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24 巣篭もり中に終わってたらしい 1
しおりを挟むアルヴァと正式に番ったあと、ドーン公爵家での昼餐を終えて一旦アディスとダスク公爵家に戻った。
「ただいまー! 久しぶりの我が家ー!」
「うん、久しぶり・・・・・・うん? 父様も久しぶりなの?」
「ああ・・・・・・アレから後処理が結構大変で、城の執務室に缶詰めだった」
出迎えてくれた執事長のサイモンに脱いだローブを渡しながら溜息を吐くアディス。
・・・・・・うん、相当大変だったんだね。そんな中俺はアルヴァと、成り行きとはいえ×××なコトを・・・・・・。
「ああ、セラは気にしないでいいんだよ。あとで教えるけど、セラは今回の騒動の被害者だから」
だから本当は今回、関わらせたくなかったんだ、と苦笑したアディスに申し訳ないと思いつつも嬉しく思う。
だってそれだけ俺のこと思ってくれてるってコトじゃん?
「父様、ありがとう。大好き!」
そう言って思わずアディスの胸に飛び込むと、ビクともしない体幹で受け止めてくれた。俺より少し大きいだけなのにこの細マッチョめ!
俺をぎゅっとしながら笑っている。
「私も愛してるよ、セラータ」
うふふあははと笑い合う俺達を和やかに見守る使用人達。
家中がほんわかしていた。
「じゃあ、着替えたら私の執務室においで。あんまりセラに聞かせたくないんだけど、ことの顛末を教えよう」
「俺はもう父様が思うほど子供じゃないし、そんなに弱くないよ。大丈夫。でもその気持ちが嬉しい」
「・・・・・・そうか。そうだよな。セラはもう大人だものな。アルヴァと番ったんだものな」
ちょっとしんみりした空気を出してそう言ったのに、最後はニヤリと笑いながら言ったアディスにカアッと顔が熱くなったのが分かる。
「そそそ、いいいや、ぅえっそそそうだけどそうじゃなくて・・・・・・!?」
「ふふふ、私より先に大人の階段のぼっちゃったかぁ」
「ふぁっ!?」
焦ってオタオタする俺をほったらかして、くふくふ笑いながら自分の部屋に向かうアディス。
え? え? ソレってアディスってば、童貞処女!?
俺はサイモンに声をかけられるまでしばらく呆然と立ち尽くしていたのだった。
やっと落ち着いて白いシャツと黒いスラックスというシンプルな部屋着に着替えるとアディスの執務室に向かった。
コレから詳しい内容を聞かせてくれるんだろう。・・・・・・いや、さっきの言い分だと詳しく教えてはくれないかもなぁ。過保護だし。
「父様、セラータです」
「入って」
ノックをして声をかけると、中から応えがあったので静かに入室する。
父様はソファに座って寛いでいて、自分の向かい側の席を俺に薦めたので遠慮なく座る。
「さて、簡潔に教えようね」
あ、やっぱり要所だけで済ますんだ? まあいいけど、楽だし。
「まず、二年前にありもしないセラの噂を流したのは、口に出すのもイヤなアレみたいなロステム侯爵一家だ。セラ、気付いてたよね?」
アレって、もしや黒い悪魔と言われるヤツのことかな?
