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番外編 セラータ 後日譚
しおりを挟む俺はセラータ。
ドーン公爵家のアルヴァに嫁入りして今年で三年目、今は24歳になった。
相変わらず成長が遅いので、見た目はほとんど変わらない。
俺は嫁入りなんで、基本的にはドーン公爵家に住んでいる。
でも実家のダスク公爵家はお隣だからしょっちゅう里帰りするし、何なら職場が基本王宮だからほぼ毎日アディス達と顔を合わせてるんだけどね。
でも今日、何時もよりも身体が怠くて珍しく仕事を休んだ。
寝てるはずなのに眠くてうたた寝しそうになったり、若干気持ち悪くて食欲がない。
それをアディス父様に相談したら、仕事中にもかかわらず早退してすぐにドーン家に来てくれたんだけど・・・・・・。
「───うん。おめでただね」
俺を見るなりそう言った。
「・・・・・・おめでた・・・・・・?」
俺は一瞬意味が分からずにそう返した。
おめでた・・・・・・おめでたって、うん?
───ああああ! 子供が出来たっていうアレか!!
「そう。お腹に赤ちゃんいるよ。魔力がソッチにどんどん流れてる」
「・・・・・・ええと、育つのに母親の魔力が必要ってことだっけ?」
「そう。セラは魔力量が私より多かったはずだけど、お腹の子は相当な大食らいだね。めちゃくちゃ吸収されてて魔力不足になってるんだよ」
アディスに言われてちょっと集中すれば、確かにお腹に魔力がぐんぐん吸いとられてる。
それに言われてみれば症状が魔力不足になってきたときのアレに酷似してる。
「そういうこと・・・・・・? え、待って。アルヴァに何時もたくさん魔力譲渡されてるのに、足りないの!?」
毎晩すんごい量の精液を注がれてるんだけど!?
その余剰分の他に俺の魔力も吸ってて足りないって、もの凄い吸引力ですね、ウチの子!
「ええとね、過去にもの凄く魔力を吸収した子がいたらしいんだけど、最初の数週間で落ち着いてあとは緩やかになったみたい」
「・・・・・・数週間はこんな状態ってこと!? どうすんの? これじゃ仕事どころじゃないよ!」
俺が思わず叫べば、なんてことないようにアディスが言った。
「落ち着くまでアルヴァと毎日一日中、魔力譲渡して貰って? こういうのも特別休暇で取得できるから」
「子は宝。そのためにキチンと補助や援助の法が定められているんだよ。だからアルヴァのも特別休暇の申請しておくね」
アディスがサラッと言うと、追加情報としてエヴァルドがそう言った。
「アディス、俺達も早く欲しいねー」
「え・・・・・・ぅ、うん、そーだね」
当然のようにエヴァルドもくっ付いてきてアディスにべったり。アディスは若干照れてる。
そしてアルヴァも当然、アディス達と一緒に帰ってきて俺に引っ付いている。
アルヴァはおめでたと聞いてキョトンとしたあと、じわじわ実感が湧いてきたようで顔をほんのり赤くして俺をぎゅっとしている。
おい、無駄に強い力で俺のお腹を潰すなよ!?
