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1-2【魔女の森】side使い魔

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※アスティの家族のところでほんの少し残酷表現有り。注意。
最後の頃、さわりでこの世界独自のオメガバースが入りますがこの二人には当てはまりません。




『またのお越しをお待ちしております』

そう言うと勝手に扉が閉まる。
これはロジェの魔法だ。この魔女の館にはいろんな魔導具が使われていて、それら全てをロジェが独りで作り魔力を込めて動かしている。

そんなに魔法の腕がいいのに、それ以外はまるで出来ないのがこのロジェスティラという魔法使いだ。

───そう。魔女と呼ばれてはいるが、本人はれっきとした男で自分から魔女だと名乗ったわけではない。

聞けば初めて来た依頼者が勘違いをして『魔女』だと流布してしまい、いくら訂正しても噂が一人歩きしてどうにもならなくなったんだとか。

結果、せめてもの抵抗でフードを深く被り、魔導具で声を変えて年齢性別不詳にしたんだと。

まあ、あれだけ可愛くて綺麗なら勘違いもされるだろう。
実際、俺も初めて目にしたときは女だと思ったし。

あの出逢いが俺の人生の分岐点だったな。

   ◇◇◇

───あの日、俺は両親と弟妹と共に森の中を移動していた。
実はあの頃、人間の冒険者達が俺達を狩りに森の中を彷徨いていて、危険を察知した両親が住処を変えようとしたのだ。

どうやら奴隷にするつもりだったようだが冗談じゃない。俺達獣人だって人間と同じく知性を持って生きているんだ。

しかし人間は異様に数が多いから、囲まれたら多勢に無勢で捕まってしまうだろう。
だからとにかく逃げるしかなかった。

ところが移動中に運悪く見つかってしまい、両親は抵抗の末に痺れを切らした冒険者の一人に殺され、弟妹達はまだまだ小さくて暴れても逃げられずに捕まってしまった。

まだ人化出来ない仔豹にはなにもできない。俺もまだ人化は出来なかった。

ただ俺は逃げ回っているうちに運良く藪の中に潜り込んで息を殺していたから見つからずに済んだ。

冒険者達が去ったあとも念のためにしばらくジッとして、安全が確認できたのでそっと移動をする。

半日は歩いたろうか。
注意深く森を進んでいると、風に乗っていい匂いが鼻先を擽った。

───美味しそうな匂いだ。

空腹だった俺はつられるようにふらふらとその匂いの元へと近付いていき───。

両親が時折話題に出していた通りの、苔むした三角屋根の小さな家があった。

魔女の館。

対価さえ払えば何でも叶えてくれるという魔女の棲む家。

・・・・・・本当にあったんだ。

その家の庭に、ローブを纏った魔女がいて、俺に手を差し伸べてくれて思わず指をちうちうと吸ってしまった。

だってこの魔女から美味しそうないい匂いがするんだ。
おそらくはその魔力の匂い。

実は俺は他の黒豹獣人とは違ってちょっと特殊で、食べ物よりも魔力を吸収する方がお腹が膨れるのだ。
まあ、家族以外の獣人は見たことがないんで分からないけど。
両親がこの森に留まっていたのはひとえに俺のためだった。

魔女のいる森は魔力濃度がもの凄く濃いから、俺の成長にはかかせなかったのだ。
だが俺達の噂を聞きつけた冒険者達に結果的に襲われて俺だけ逃げ延びたけれど。

弟妹達は、まあ、奴隷にされても死にはしないんじゃないかとは思うが。今の俺に出来ることはない。
薄情と言われようと、弱肉強食の世の中。自分が生きるのに精一杯だ。

ソレにこの出逢いは僥倖だった。

魔女は俺をただの仔猫と思って飼う気になったらしい。汚れてぼさぼさの毛を頭からそおっと撫でてくれる手が気持ちよくて、俺は猫でもいいか、とただの猫になりきることにした。

魔女に連れられ、同じベッドで魔力を吸いながらうとうとしていると、いつの間にか人化していることに気付いた。

その姿は推定十歳。
魔女はぐっすりと眠っていて気付いていない。

───もっと魔力が欲しい。

人化して更に腹が減った俺は、魔女の唇に目をやった。

───あそこから、もっと、吸いたい。吸い付きたい。

そうして気付いたらペロペロ舐めていていつの間にか薄らと開いていた唇に自分の舌を入れて口腔内を嬲っていた。

『・・・・・・甘い』

思わず漏らした声が子供の高い声音じゃなくて低い音だったことにハッと気が付く。
見れば己の手が大人のサイズになっていて。

大きな手のひら、長い指。髪も伸びていた。

『───凄い。魔女って凄いな』

濃厚で甘くて爽やかな魔力。
俺は一気に大人に成長していた。

見つめた先の魔女はぐっすり眠ってはいるが口付けで息も絶え絶えだったのか、はぁはぁと荒く息を吐いていてソレが酷く扇情的で思わずその寝衣の釦を外していた。

一つ、また一つとはだけさせながら柔肌に唇を寄せて魔力を吸っていく。

『・・・・・・ぁ、ん・・・・・・』

それに反応して喘ぐ魔女。
俺も興奮してきて釦を外す手が早くなる。

そうして見えた胸元が───。

『───男・・・・・・?』

そう、真っ平らで肉の薄い胸が現れて愕然とした。
魔女は使だった。

呆然としたが、魔女──いや魔法使いだが綺麗な顔に真っ白いきめ細かな肌、それに美味しい魔力と優しげな性質に、俺の迷いは一瞬で消えた。

『男だから何だ。俺はもう、この人を手放す気はない。これから一生俺だけのモノにすればイイだけだ』

───俺の命の恩人だが、それ以上に欲しい存在。ああ・・・・・・惚れたんだ。

ニヤリと笑って、薄桃色の胸の尖りに舌を這わせる。
ピクリと反応するソレにうっそりと笑う。

───さて、どうやって俺のモノにしようか。

そうして散々舐めまくった痕跡をすっかり消すと裸のまま魔法使い・・・・・・いや魔女でいいかと思い直し、抱きしめる。

何で裸だって?
そりゃあ獣化していて服なんて着てないし、そもそも服を着ていたとして、急激な成長後はデカくなり過ぎて着られないだろう?

