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後日譚
精霊王は憂う
しおりを挟むアルカスがエルフの里を去ってから数ヶ月。
精霊王は暇をもてあましていた。
『アルカスが遊びに来てくれないよー』
そう、また来るねと言いながらも月に数回しか来られない。
アルカスもそんなに暇じゃないのだ。
『私だってやることはあるけどさあ・・・・・・』
長年やってると体が勝手に動いちゃうから、なんて言うか刺激が足りない、見たいな?
かといって、世界樹からそんなに離れられないし。
『ちょっとお出かけしてこようかなあ・・・あっ、辺境の森って魔素が濃いんだよね? 少し減らしてあげようかな、人の住むところに近いとこ』
ヨシ、そうと決まったら、思い立ったが吉日!
辺境伯領のところに転移・・・・・・出来るけど、目標が欲しい・・・・・・ん?
何か清々しい魔力を感じる。
アルカスの魔力も感じる。
微妙に移動してるけど・・・・・・?
『ま、いいか。そこ目がけて転移っと』
ポワンと光って消えた。
その頃、辺境伯領では何時もの訓練を熟した騎士達が大浴場で汗を流していた。
アーサーも自室の浴室で体を洗い、湯船に浸かっていた。
「---ふう、今日も平和だったな」
魔獣などの被害も無く、穏やかな一日だった。
---が、不意に空気がブレたと思ったらポワンと光って直ぐに、お湯がばしゃんと跳ねた。
「---は?」
『え? 何ここ?! 何でお風呂?? ていうか何で私、濡れてんの?! ま、溺れる!!』
驚いて体勢を崩したら転けて沈みそうになった。
「!! おい、大丈夫か?!」
アーサーが慌てて引き上げる。
明らかに不審者なのだが、イヤな気配は感じなかったので人命救助を優先した。
果たしてお湯から助け出されたのは、先ほど転移した精霊王その人だった。
『げほっ・・・・・・うう・・・死ぬかと思った。いくらなんでもお風呂で溺死は恥ずかしすぎる・・・』
半べそでブツブツ言っていたら、不意に目の前が陰った。
・・・そう言えば、誰かに助けて貰ったんだっけ。
誰か知らないけど、御礼を言わねば!
『あの、ありがとうございま、す---?!』
顔をあげたら、目の前に全裸の男が膝をついてこちらを窺っていた。
位置的に、顔の前にアレが・・・。
男の人の、大きくて立派なアレが・・・。
『---ぅきゃあぁ------?!!』
「・・・っあっ、おい!!」
精霊王はかつて女性だった。
しかし処女で独身で腐女子だった彼女は男性と付き合ったことも無く、他人のソレを生で見るのは初めて。
いや、自分の体で見慣れているのでは?と思った貴方。
ゲームでの精霊王は性別無しだったのだ。
だから男性寄りなのは見た目だけで実際に男性だった訳じゃなく。
エストレラ神に転生させて貰った時に実は男性の体になっていたが、精霊は基本排泄行為が必要じゃ無いので、脱いで見る事も無く・・・。
何の疑問も持たずに100年以上生きていたのだった。
そんな人が目の前に全裸の男を見て叫んだのは仕方ないと思う。
その後、気絶するのも・・・。
アーサーが慌てて支えたので頭は打たなかったが、びしょ濡れで気絶している人を放っては置けないと、抱えて浴室から出る。
しかし軽いな!
空気か?!
「誰か! 客間を用意してくれ。あと服も」
「・・・いかがなさいました、旦那様」
「風呂に急に現れた彼が、溺れて気を失ってしまった」
いや、気絶は多分、俺のせいだが。
「---旦那様、もしやこの方は・・・」
「ああ、見たところエルフのようだ」
そう。
ウィステリア殿によく似ている。
尖った耳、だがプラチナの髪と瞳は見たことがない。
ウィステリア殿とは比較出来ない美貌だが・・・。
「とにかく彼を着替えさせて休ませてくれ。ああいや、俺が着替えさせるから準備を」
「畏まりました」
そういってアーサーは濡れた服を脱がしてタオルで包み、自身も体を拭いて着替えた。
持ってきた服に着替えさせる間も意識は戻らない。
そのまま客間に寝かせて様子を見る。
30分くらい経ったろうか、彼はプラチナ色の瞳でこちらを見た。
「気分はどうだ? エルフ殿」
『・・・・・・大丈夫です・・・あの、ここは』
「辺境伯家だ。俺はアーサー・ペンタグラム。現辺境伯だよ。貴方は何故ここに?」
『・・・あー、そういう・・・。私はエルフの里の世界樹の精霊王です。すみません・・・アルカスの魔力を感じて、そこを目標に転移してしまったんです。そうしたら・・・』
浴槽で寛ぐアーサーの目の前に転移してしまったと。
「ソレは多分、これかと・・・」
そういってアルカスの魔力の籠もったペンダントを見せた。
『・・・恥ずかしすぎる。間抜けもいいとこ。だからアルカスに揶揄われるんだ・・・うぅ』
思わず顔を覆った。
羞恥で顔が真っ赤、首まで赤くなって煽情的だった。
アーサーは思わず生唾を呑み込んだ。
---こんなん、我慢出来るかっての!!
この後は言わずもがな。
初心な精霊王は逞しいアーサーに組み敷かれ、アレアレと戸惑っている内に美味しく頂かれてしまったのだった。
アーサーとしてはかなり強引だったが、実は一目惚れだったのだ。
逃がすものかという執念を感じた。
『---って事があったのぉ・・・』
「ソレは自業自得」
ここは世界樹の枝の上。
話を聞いて欲しいと精霊王が言うので、アルカスがここまでやって来た。
アルカスは話を聞いて、シクシクと泣きながらも嫌がってはいない様子にひと安心した。
ガチで泣かせたらアーサーといえども半殺しするところだ。
『でもさあ、初めての相手に鬼畜過ぎるよ。ナニアレ、アルカスもそうなの?!』
「---あーそーねぇ・・・。なんで俺の周りってヤンデレ鬼畜が多いんだろうね・・・」
『類とも?』
「・・・」
『・・・・・・』
はぁ---。
二人して溜息を吐く。
「まあ、いいんじゃない? アーサー、精霊王とヤっちゃって不老になったんだろう?」
『そーなんだよ! ビックリだよね?! 私も、まさかエッチ出来るとは思わなくて、更にはそんな効果が付くなんて・・・アーサーには悪いことしたなあって。私なんかとエッチしたせいでさぁ・・・』
「いやいや、アーサーは喜んでるって」
『・・・そう?』
「自己肯定が低いなぁ。アーサーって生真面目なんだよ。勢いやその場での雰囲気で流されたりしないよ。愛されてるよ、ティは」
良かったね。
一人じゃ無いし、これで退屈しないね?
なんて笑って言うから、そうなのかなと納得して。
お互いの旦那様が痺れを切らして迎えに来るまで、他愛も無い話で盛り上がっていたのだった。
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