にいます〕
「・・・彼? 家に?」

エンドルフィンと顔を見合わせる。
アルトはすでに対象と接触していた。
その上、家にいる?

世界樹の傍に家を持っているのか?

〔名をジェイド・カムイと。見た目は俺より年下の森人エルフでした〕

エルフ?!

詳しく話を聞くと、どうやら記憶喪失らしいことが分かった。
そのカムイと言う彼に乞われて、泊まる約束をしたと・・・。

「・・・分かった。数日間滞在していい。だが最低でも一日一度は連絡を入れろ。何か危険があれば・・・お前だけでも帰ってくること。良いな?」
〔・・・・・・了解しました〕

そう言って通信を切ったが。

「アレは、放って一人で帰ってくる感じじゃないね」
「だろうな」

---しかし森人か・・・・・・。
世界樹に滞在を許されているなら危険人物ではない。
そこに住んでいる方が逆に安全だ。

・・・・・・過去の森人達の悲惨な末路を思い出し、頭を抱える。

その彼も何か辛いことに巻き込まれて記憶を失ったのか・・・・・・?

「とにかく、アルトの報告を待つしか無いな」



魔法を解除し、残りの書類を捌いていると、フルクベルトの腕輪が再びアルトの通信を受信した。
慌てて人払いと防音結界を張って応答する。

立て続けに連絡など、何かあったのか?!

〔・・・高位森人ハイエルフだった〕
「---は?!」
〔彼、だった。希少種どころの話じゃ無かった〕

本当に希少種も希少種。
エルフの中でもほんの一握りしかいないというハイエルフ。

〔俺、エルフは性奴隷になりやすいから気を付けろって、脅かしちゃって・・・・・・彼、真っ青に・・・・・・〕
「・・・・・・それは、当然だろう。危険を減らすために私だって教える」
〔・・・・・・俺、どうしよ・・・・・・、どうしたら良い?〕

任務中にも拘わらず、私を父さん呼びするときは家族として助言を求めている時だ。

無意識なのだろうが・・・。

「---アルト、きちんと向き合って気持ちを通わせなさい。信頼を得るんだ。・・・頑張れ」
〔・・・・・・はい〕
「次は良い報告を待ってる。ではな」

通信を切って深い溜息を吐く。
---問題が一段と上がってしまった。

「ハイエルフ、だって?」
「・・・・・・王族上層部になんて言えば・・・」
「まだ調査中なんだから、聞かれたら『まだ詳しいことは分かりません』でいいんだよ」
「・・・お前な・・・まあ、それでいいか。まだまだ情報不足だし」
「それよか、アルトは大丈夫なのか? ずいぶん肩入れしてる感じだったが」

先ほどの通信での落ち込みよう・・・。
思うところはあるが。

「まあ、大丈夫・・・・・・たぶん・・・・・・きっと・・・」
「---そこは言い切って欲しかったかな!」

わはははと賑やかな声が再び響いて、今日も平和だなと団員達は思った。





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