【完結】水と夢の中の太陽

エウラ

文字の大きさ
上 下
44 / 90
第二章 王都編

王都のギルドマスター

しおりを挟む
二階にあるギルマスの部屋へと案内されて、その重厚な扉をリリーさんがノックする。

「リリーです。お連れしました」
「どうぞ」

返事があって、扉が開かれた。クラビスと中に入ると、大きな机に向かって書類を捌いている人が見えた。

・・・少しの違和感。

なんか俺、この人、知ってる・・・・・・?

「そこに座ってちょっと待っててな」
「言われなくても」
「そこは相変わらずなんだな。可愛い嫁さん貰って丸くなったと思ったのに」

ポンポン飛び交う気易い言葉の応酬に、ん? と首を傾げる。

キリがよかったのか顔を上げたギルマスに、んん?

あれ?

・・・領主邸へ帰るのに乗った馬車の乗客にこんな人いなかったっけ?
考え込んだ俺を見て、ニコッと笑った。

『歳の離れた兄弟かい?』

・・・・・・あ。

あの時のおっちゃん?!
下車した時の生温かい視線を思い出す。

「ようこそ、王都の冒険者ギルドへ。二度目ましてかな? ギルドマスターのラクス・フォルターです。アルカス様」
立ち上がってお辞儀をするギルマス。

慌てて俺も立ち上がろうとしてクラビスに阻止された。おい!
「えと、こんな体勢ですみません。アルカス・フォレスターです。よろしくお願いします。・・・もしかして、クラビスのお父さん・・・?」

クラビスに聞いたんだけど、ラクスさんが応えた。
「そうです! やっと会えましたね。あの日以来ずっと会えなかったので寂しかった! あの日はイースのギルドに用があって偶然乗り合わせたんだけど、速攻こっちに戻らないといけなくて。戻ったら戻ったで仕事がてんこ盛りで」

凄い勢いで話し出して止まらない。
リリーさんが後頭部をべしっと叩いていた。

「落ち着いて下さい、ギルマス!」
「・・・スマン」
若干引き気味の俺を見て、ちょっと冷静になったっぽい。
「・・・こんなんだが、父だ」
クラビスが溜息を吐いていた。

クラビスはこうなると分かっていたらしい。
落ち着いたら改めて紹介しようと思っていたが、お父さんの方が暴走したようだ。

「用件はコレだけか? 帰っていいか?」
クラビスが冷たく言う。
あ! 待って待って!
今、今言わないと!

「クラビスのお父さん! 息子さんを俺に下さい! 絶対に幸せにします!」

「ぶふぉ!!!」

リリーさんが吹いて、お父さんが笑顔で固まり、クラビスは首まで真っ赤っかになって顔を両手で覆っていた。

カオス。



あの後、さすがギルマスだけあって立ち直りが早かったラクス義父さんにもちろんオーケーを貰った。

「こんな息子でよければ貰ってやって下さい」

うん、俺が貰われる方なんだけどね。
そして事後報告。

でもなんかやり切った感が凄い!
俺、満足!

なんだかんだ言って、クラビスが一番立ち直れなかった。

何故?

そうそうリリーさんは正式にはアレックス・リリーフと言うそう。

A級冒険者で、歳は29歳だった。ごめんなさい。もっと上だと思ってた。
クラビスが王都で依頼を熟すときに、ソロでは難しい物の時にはよく組んでいたそうです。

「でも、どうして愛称が『リリー』なの? 『アレク』とかでもいいんじゃないの?」
と、俺が聞いたら。
「他のヤツらはアレクとかレックスとか呼ぶけど、ギルマスとクラビスだけはリリーなんだよ。コレには深ーい理由があってな・・・」
と、深刻そうな顔をして言うから。
「え、聞いちゃマズかった?!」
ちょっとどきどきしちゃうよ?

「そんな深刻な話じゃないから。当時好きだった花屋の娘にアプローチするために、自分の名前に入ってるリリー(百合)の花をしょっちゅう買ってはギルマスの部屋(ココ)に飾ってたから、ウザったくて、意趣返しに名前と花の名前をかけて呼んでただけだ」
クラビスが速攻ツッコんできた。

「・・・・・・結局、告る前に振られたんだ。既に婚約者がいたんだよ」
苦笑してサラッと言われたけど。
辛かったよね。
「ごめんなさい」
シュンとしちゃうよ。
「いやいやいや、そこは笑うとこ! そんな顔をしないでアルカス様! クラビスに殺される!」
「よく分かってるじゃないか、リリー」
クラビスがニヤリと笑う。
慌てて言ったリリーさんに、俺も笑って。
「俺もリリーって呼ぶから、さっきみたいにアルカスって呼び捨てでいいよ。いいよね、クラビス?」
非常に渋い顔のクラビスが、仕方なさそうに頷いたのでおけ!

リリーは、今日は珍しい物をたくさん見たなと笑っていた。

俺の前だといつもこんなもんよ?



