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ノースライナ辺境騎士団 1

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その日は年に一度、月が二つとも満月になる日だった。

そういう日は魔物や魔獣の動きが活発になる。

この辺境伯の北に位置する森も数日前から不穏な空気に覆われて居た。

我々辺境騎士団もこの時期は泊まり込みで森の巡回に当たっていた。

「毎年見ているが今日の月はいつもより大きくて冴えている気がするな」
「やっぱりそう思いますか、ヒューズ団長」

独り言だったが、ソレを耳に挟んだヤツがいたようだ。

「ダグラスか。ああ、なんかイヤな予感がする」
「胸騒ぎのような、落ち着かない感じですね」

言った側から、森から魔狼の遠吠えが聞こえて待機していた騎士達が慌ただしく動き出した。

それぞれの持ち場へ散っていく部下達を横目に俺は声のする方へと駆けだした。

「っヒューズ団長?!」
「お前たちは待機してろ!」
「ちょっと!! ああもう! 部隊長、少し外す! いつも通りにやっててくれ!」
「えええ?! ダグラス副団長?!」

そういって二人は森へ入っていった。

「・・・どうしたんだ、ヒュー。いつものお前らしくない」
「っ悪い。なんか、勘が告げるんだ。早く行けって」
「・・・・・・お前の勘はめちゃくちゃ当たるからなあ。仕方ない。付き合うぜ」

俺達は従兄弟同士でお互い気の置けない間柄だから二人の時はよく敬語も無しで気安く話す。
・・・・・・部下達の前でもよくタメ口になるが。

少しして、上の方から魔狼の声と何かが滑り落ちる音、その中に微かに人の呻き声が混じって聞こえた。

「まさか、この時期に森に人が・・・?!」
「・・・俺の勘が的中して怖いぜ」
「何言ってるんだ! 急がないと!」

魔狼はテリトリーから外れたからか、下に降りては来なかった。
助かった。

暗闇の中、月の光だけを頼りに急いで転がり落ちたと思われる場所へ走って行くと、太い木の根元に背中を打ち付けたようで、体を丸めて横になっている人が居た。

遠目で見ても小柄で、子供のようだ。
見慣れない服は、落ちたときにあちこち引っかけたのだろう、汚れて所々裂けていた。

「おい、大丈夫か?!」

声をかけながら近付いていくと、目は瞑ったまま、頭を庇っていたらしい腕が力なく垂れた。
不味い、意識がないようだ。

「ヒュー」
「ああ、分かってる」

落ちたときに咄嗟に庇ったのだろう。
汚れてはいるが頭部や顔に目立った傷はない。だが背中は木に打ち付けたはず。
打撲ですめばいいが、骨に異常があるかもしれない。
こんなに細い体で勢いに任せてぶつかったなら何処か折れている可能性が高い。

ザッと見て手足は折れてなさそうだと、背中を避けて静かに抱き上げる。

「意識が無い。急いで野営地に戻って手当をしないと・・・」
「俺が先に戻って知らせてくるから、慌てないで戻ってこい」
「助かる」

そういって先に走って戻って行ったダグラスを見送り、子供をそっと抱え直して振動を与えないように静かに、だが迅速に足を運ぶ。

「・・・・・・ぅ」

小さな声に子供の顔を見ると、土で汚れてはいるが、月明かりに照らされて恐ろしく綺麗な顔が見えた。

ドキッとした。
さっきはじっくり見る余裕が無かったが、めちゃくちゃ俺の好みだった。

しかし・・・・・・。

「・・・女の子か?」

身形は男の子の様だが、男装しているのかもしれない。

髪は襟足が少し長い位で、よく見るとこの世界では珍しい黒髪だ。
珍しいというか、ほとんどいない。
稀に現れる異世界人-稀人マレビト-とその子孫くらいだ。主に黒髪、黒や濃い焦げ茶色の瞳で・・・・・・。
・・・・・・瞳は分からないが、まさかこの子も?

とにかく、野営地に戻って早く傷を癒してやろう。

ヒューズは更に速度を上げた。
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