上 下
6 / 41

6 第一異世界人に遭遇す

しおりを挟む

---第一異世界人。

この世界に来てはや半年。
引き篭もりしていたせいもあるが、いかんせん森がデカすぎた。

この世界の常識も知識もない俺は何処に行けば生き物のいる街があるのか知らない。
マップだって自分のいる森のある程度の範囲しか表示されない。
延々と続く深い森に、そうそうに森から離れることを諦めた。

当面、森の動物たちがいてくれるし衣食住は困っていない。
・・・・・・まぁ、話し相手が同じ言語を話してくれないのでもっぱら独り言だが。

そりゃあ寂しいが、そもそもこの世界の名前も知らないし。
アスガルドって神様の名前だけ。

こんな俺が人里に降りていって目立たないはずがないだろう。
アスガルド神がメールで言ってた。
ハイエルフは稀少で数がいないと。

そんなん、いくら俺がハイスペックでも捕まって奴隷とかで売られたりなんかしたらもう・・・。
いや、奴隷とかあるのかも知らんが。

だから出るの億劫になっちゃって。

毎日のんびりもふもふに癒されて過ごしていたわけで。

それが何故か今、目の前に第一異世界人がいるんだ。
いやいや、もう自分が異世界人と言うかこの世界の人だから言い方がおかしいけれども。


---誰?
ああいや、結界を越えてきたのなら悪い奴じゃあ無いんだろうけど・・・?

俺の頬を撫ぜていた掌がスッと離れる。

懐かしい長い黒髪に琥珀色の瞳。
俺の体の厚みよりも倍くらいある筋肉質な体。
頭には犬っぽい黒い耳が・・・・・・耳?

頭に疑問符を幾つも浮かべて固まった俺をどう思ったのか、その男はことさら優しい声音で俺に話しかけてきた。

「俺はアイントラハトという。黒狼の獣人だ。俺の言っている言葉が分かるか?」
「・・・・・・」

・・・うん、分かるかな。
でもごめん、ビックリしすぎて声が出ないんだ。
ちょっと待って。

「・・・大陸共通語なんだが、通じないか? 森人エルフみたいだし精霊語じゃないと駄目か? 俺、あんまり話せないんだよな・・・『俺の名はアイントラハト。君は誰?』」
「『・・・俺は、カムイ。ジェイド・カムイ』・・・あ、えっと、大陸共通語?も分かる。ごめんなさい、ビックリしちゃって」

俺が『精霊語』?で話した後に大陸共通語という言葉で返したら、あからさまにホッとした顔をした。

「---ああ良かった。何にも反応しないから焦った。初めまして、ジェイド?」
「あ、の。・・・カムイって呼んでくれる? もう誰にも呼んで貰えない名前なんだ。君に呼んで欲しい」

今となっては誰にも呼ばれない名前。
自分はそんなつもりなかったが、寂しそうな顔でもしてたのか、アイントラハトは一瞬辛そうな顔をしてからニコッと笑った。

「ああ、わかった。カムイ」
「ありがとう、アイントラハト」

嬉しくて俺もニコッと笑って言った。

「アルトで良いよ。長いからね」

アイントラハト・・・アルトがそう言って格好いい笑顔を見せた。
イケメンだなあ。

俺は体を起こして周りを見た。
さっきまでもふもふで溢れていたのに、誰一人(一匹?)いなくなってた。

「?」

首を傾げていると、察したらしいアルトが教えてくれた。

「ごめんね、俺が来たから皆帰っちゃったみたいなんだ」
「・・・そう。いや無事ならいいんだ。そっか、帰っちゃったのか」

もっとモフりたかったな。

そんな俺をジッと見つめていたらしいアルト。
俺は気付かずにアルトに声をかける。

「ところでアルトはどうしてここに? ていうかどうやってここに?」

体に付いた草や汚れを軽くはたき落とすと浄化魔法で綺麗にする。

傍に立つアルトを見ると、カムイよりも20cmくらい高い。
カムイが見上げないと目線が合わない。

---いいなあ。
背が高くて体もガッチリ。
やや細マッチョで格好いい。

なんて思いながら見つめてしまったら、照れたのか視線を逸らされた。
そうだよなぁ。
男に見つめられてもなぁ・・・なんかごめん?

「ああ、えっと、どうやって来たかだっけ? ココには空から来た」
「---空?」

思わず見上げるが何もない。

太陽がいつの間にか傾いて森の木々の間に隠れてしまっていたが、それだけだ。

首を傾げていると。

「ふふ、ワイバーンに乗ってきた。上空で飛び降りたんだよ」
「え」

な、なんですと---!!?






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

変態の婚約者を踏みましゅ!

ミクリ21
BL
歳の離れた政略結婚の婚約者に、幼い主人公は頑張った話。

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

【完結】ねこネコ狂想曲

エウラ
BL
マンホールに落ちかけた猫を抱えて自らも落ちた高校生の僕。 長い落下で気を失い、次に目を覚ましたら知らない森の中。 テンプレな異世界転移と思ったら、何故か猫耳、尻尾が・・・? 助けたねこちゃんが実は散歩に来ていた他所の世界の神様で、帰るところだったのを僕と一緒に転移してしまったそうで・・・。 地球に戻せないお詫びにとチートを貰ったが、元より俺TUEEをする気はない。 のんびりと過ごしたい。 猫好きによる猫好きの為の(主に自分が)猫まみれな話・・・になる予定。 猫吸いは好きですか? 不定期更新です。

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...