「さて」

ギルマスが仕切り直した。
やっぱりさっきの件は前置きだったようだ。

「Sランクのお前を呼んだのは、討伐依頼のためだ。ちょうどこちらに来ていたから呼んだが、イースのギルドにも連絡は行ってる」
「・・・辺境伯領絡みか?」
「そうだ。辺境伯領の近くでグリフォンらしき物が目撃された。その調査と、可能なら討伐をとの依頼だ」

ギルマスが資料をクラビスに手渡す。
それを目に通しながらクラビスが言った。
「・・・急ぎか?」
「いや、直接的な被害はまだない。そもそも今ココにいるお前が辺境伯領に行くのには数日かかるだろう? 今回は王家の許可で転移魔法陣が使えたが、そんな簡単には使えない」

ん?

俺が戻ってからしょっちゅう使ってる気がするんだけど?

疑問が顔に出てたと思う。
クラビスがにっこり笑いかけた。
あ、はい。
聞いてはいけないヤツですね?
お口チャック。

「こっちとしても、婚姻の証を制作中だし昨日の今日だから準備期間が欲しい。アルカスを置いていけないから、相応の支度をしないといけない。フェイも同行させていいか?」
「え、俺も着いてっていいの?」
「本来は危険だしダメなんだけどね、俺達、番だから離れられない。離れたくない」
クラビスが真顔で言った。

確かに俺も離れたくない。

「・・・番?」
リリーが怪訝そうに呟いた。
「リリー、この2人は称号に互いが夫夫という証が記されているんだよ。『クラビスの嫁』『アルカスの夫』って。エストレラ神の神託でも『番』と認められた」

リリーが唖然とした。
「・・・え、お前ら人族だよな? 龍人や獣人の『番』と同じって事か? ・・・通りでクラビスの執着が過ぎると思ったわけだ」
はーっと溜息を吐いて、納得した顔だった。
「番に対しての愛情の重さは凄いらしいからなあ」

それな!

「なあ、その依頼、俺も受けていいか? ヤバい時に役に立つぜ?」
リリーがニカッと笑って言った。
「もしもの時にアルカスの盾くらいにはなるぜ!」
「ヨシ、いいだろう」
「え、いいんだ?!」
「いいんだよ。アルカス様の為には」
ギルマスまで。
「それにそこいらのヤツよかよっぽど強いぜ」

・・・・・・そう言う事なら。

「じゃあよろしくお願いします。俺の方こそ足手まといなのに・・・」
「ソレはない!」
クラビスとギルマスにツッコまれた。何故?

「リリー、今回、一緒に組むにあたって、誓約魔法を使わせてもらう。嫌ならこの話はなしだ」
「いいぜ。面白そうだ。お前らなら信用してる」
「助かる」
そう言って魔法を使った。

「で? そこまでする理由はなんだ?」
「アルカスの事だ。他言無用。誓約で話せないだろうが、かなりヤバいのでな。とりあえず、アルカスの魔法がヤバい。独りでポンポン転移出来る。おそらく世界中ドコでも」
「・・・・・・まじか」
リリーが茫然自失。ごめんね?
「他にも、初級魔法が初級ではない。威力が過ぎる」
「ーーーへー」
棒読みだぞ、リリー。

「とにかく非常識の塊なので、一々驚かないように」
「・・・・・・分かった。・・・一応」

それから少しして復活したリリーと今後の打ち合わせをして、一旦タウンハウスに戻る事になった。
「フェイにも声をかけないとな」
「そうだね」
「ケーキも届いているんじゃないか?」
クラビスに言われて思いだした!
「ケーキ!!」

頭がケーキでいっぱいになった俺は、ギルマスとリリーに手を振って、クラビスに抱っこされて邸に戻った。






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

キスから始まる主従契約

毒島らいおん
BL
異世界に召喚された挙げ句に、間違いだったと言われて見捨てられた葵。そんな葵を助けてくれたのは、美貌の公爵ローレルだった。 ローレルの優しげな雰囲気に葵は惹かれる。しかも向こうからキスをしてきて葵は有頂天になるが、それは魔法で主従契約を結ぶためだった。 しかも週に1回キスをしないと死んでしまう、とんでもないもので――。 ◯ それでもなんとか彼に好かれようとがんばる葵と、実は腹黒いうえに秘密を抱えているローレルが、過去やら危機やらを乗り越えて、最後には最高の伴侶なるお話。 (全48話・毎日12時に更新)

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

市川先生の大人の補習授業

夢咲まゆ
BL
笹野夏樹は運動全般が大嫌い。ついでに、体育教師の市川慶喜のことも嫌いだった。 ある日、体育の成績がふるわないからと、市川に放課後の補習に出るよう言われてしまう。 「苦手なことから逃げるな」と挑発された夏樹は、嫌いな教師のマンツーマンレッスンを受ける羽目になるのだが……。 ◎美麗表紙イラスト:ずーちゃ(@zuchaBC) ※「*」がついている回は性描写が含まれております。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

僕の爽やかイケメン、Ωの兄はドジで可愛く愛おしい

ミヒロ
BL
超ドジなΩの兄×そんな兄を見守るしっかり者の弟のΩ ※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...