【完結】水と夢の中の太陽

エウラ

文字の大きさ
上 下
71 / 90
第四章 エルフの里編

森の賢者 その2

しおりを挟む
同じ所を歩いているような気がするが、進んでいるのだろうか?

アルカスが時間の感覚がわからなくなってきた頃、ふっと膜を抜けたような感覚があった。

そこを抜けた途端に広がった景色に目を瞠った。

「・・・すげ・・・」

エルフの里だろう、一面の緑の真ん中に、大きな、それはそれは大きくて見事な大木がそびえ立っていた。

アルカスの顔くらいあるキラキラと輝いている葉っぱは緑色だけど、透けて葉脈が見えた。

「あれはの、世界樹ユグドラシルだ」
「はええ---ん? どこかで聞いたような言葉が・・・」
「俺達の住む国の名前がユグドランだからな」

フェイが教えてくれた。
そうだ、ソレソレ!

「あ、じゃあ国の名前ってこの木からとったの?」
「そうじゃ。この国が出来る前からここにあるでの」

へえ、ビックリ仰天!

「ひとまず我の邸へ向かうとしようかの」
「ウィステリアの家ってここから見える?」
「見えるぞ。あそこだ」

そう言って指差した方向を見ると、他の家からけっこう離れた場所に、ぽつんとツリーハウスがあった。

見ると他の家もほとんどツリーハウスになっている。
エルフの里ではこれがデフォルトらしい。
可愛らしいサイズだけど。

「もしかして皆、空間魔法で拡張してるの?」
「そうさの。木の上にそんなに大きなものは建てられん。木も傷むしの。里もさほど広くないし、自然とこうなった」
「緑と共存関係にあるんだね。凄い」

そんな会話を交わしているうちに、里の中へ入ったようだ。
門番らしきエルフがこちらに気付いて声をかけてきた。

「ウィステリア様、ご無沙汰しております。お帰りなさいませ。この方達は?」
「我の連れだ。フォレスター家の方々と親しい友人よ」
「お邪魔します」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますね」

ぶふっ!

フェイが急にしおらしい。
余所行きになった。
思わず噴き出したのでフェイに見えないところを叩かれた。くそう!

「一応規則なので、身分証を見せて下さい」
「はい、どうぞ」
「これです」
「俺はこれです!」

順番に確認していき、アルカスがギルドカードを門番さんに見せた。
ソレを見て門番さん固まる。
・・・・・・残り3人が噴き出す。

「・・・君はエルフだったのか?」
「ちっがーう!! お爺ちゃん、違うって言ってやって!」
「しかしのう・・・」
「・・・・・・お爺ちゃん? ウィステリア様のお孫様?!」

アルカス達の会話に唖然として、門番さんが叫んだ。

「---ウケる!」
「笑っちゃいけないけど・・・ふふっ」
「そこ! 笑ってないで何とかしてよぉ!!」

本日、新たな黒歴史がここに刻まれた。

大騒ぎになって、普段静かな里にアルカス達の笑い声が響き渡る。
なんだなんだと家や畑から顔を出してくるエルフ達。
ウィステリアを見つけると懐かしそうに近寄ってきて、次にアルカス達に気付いてまた騒いだりと、暫く門の辺りはぎゅうぎゅうだった。

最終的に、大勢の大きな体格に囲まれたアルカスがぐったりしてクラビスに抱え上げられてお開き?になった。

結局疲れて寝落ちしたアルカスを抱えてウィステリアの家へと入り、客間に寝かせて落ち着いた。

「ウィステリア様、すみません。ありがとうございます。」
「何、構わんよ。アルカスは大丈夫かの」
「少し休めば大丈夫でしょう」
「それにしても凄かったな。アルカス、もみくちゃにされてたよ」

フェイがキッチンを借りてお茶を入れてきてくれたので受け取る。

「まぁの。エルフは子が出来にくいから、子供を見ると無性に可愛がりたくなるんだよ」

ウィステリアが苦笑して先ほどの様子を思い出す。

自分に気付いてやって来たのに、アルカスを見た途端に構い倒していたエルフ達。
アルカスはアレでも成人しているのだが、見た目が庇護欲をそそる為、分かっていてもつい揶揄ってしまうのだ。

「これから質問攻めにあうだろうな」

今はただ呑気に眠っているアルカスが笑ったり焦ったり拗ねたりする様子が目に浮かぶようだった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

処理中です...