ちなみにドーン公爵家もダスク公爵家もお祝いムードでこのあと大変だった。
で、俺達といえば、アディスの言葉通り番ったばかりの蜜月のように昼夜問わずの発情期状態に突入することになった。
「どれくらいの期間か分からないけど、必要以上に吸収されなくなるまで頑張って」
にこやかに笑いながらアディスはエヴァルドとダスク公爵家に帰っていった。
残された俺とアルヴァは、有無を言わせず夫夫の寝室に押し込められた。
「とにかく最低でも数週間は魔力譲渡しないといけないんだから、アルヴァは今から頑張って譲渡しなさい」
「こっちのことは気にしないでいいから!」
「「励みなさい!」」
ダスク公爵夫妻にもそう言われて、こうして俺達は寝室に軟禁生活が決まったのだった。
───結局、二人が寝室から出られたのはおよそ一ヶ月後。
ほぼ一日中、毎日ヤって魔力譲渡していたであろう苛酷な(笑)環境にもかかわらず、アルヴァは肌艶っつやのいい笑顔で、セラータは肌艶こそいいものの、腰が死にまくったようで最後には自身に治癒魔法をかける気力すらなかったそう。
でもまあ、おかげで腹の子は無事にある程度の魔力吸収で済むようになった。
それからおよそ二ヶ月後。
セラータは卵で第一子を生んだ。
片親が竜人だったため、妊娠期間はおよそ三ヶ月で卵生だった。
生まれたあと少しして自力で殻を割り現れた子は、アルヴァに似て黒髪黒瞳の可愛らしい黒い鱗の仔竜だった。
ある程度の年齢になると人化するそうだ。
竜人は人化するまでは何でも食べるらしい。
すでに人族でいうところの1歳児くらいだそうで、俺達の魔力を吸収したり普通にミルクや肉、野菜、果物も食べる。
ただかぎ爪のある前脚でモノを掴むのが難しいため、基本は鷲づかみか俺達がフォークやスプーンで食べさせてあげてる。
嬉しそうにクルルッと喉を鳴らして、とても可愛い。
ちなみに名前は夜明けと名付けた。
俺が生まれる前から色々なことがあったけど、決して明けない夜はない。
その希望の光の結晶であるアウロラ。
穏やかな日々の中、すくすく育ってくれたら、それでいい。
───翌年、アディスが待望の第一子を妊娠して、まさかのカーティスの番いだということになっててんやわんやになったり、俺がまたあまり間を置かずに第二子を妊娠したり、アディスも再びおめでたになったりと、何でかポンポン孕んじゃって毎年のようにお祭り騒ぎのドーン公爵家とダスク公爵家だった。
そこにしばらくしてカーティス公爵家(ラインの実家)も加わるのはそう遠くない未来───。
数十年後・・・・・・。
「竜人族って子供が出来にくいんじゃなかったの!?」
「個人差だろう」
「んなわけあるか! 何でもソレですますなよ!」
「えー、だってソレを言ったらラインだってエルフなのに子だくさんだし?」
すでに片手分の子供達に囲まれて、ただいま絶賛6人目を妊娠中の俺が思わずぼやくと、アルヴァは真面目な顔でそうのたまった。
確かにカーティス公爵家のラインも番いを得てから『性欲に淡白? 誰のこと?』ってくらい愛しまくっているらしく、あちらもただいま第三子妊娠中らしい。
「・・・・・・何でだ? 俺、スローライフは出来ないのか?」
昔、ちょっと憧れた片田舎でのんびり自給自足生活・・・・・・。
「無理だろう」
「「「母上、ソレだけはご希望に添えられません」」」
「「ダメ! 母上はここにいるの!」」
「・・・・・・あーうん、言ってみただけ。もう出来ないって分かってるから大丈夫」
アルヴァに加えて子供達の声に苦笑した。
子供達はそれぞれ近衛騎士や魔導師、騎士にと入団して活躍している。
あとは成人前でまだ家にいる子達。
今日は俺の誕生日ということで休暇を取ってお祝いしてくれていた。
「昔、アディス父様に助けられる前にちょっと思ったんだ。死ぬ前にそういうところで静かに暮らしたいって」
あの、スラムに捨てられて死にかけたとき、何でか頭に浮かんだ風景。
前世の俺が願ったことだったのかも。
「今はね、皆がいるこの場所が俺の生きる場所だから、もう行きたいって思わないよ。ソレに──」
俺はちょっと言葉を溜めて言った。
「ここの庭でキャンプだって出来るもんね。今度、皆でわいわいがやがやと食べて飲んで、テントで眠ろう」
「野営、ですか? 母上」
「いいや? ただ楽しいだけの外でのお泊まり会、かな」
「「「楽しそう!」」」
「じゃあ、この子が生まれて落ち着いたらやろうか」
「うん」
この先の未来が語れるって、幸せ。
長生きも悪くないよね。
※次話、もう一度カーティスの番外編で一応完結予定です。
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