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29 やっぱりハッピーエンドでしょ
しおりを挟むぎゅうぎゅうとおしくらまんじゅうみたいになってひとしきり泣いて、俺がやっと落ち着いた頃にはお昼ご飯の時間になっていた。
誰かの・・・・・・いやアルヴァの腹の虫が空気を読まずにぐうぅっと鳴って、皆でぽかんしたあと誰ともなく吹き出して笑い出した。
「・・・・・・アルヴァらしいっていうか・・・・・・」
「・・・・・・仕方ないだろう。健康優良児なんだから腹は減る」
「うん、確かに健康優良児だね。ふふっ」
側でずっと見守っていたサイモンがまなじりを若干赤く染めながら昼食の準備に向かった。
「ああ、うん。何かスッキリした」
「・・・・・・ソレならよかった」
俺は晴れ晴れとした顔をしていたんだろう。アルヴァもアディスもエヴァルドもホッとしたようだった。
本当は前世で何時俺がお腹にいるのが分かったのかとか、アディスが亡くなったときのこととか気になることはたくさんあるけど。
アディスにとってもエヴァルドにとっても辛い話題だろうし、アディスが言わないことをこちらから聞くのも何か違うし。
大体、言わないと決めてるアディスはこちらがいくら突っつこうとはぐらかして教えてくれないのはわかってるから・・・・・・。
いつか話してもいいと思ったときに教えてくれればいいや。
少しして食堂に移動した俺達の目の前には、俺やアディスの誕生日のときに用意されるおっきなケーキがデデンッと置かれていて。
「「「おめでとうございます!!」」」
邸の使用人達がズラッと並んでいて、拍手と共にお祝いの言葉をくれた。
俺が引き取られて養子になって、その時から皆、優しくて・・・・・・。
家族みたいな人達だったから、こんな不意打ち、嬉しくてまた泣けてきた。
「「っありがとう」」
見ればアディスも涙目で、俺達は声を揃えてお礼を言ったのだった。
さっきの今でアレだけのご馳走やケーキを用意してくれて、少し前に遅めの朝食を食べたばかりなのにいつもより食べ過ぎて、疲れが残っていた俺は食後の紅茶を飲みながらこくりこくりと舟を漕いだ。
「セラータ、眠いなら寝室で・・・・・・」
「ぅむぅ・・・・・・ん、アル、抱っこぉ・・・・・・」
「───っふ、アディス様、よろしいですか?」
アディスに律儀に断りを入れるアルヴァににまっと笑ってしまった。
アディスも柔らかい口調で返す。
「アルヴァ、義理の親子になるんだからそんなに堅い口調は止めて私のことは好きに呼べばいいよ。ああでも複雑だな。今は義理の兄になるのか? でもセラと婚姻するんだから義理の息子で、私は義父? いや義母?」
むむむっと考え込むアディスをエヴァルドが笑って見つめている。
「見た目はセラータとほとんど変わらないんだし、とりあえずアディス義兄上って呼んで貰えばいいんじゃない?」
エヴァルドにそう言われて、それもそうかと頷くアディスに俺は半分閉じた目を向けてぽそっと言う。
「おやすみぃ」
「おやすみ、セラ」
「おやすみなさい、セラータ」
アディスとエヴァルドに挨拶されて、俺は安心してアルヴァの胸に頭を預けて本格的に眠りに入った。
───気付けばアルヴァも一緒に横になって俺を抱きしめて眠っていて、いつの間にかこの腕の中が一番の安らぎの場所になっていたな、と微笑んだ。
夕方、一旦帰るけどまたな、ってドーン公爵家に帰った二人を見送り、その夜は再びアディスと同じベッドで眠った。
アディスは自分のことはあまり話さなかったけど、俺のことは聞きたがったので覚えている限りのことを話して聞かせた。
でもアディスとの生活の中でかなり前世の記憶は薄れていて、話せることはあまりなかった。
ソレでも前世で俺は死ぬまでに人並みには幸せだったと思う。ただ、恋愛には疎かった、と思う。
「あの時、父様に掬い上げられてからずっと、俺は幸せだよ。だから父様もエヴァルド兄さんとまた幸せになって」
「・・・・・・セラータ・・・・・・うん。ありがとう。セラータも幸せになってね。コレからもずっと、末永く・・・・・・家族なんだから」
「うん」
そうして夜は更けて、翌日の休暇が明けたあと、俺と交代するようにアディスとエヴァルドが番い休暇を一週間取った。
休暇明けで王城に出仕した俺を、魔導師団員や騎士団員、果ては関わりの薄い近衛騎士団員からもお祝いの言葉で出迎えてくれて気恥ずかしかった。
俺の与り知らぬところで揉め事が起きて解決していた今回の件。
何だかんだあったけど、雨降って地固まるというのか終わりよければ全てよしみたいな感じで、まあハッピーエンドとなったわけで。
末永くこの幸せが続けばいいなと願うのだった。
「そういえばアルヴァって『暁の騎士』って通り名があったよね?」
「・・・・・・もの凄く今更な気がするが。確かにそう呼ばれているな。俺は意味が分からんが」
「何で呼ばれてるのかって? うーん、まあ髪色や瞳は夜を連想させるし、その強さと静謐さからじゃない?」
「静謐? 俺が?」
本当に心当たりがないという様子だ。
「生真面目で軽口は叩かないし、普段は穏やかでしょ。でも魔物を屠る姿は、この世界に明けない夜はないと思わせてくれる力強さがある」
格好いいよね。
そう言って笑ったら唇に口吻された。
オイ、ココ王城内! 皆見てるー!
「お前にそう言われて嬉しいよ。なんだこの通り名って思ってたけど、いいもんだな」
「お前の頭はお花畑か!?」
そう言って満面の笑みを浮かべるアルヴァに、顔を真っ赤にしながら、仕方ないかと許してしまう俺もかなりお花畑な脳ミソだなと思う。
※本編、完結。
読んで下さってありがとうございます。
今回、エロが少なかった。そしてタイトル回収、最後の最後で自分でワロタ。入れるタイミングを逃した。
次回から少し番外編予定なのでよかったらもう少しお付き合い下さいませ。伏線?回収とかします。
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