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第一章 フォレスター編
あの一週間 2(sideクラビス)
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*前話同様、クラビスのイメージが壊れると思われる方は読み飛ばして大丈夫です*
5日目の朝。
アルカスはまだ寝ていたが、自分の身支度を整えてしまおうとベッドから降りようとしたら、寝衣の上着の裾をアルカスが掴んでいるのに気付いた。
全く起きる様子はなさそうで、仕方なく上着をそっと脱いでアルカスに押しつけると、へにゃっと幸せそうに抱え込んで寝直してしまった。
可愛いが過ぎる!
急いで身支度を整えてアルカスの元へ戻ると、ベッドの上で俺の寝衣を抱えて上半身を起こしている。
だが、様子が変だ。
「アルカス、おはよう」
声をかけたら、泣きそうな顔をしたアルカスがこっちを向いて、その拍子に眦からポロッと涙が零れた。
「っ、アルカス、どうしたんだ?」
慌てて走り寄るとぎゅっと抱きしめた。
アルカスも抱きしめ返してくる。
「・・・っ、くらびすが」
「? 俺?」
何かしたか?!
「くらびすが、起きたらいなくってぇ・・・っ、おれ、また・・・ひとり・・・」
「ーーーっ、ごめん。ちょっとならって離れてて、ごめんな? 大丈夫。側にいるよ」
ぽろぽろと、声にならない声で涙を零すアルカスの頬を、眦を、鼻先を、口づけて慰める。
漸く泣き止んで、落ち着いたアルカスに聞く。
「着替えて一緒に食堂に行くかい? 何時もなら飲み物だけど、目が覚めているうちにスープとか飲もうか」
「ん」
そう言って支度を俺に任せ、俺の縦抱っこで食堂に向かった。
ちょうど皆も食事で集まっていて、口々に声をかけてくる。
「おはよう、アルカス。調子はどうだ?」
「おはよう。まだ眠そうだな」
「アルカスにクラビス、おはよう。なんかアルカス、目が赤いけど、泣いたか?」
「何?! クラビスお前泣かせるような事をしたのかっ?!」
「アルカス、辛いなら爺様のところへおいで?」
各々好き勝手に言っている。
確かに泣かせたが。
何も言わずにいると、アルカスがとろんとした目を開いて、
「クラビスは悪くないの! 俺が勝手に悲しくなっちゃったの。目が覚めたときにクラビスがいなかったから・・・」
と、庇うように言った。
それを聞いた皆は、大量の砂糖を口に入れたような何とも言えない顔をしていた。
「朝からゴチソーサマ」
ぽそっとフェイが呟いた。
聞こえないふりをする。
「取りあえず食事をしましょう。アルカスには消化のいいスープと白パンをお願いします」
そう言って当然のように俺の膝に乗せて座らせた。
もちろんアルカスは拒否しない。むしろぎゅっとしがみついてくる。
ああ幸せだ。
食事中はアルカスが『あーん』をせがみ、食べ終えたら例の飲み物を口移しでせがむので、当然のように口移しで飲ませた。
他の皆?
もちろん食事中はガン見していて、口移しのくだりからはソッと視線を外していたが?
俺は全く気にしない。
そんな食事を終えると、満腹になったからか、疲れたのか、再び寝てしまった。
ベッドに寝かせる前に寝衣に着替えさせねば。
と考えていると、フェイが声をかけてきた。
「しっかし、アルカスってこんなヤツだったんだなあ・・・」
「ふむ。半覚醒状態だから深層心理が出やすいのだろうな。それだけ普段は抑制が強いのだろう。・・・本来なら、赤子の頃から当然のように受け取る愛情を貰えず、ずっと我慢してきた。無意識に、甘えられる存在を感じているのだ。好きにさせてやるといい」
ウィステリア様の言葉が胸に刺さる。
それと同時に、いいようのない悦びの感情が湧き起こった。
唯一無二の。
アルカスの言葉を借りるなら『比翼連理』。
早く目覚めて欲しい気持ちと、このままずっと素直に甘えて欲しい気持ちと。
そんな心情でこの日は1日過ごした。
アルカスはあれから目が覚めなかったが、だいぶ起きていられたから、明日はもっと話せるだろう。
おやすみ、アルカス。
そして6日目。
朝は起きなかったが、昼前には目を覚まして、昨日のように甘えてきて、当然俺も目一杯甘やかし、お風呂に一緒に入っている時に寝てしまったアルカスの寝支度を整えて抱きしめて眠った。
7日目。
朝からハッキリと目を覚まして、抱きしめていた俺を目にした途端、顔を真っ赤にした。
これは元に戻ったなと、それでも何時ものように顔中に口づけて、ぷるぷる震えるアルカスをギュッとして安堵する。
昨日までの事を覚えてなくても、今のアルカスでもどれも全部愛しいアルカスなのだから。
だから、周りをうかがうのはやめろ。
使用人にも目を向けて聞こうとするな。
フェイになんか聞いたらマズいだろう。
ん?
・・・さすがのフェイも揶揄えないか。
皆の生温い目を見て、諦めたようだな。
俺は全く気にしないが、お前は確実に悶え死にするぞ。
『知らぬが仏』
いい言葉だな。
この一週間(色んな意味で)耐え抜いた俺は本っ当にエラかった!
