29 / 40
29 やっぱりハッピーエンドでしょ
しおりを挟むぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうみたいになってひとしきり泣いて、俺がやっと落ち着いた頃にはお昼ご飯の時間になっていた。
誰かの・・・・・・いやアルヴァの腹の虫が空気を読まずにぐうぅっと鳴って、皆でぽかんしたあと誰ともなく吹き出して笑い出した。
「・・・・・・アルヴァらしいっていうか・・・・・・」
「・・・・・・仕方ないだろう。健康優良児なんだから腹は減る」
「うん、確かに健康優良児だね。ふふっ」
側でずっと見守っていたサイモンがまなじりを若干赤く染めながら昼食の準備に向かった。
「ああ、うん。何かスッキリした」
「・・・・・・ソレならよかった」
俺は晴れ晴れとした顔をしていたんだろう。アルヴァもアディスもエヴァルドもホッとしたようだった。
本当は前世で何時俺がお腹にいるのが分かったのかとか、アディスが亡くなったときのこととか気になることはたくさんあるけど。
アディスにとってもエヴァルドにとっても辛い話題だろうし、アディスが言わないことをこちらから聞くのも何か違うし。
大体、言わないと決めてるアディスはこちらがいくら突っつこうとはぐらかして教えてくれないのはわかってるから・・・・・・。
いつか話してもいいと思ったときに教えてくれればいいや。
少しして食堂に移動した俺達の目の前には、俺やアディスの誕生日のときに用意されるおっきなケーキがデデンッと置かれていて。
「「「おめでとうございます!!」」」
邸の使用人達がズラッと並んでいて、拍手と共にお祝いの言葉をくれた。
俺が引き取られて養子になって、その時から皆、優しくて・・・・・・。
家族みたいな人達だったから、こんな不意打ち、嬉しくてまた泣けてきた。
「「っありがとう」」
見ればアディスも涙目で、俺達は声を揃えてお礼を言ったのだった。
さっきの今でアレだけのご馳走やケーキを用意してくれて、少し前に遅めの朝食を食べたばかりなのにいつもより食べ過ぎて、疲れが残っていた俺は食後の紅茶を飲みながらこくりこくりと舟を漕いだ。
「セラータ、眠いなら寝室で・・・・・・」
「ぅむぅ・・・・・・ん、アル、抱っこぉ・・・・・・」
「───っふ、アディス様、よろしいですか?」
アディスに律儀に断りを入れるアルヴァににまっと笑ってしまった。
アディスも柔らかい口調で返す。
「アルヴァ、義理の親子になるんだからそんなに堅い口調は止めて私のことは好きに呼べばいいよ。ああでも複雑だな。今は義理の兄になるのか? でもセラと婚姻するんだから義理の息子で、私は義父? いや義母?」
むむむっと考え込むアディスをエヴァルドが笑って見つめている。
「見た目はセラータとほとんど変わらないんだし、とりあえずアディス義兄上って呼んで貰えばいいんじゃない?」
エヴァルドにそう言われて、それもそうかと頷くアディスに俺は半分閉じた目を向けてぽそっと言う。
「おやすみぃ」
「おやすみ、セラ」
「おやすみなさい、セラータ」
アディスとエヴァルドに挨拶されて、俺は安心してアルヴァの胸に頭を預けて本格的に眠りに入った。
───気付けばアルヴァも一緒に横になって俺を抱きしめて眠っていて、いつの間にかこの腕の中が一番の安らぎの場所になっていたな、と微笑んだ。
夕方、一旦帰るけどまたな、ってドーン公爵家に帰った二人を見送り、その夜は再びアディスと同じベッドで眠った。
アディスは自分のことはあまり話さなかったけど、俺のことは聞きたがったので覚えている限りのことを話して聞かせた。
でもアディスとの生活の中でかなり前世の記憶は薄れていて、話せることはあまりなかった。
ソレでも前世で俺は死ぬまでに人並みには幸せだったと思う。ただ、恋愛には疎かった、と思う。
「あの時、父様に掬い上げられてからずっと、俺は幸せだよ。だから父様もエヴァルド兄さんとまた幸せになって」
「・・・・・・セラータ・・・・・・うん。ありがとう。セラータも幸せになってね。コレからもずっと、末永く・・・・・・家族なんだから」
「うん」
そうして夜は更けて、翌日の休暇が明けたあと、俺と交代するようにアディスとエヴァルドが番い休暇を一週間取った。
休暇明けで王城に出仕した俺を、魔導師団員や騎士団員、果ては関わりの薄い近衛騎士団員からもお祝いの言葉で出迎えてくれて気恥ずかしかった。
俺の与り知らぬところで揉め事が起きて解決していた今回の件。
何だかんだあったけど、雨降って地固まるというのか終わりよければ全てよしみたいな感じで、まあハッピーエンドとなったわけで。
末永くこの幸せが続けばいいなと願うのだった。
「そういえばアルヴァって『暁の騎士』って通り名があったよね?」
「・・・・・・もの凄く今更な気がするが。確かにそう呼ばれているな。俺は意味が分からんが」
「何で呼ばれてるのかって? うーん、まあ髪色や瞳は夜を連想させるし、その強さと静謐さからじゃない?」
「静謐? 俺が?」
本当に心当たりがないという様子だ。
「生真面目で軽口は叩かないし、普段は穏やかでしょ。でも魔物を屠る姿は、この世界に明けない夜はないと思わせてくれる力強さがある」
格好いいよね。
そう言って笑ったら唇に口吻された。
オイ、ココ王城内! 皆見てるー!
「お前にそう言われて嬉しいよ。なんだこの通り名って思ってたけど、いいもんだな」
「お前の頭はお花畑か!?」
そう言って満面の笑みを浮かべるアルヴァに、顔を真っ赤にしながら、仕方ないかと許してしまう俺もかなりお花畑な脳ミソだなと思う。
※本編、完結。
読んで下さってありがとうございます。
今回、エロが少なかった。そしてタイトル回収、最後の最後で自分でワロタ。入れるタイミングを逃した。
次回から少し番外編予定なのでよかったらもう少しお付き合い下さいませ。伏線?回収とかします。
749
お気に入りに追加
1,048
あなたにおすすめの小説
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!
白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。
現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、
ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。
クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。
正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。
そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。
どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??
BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です)
《完結しました》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる