【完結】水と夢の中の太陽

エウラ

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第一章 フォレスター編

還ってきた子(sideウィステリア)

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今日、久方振りにフォレスター家に赴いた。
例の三男に一般常識を教えて欲しいと、イグニスに頼まれたのだ。

三男-アルカスが時空の歪みに呑まれて消えてから、はや19年。
20歳までに見つからねば諦めよう・・・そう決めていたという。そんな矢先、神の采配か、クラビスの元へ還ってきた。

あの者達の歓喜は如何ほどのものか。

よもや異世界へと渡っていたとは。よくぞ無事で、と言わざるを得ない。

「それにしても小さかったな」

思い出すのは、もっくもっくと口を動かして一生懸命食べる姿。
とてももうじき20歳を迎える姿ではない。明らかに成長が阻害されていた。

聞けば、その異世界は魔力がないと言う。代わりに天然の資源や、ソレを加工したモノを使うそうで。

想像もつかないが。

彼にとっては慣れた世界であっても、本来はこちらの人間。体は悲鳴をあげ続けたろう。

生きるためにも魔力は必要不可欠。
魔力欠乏に陥っただけで昏倒する。
生命維持の為の生存本能。

枯渇すると、今度は生命を削っていく。
対処しないと死に至る。

ソレを生まれて間もない赤子が、およそ20年毎日枯渇状態で生きていくには、死なない程度に身体の一部を少しずつでも生命エネルギーに変えるしかない。

その結果、生き延びはしたが小柄な体になった。

考えるだけでも末恐ろしい子だ。ソレを無意識下で行っていた訳だから。魔法を会得したらどうなるか、と。
楽しみ半分、怖さ半分。

そして今は、慢性的な魔力枯渇から魔力欠乏に移行しているが、どうやら循環がうまくいってないようだ。
体と魔力の器の統合がまだまだのようだ。ゆっくり経過を見るようだな。
本来は赤子のうちから少しずつ馴染んでいくものだしな。

先の魔法教師を任ぜられたフェイによると、膨大な魔力を持つだろうと。
ソレは私も感じた。
魔力欠乏から抜け出すにはまだほど遠いだろう。それにしても。

「孫がいたらあんな感じなのだろうな」

去り際に頭を撫でたら、爺様を見るような目でほわん、としていた。

エルフは元々子供が出来にくい。そもそも長命種は、伴侶が出来ないとそういった気にもなりにくい。エルフは特に。

まあ、番を得た竜人や獣人はその限りではないが。

それ故、子供が産まれると皆で見守り、育て、可愛がる。ここ暫く、エルフの子も産まれていない。久しく感じていなかった親愛をあの子に感じて。

「久方振りに気持ちが高揚しているようだ。悪くないな。この感情は」

まずは常識がどれ位違うのか擦り合わせていかないと。ああ。赤子に教えるように一からやらないといけないかな?

「ふふふ、明日が待ち遠しい何てね」

頭の中で必要な資料をピックアップしていく。
後はこちらでも魔力の循環を手助けしようか。フェイに確認しよう。





《先生、それで、どうでしたか? アルカスは》
夜になり、イグニスから伝達魔導具に通信が入った。

「いい子だね。そして色々と可愛らしい。小動物のようで」
もっくもっくと口を動かしている姿を思い出して笑ってしまった。

《本人は不本意らしく、そう言うと拗ねてしまうのですが》
イグニスは苦笑しているが。
「帰り際に頭を撫でたら喜んでいたよ。私を爺様のように見ていたが」
《え、それは、その》
申し訳なさそうにイグニスが頭を下げるが、いいのだ。
「何、こちらも孫をみるような気持ちだったから気にするな。何というか、無条件に可愛がりたくなるな」
《そうですね。今までの分、甘やかしてしまいたくなります。いけないとは思っているのですが・・・》

親心、だな。

「だが、思ったよりは甘えてこない。まあ、クラビスには別のようだが。・・・甘えられる環境ではなかったんだろうな」
《それを思うと、胸が痛みます》
「まあ、追々とな。とりあえず、体調を見ながら明日から勉強をしていこうか。・・・魔力の件はどこまで把握している?」

暫く沈黙した後、イグニスが話し始めた。

《異世界で生きていたのは奇跡と。魔力枯渇の影響で小柄らしいと。未だ欠乏状態で、休息の為に頻繁に倒れること・・・ですかね》
「うむ、概ねその通りだね。フェイも色々考えているようだから、また時間のあるときに情報を擦り合わせようか」

《こんな時、王都にいることが歯痒いですね。すぐに駆けつけられない。この間は王家に話を通しての緊急措置でしたので》

ああ。アルカスの帰宅に合わせて転移魔法陣を使ったって。

王家も、フォレスター家がずっとアルカスを探していたことを知っていたし、将軍職を蔑ろにしていたわけでもない。息子共々しっかり勤め上げている。
今は国の情勢は穏やかで魔物退治なども少ない。
一週間やそこら休暇を取っても問題なかった。

最も、半分くらいはアルカスが眠っていて交流が少なかったようだが。

「王家もアルカスに会いたいと言わなかったかい?」
《・・・王に言われました。が、慣れるまでは暫く遠慮させていただきますと》
「確かに、今の状況では無理だろうね。それこそ謁見中に倒れそうだ」
思わずクスリ、と笑ってしまった。
《笑い事ではございません》
「ごめん。まあ、あんまりしつこいようなら私が釘を刺そう。本当に当分無理だからね。可愛い『孫』の為に一肌脱ごう」

《・・・ありがとうございます》
幾分かホッとして、では、またと通信を切ったイグニスだったが。




「・・・爺様、か」
執務室で空気を読んで静かにしていたクレインとガラシアが、イグニスがしみじみと呟く言葉に噴き出した。

「あの方にはどうあっても似合わない言葉のはずなのに、何故かしっくりくるな」
「アルカスを孫扱い」
「そのアルカスがウィステリア様を爺様扱い」

目に浮かぶようだった。

その後の執務室は主(イグニス)が帰るまで、ほわんとした空気に包まれていたそうだ。



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