5日目の朝。
アルカスはまだ寝ていたが、自分の身支度を整えてしまおうとベッドから降りようとしたら、寝衣の上着の裾をアルカスが掴んでいるのに気付いた。
全く起きる様子はなさそうで、仕方なく上着をそっと脱いでアルカスに押しつけると、へにゃっと幸せそうに抱え込んで寝直してしまった。
可愛いが過ぎる!
急いで身支度を整えてアルカスの元へ戻ると、ベッドの上で俺の寝衣を抱えて上半身を起こしている。
だが、様子が変だ。
「アルカス、おはよう」
声をかけたら、泣きそうな顔をしたアルカスがこっちを向いて、その拍子に眦からポロッと涙が零れた。
「っ、アルカス、どうしたんだ?」
慌てて走り寄るとぎゅっと抱きしめた。
アルカスも抱きしめ返してくる。
「・・・っ、くらびすが」
「? 俺?」
何かしたか?!
「くらびすが、起きたらいなくってぇ・・・っ、おれ、また・・・ひとり・・・」
「ーーーっ、ごめん。ちょっとならって離れてて、ごめんな? 大丈夫。側にいるよ」
ぽろぽろと、声にならない声で涙を零すアルカスの頬を、眦を、鼻先を、口づけて慰める。
漸く泣き止んで、落ち着いたアルカスに聞く。
「着替えて一緒に食堂に行くかい? 何時もなら飲み物だけど、目が覚めているうちにスープとか飲もうか」
「ん」
そう言って支度を俺に任せ、俺の縦抱っこで食堂に向かった。
ちょうど皆も食事で集まっていて、口々に声をかけてくる。
「おはよう、アルカス。調子はどうだ?」
「おはよう。まだ眠そうだな」
「アルカスにクラビス、おはよう。なんかアルカス、目が赤いけど、泣いたか?」
「何?! クラビスお前泣かせるような事をしたのかっ?!」
「アルカス、辛いなら爺様のところへおいで?」
各々好き勝手に言っている。
確かに泣かせたが。
何も言わずにいると、アルカスがとろんとした目を開いて、
「クラビスは悪くないの! 俺が勝手に悲しくなっちゃったの。目が覚めたときにクラビスがいなかったから・・・」
と、庇うように言った。
それを聞いた皆は、大量の砂糖を口に入れたような何とも言えない顔をしていた。
「朝からゴチソーサマ」
ぽそっとフェイが呟いた。
聞こえないふりをする。
「取りあえず食事をしましょう。アルカスには消化のいいスープと白パンをお願いします」
そう言って当然のように俺の膝に乗せて座らせた。
もちろんアルカスは拒否しない。むしろぎゅっとしがみついてくる。
ああ幸せだ。
食事中はアルカスが『あーん』をせがみ、食べ終えたら例の飲み物を口移しでせがむので、当然のように口移しで飲ませた。
他の皆?
もちろん食事中はガン見していて、口移しのくだりからはソッと視線を外していたが?
俺は全く気にしない。
そんな食事を終えると、満腹になったからか、疲れたのか、再び寝てしまった。
ベッドに寝かせる前に寝衣に着替えさせねば。
と考えていると、フェイが声をかけてきた。
「しっかし、アルカスってこんなヤツだったんだなあ・・・」
「ふむ。半覚醒状態だから深層心理が出やすいのだろうな。それだけ普段は抑制が強いのだろう。・・・本来なら、赤子の頃から当然のように受け取る愛情を貰えず、ずっと我慢してきた。無意識に、甘えられる存在を感じているのだ。好きにさせてやるといい」
ウィステリア様の言葉が胸に刺さる。
それと同時に、いいようのない悦びの感情が湧き起こった。
唯一無二の。
アルカスの言葉を借りるなら『比翼連理』。
早く目覚めて欲しい気持ちと、このままずっと素直に甘えて欲しい気持ちと。
そんな心情でこの日は1日過ごした。
アルカスはあれから目が覚めなかったが、だいぶ起きていられたから、明日はもっと話せるだろう。
おやすみ、アルカス。
そして6日目。
朝は起きなかったが、昼前には目を覚まして、昨日のように甘えてきて、当然俺も目一杯甘やかし、お風呂に一緒に入っている時に寝てしまったアルカスの寝支度を整えて抱きしめて眠った。
7日目。
朝からハッキリと目を覚まして、抱きしめていた俺を目にした途端、顔を真っ赤にした。
これは元に戻ったなと、それでも何時ものように顔中に口づけて、ぷるぷる震えるアルカスをギュッとして安堵する。
昨日までの事を覚えてなくても、今のアルカスでもどれも全部愛しいアルカスなのだから。
だから、周りをうかがうのはやめろ。
使用人にも目を向けて聞こうとするな。
フェイになんか聞いたらマズいだろう。
ん?
・・・さすがのフェイも揶揄えないか。
皆の生温い目を見て、諦めたようだな。
俺は全く気にしないが、お前は確実に悶え死にするぞ。
『知らぬが仏』
いい言葉だな。
この一週間(色んな意味で)耐え抜いた俺は本っ当にエラかった!
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