それと同列扱い? いやうん、同列以下かな。
「ああ、うん。面倒くさ・・・・・・コホン、まあ荒唐無稽な噂だと証明するのも面ど・・・・・・いえ証拠が出せないので放置してたヤツね」
「・・・・・・もう潔く面倒臭いって言ったら? 確かに私も面倒臭いとは思ってたけどね」
アディスもやっぱり思ってたんだ。思わず目を合わせてお互い吹き出す。
「そもそもあの噂は、セラに元第二王子から婚約者になって欲しいと請われたことがキッカケでね。そもそも最初から無理のある話なんだけどアイツら暴走してさぁ・・・・・・」
ああ、うん。陛下も止めたんだろうが無視したってことかな。
「当然断ったからな。それなのにしつこく何度も・・・・・・。そのうち元第二王子の派閥のロステム侯爵家が次男をぜひ王子妃にと押してきて」
「王子は何処かの公爵家の後ろ盾が欲しかったの? でもソレってそもそも無理だよね。公爵家は総じて中立の立場だって王家で決めたじゃん」
権力が偏らないようにって、ずっと前から決められてるのに、バカだから分かってないのか。
「最初からロステム侯爵家のヤツにしてれば面倒臭くなかったのに」
三つある公爵家はダスク家とドーン家、最後の一つはエルフ族で確かカーティス家って───アレ? アディスの補佐官って・・・・・・。
チラッとアディスを見るとにっこり微笑まれた。
あー、やっぱり? カーティスさんって公爵家のエルフなんだ。
ん? アルヴァに縁談はって? ないない。アレはどう見ても旦那枠だろう。
・・・・・・イヤまて、ガチムチ系が受けというのも一定数の需要があるよな、きっと。
「いやいや、セラ。何かヘンな想像してない? そもそも竜人やエルフは特に番い以外にはほとんど発情しないからね。性欲薄いんだよ、長命種は」
そういえば、長命のせいで子供が出来にくいって聞いたな・・・・・・。
「それに・・・・・・無意識だったがアルヴァはセラを一目見て番い認定したから、そういう意味でも断ったんだ。竜人は番いを絶対に手放さない。奪われそうになれば奪おうとする相手を殺すくらいには苛烈なんだ。陛下も当然、種族別のそういう本能にお詳しいから納得しておられたが」
「え、そうなの?」
「・・・・・・セラにはそこらへんの知識を教え込まないと駄目だね。てっきり詳しい知識があるもんだと思い込んでた私達が悪いんだが・・・・・・」
アディスは頭を抱えて項垂れ、壁のサイモンはあまり表情が変わらないけど、残念な生き物を見る目をしている気がする。
失礼な!
「そもそも何時そんな縁談が来て断ってたの? 全然知らなかったんだけど?」
誰もそんな素振りなかったじゃん。
「そりゃあ、セラの目や耳に入らないように隠蔽していたもの。ともかく断っているウチにさっさとアレらがくっ付いてくれれば楽だったのに、元王子がセラに懸想しててロステム侯爵家の縁談になかなか首を縦に振らなくて」
はああっと溜息を吐くアディスに苦笑する。
「侯爵家は俺を脅すなり消すなりすれば自分とこの縁談を受けて貰えると思って、噂を流して暗殺者を送り込んできてたってことかぁ」
「そっちはね。大食堂でアルヴァの番いだと公にしたのは餌でアホ王子をおびき寄せるためで。アレで焦ったアホ王子がアルヴァを消そうと動いてくれて助かった」
「ああソレでか。───納得」
俺以外にもアルヴァにも大勢集っていたから何だろうとは思ったけど。俺の相手を殺せばいいって、安直だろ。
それにしても何時俺を見かけたんだ? 第二王子ってアホだってんで、公の行事にはほとんど欠席されてる。
重要な場面でやらかされては困るからな。
「何時見初められたか気になる? ちょうど二年前の魔物討伐でヒュドラが出て討伐したでしょ、セラがほとんど一人で。アレで陛下の御前で報奨金を受け取っただろう? その時、カーテンの陰からこっそりアホ元王子が見ていたらしい」
ていうか、アディスの王子に対する言葉がどんどん辛辣になってるんだが? 元がついてるし敬称もついてないししまいにはアホって。・・・・・・俺も心の中では付けてないけどな。
「それで陛下の提案で、この際だから第二王子を廃嫡する口実にするためセラの噂を利用することになって・・・・・・不本意だが、渋々! 従っていたわけ。すまなかった、セラ」
そう言って頭を下げるアディスに驚いて言った。
「そんなの全然構わないよ! 俺も返り討ちにしてたし、陛下の命だったんでしょ?」
「・・・・・・そうだが、私は陛下にそんな危険を犯さずともアレらの邸を一発更地にするくらい脅かせばいいと進言はしたんだ。すぐに却下されたが」
「・・・・・・ははは・・・・・・」
うん、俺もアディスのこと言えないくらいには同じようなことを考えたが、陛下、英断です。
アディスの魔法じゃ邸一軒どころじゃなく領地も軽く吹き飛びます。
・・・・・・そういう俺もアディスと同じ被害を出すだろうと、壁に控えるサイモンが思っていたとは露知らず。
「「まあ、フルボッコしたからいっかー!」」
二人の声がシンクロして、思わず声を上げて笑った。
※説明で長くなりましたが、もう少し顛末の話が続きます。
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