誰に言うでもなく心の中で呟き、眠る。

───翌日、目を覚ました魔女が戸惑いながらも俺の言葉で使い魔契約を交わしてくれて。

『え、君も真名があるんだ? へえ、猫なのに?』

そう疑問を持ったがすぐに『まあいっか』と気にしなくなる彼がもの凄く心配だ。
騙してる俺が言うことじゃないかもしれないが。

真名を持つモノは魔女や魔法使いを始めとする数少ない特殊な者だけだ。
俺の家族だって持ってやしない。
特殊な俺だけが生まれたときから魂に刻まれていたんだから。

聞くとどうやら箱入り過ぎて騙されやすく、依頼の対価を誤魔化されたりしてるらしい。

───どうりで寂れて生活感のない家だったわけだ。
稀代の魔女と呼ばれるくせにこの困窮ッぷり。依頼の対価で十分いい暮らしが出来るだろうという腕だと聞いているが、これは俺のこの前までの生活より酷くないか?

使い魔としてロジェと暮らし始めて最初にしたことが、まず自分の着る服の確保。
しかしコレはロジェの服がサイズが合わないので仕方なくローブを羽織った。

・・・・・・うん。その下は全身素っ裸。誰かに見られたら変態だな。

仕方なくその格好で荒れ果てた館の掃除と修復をしてひと息ついてからふと気付く。

そういえば俺、魔力で衣服を生成出来るな。

そう、獣人は獣化と人化を自分で選べるので不都合がないように自分の魔力で衣服を作って纏えるんだった。気付くの遅えよ、俺ェ。

『・・・・・・お? え? 急にアスティがかっこよくなった』
『・・・・・・魔法で作れます。忘れてました』
『・・・・・・え? あれ、じゃあ僕ももしかして出来た?』
『・・・・・・おそらく?』

そう言って試しにと、ロジェはぼろぼろ繕ったローブからチュニックからポイポイと脱ぎだして素っ裸になると魔法で衣服をイメージした。

・・・・・・いやオイコラ、ツッコみどころ満載だ。仮にも年頃のオスの目の前で肌を晒すな。襲うぞ!

額に手を当てて溜め息を吐くと、成功してきゃいきゃいとはしゃぐロジェを抱きしめた。

『あー可愛過ぎ』
『ん?』
『・・・・・・いえ、魔力を使ったので補充させて下さい。俺のご飯は主にロジェの魔力なので』
『ぁ、そうだね。お掃除ありがとう。じゃあどうぞ───』

そう言って手を差し出してきたがそうじゃないと顎を掬って口付け、舌を絡めて魔力を吸い上げる。

『───っ!? ・・・・・・んぅ』

いきなりだったのに、ロジェは口腔内を嬲られて気持ちよかったのか、魔力を吸われる感覚にぞわっとしたのかそのどちらもなのか。

とろんとした潤んだ瞳で俺を見上げて、甘い吐息を溢した。

『───そんな瞳で見ると・・・・・・食べちゃいますよ?』

軽い気持ちで言ったのに、ロジェは期待を込めた瞳で言った。

『・・・・・・食べて、いいよ?』

そんなことを言われて俺の理性ははち切れそうだ。

『───ああもう! せっかく我慢してコレからもっともっと惚れさせてから食おうと思ってたのにっ』
『我慢、しなくていいよ?』
『───っクソ、どうなっても知らないからな』

悪態を吐く俺にクスッと笑ってしがみつくロジェをヒョイと横抱きにしてベッドに向かう。
ちょっと乱暴に下ろすと、さっき生成したばかりの衣服をお互い消して裸になる。

『・・・・・・本当にいいのか?』

ロジェは流されやすい。今も雰囲気に飲まれているだけで、あとで拒否されたら目も当てられないからな。
しかしロジェはしっかりと肯定した。

『もちろん。アスティがいいしアスティ以外には言わないしシないよ。・・・・・・その、口付けも、初めてだから・・・・・・優しくして欲しいけど』

あと、本当はそんな喋り方なんだねって微笑んで───。

『途中で否やは聞かない。───聞けないぞ』
『うん』

───こうして俺達の初夜ともいうべき初体験は出逢った次の日に行われたのだった。

   ◇◇◇

「ねえ、今日の依頼者、ちょっと変わってたね?」
「そうか?」

一仕事終えて紅茶を飲むロジェがそんなことを言った。

今日の依頼者はとある国の王族で、依頼内容は「恋人のバース性をβからΩに変えて欲しい」というものだった。
この世界はだいぶ昔に一時女性だけが罹る病が流行り、出生率が激減したことがあった。

そのときにこの世界の神が男性でも妊娠できるようにΩという性別を作った。
男性はΩを孕ませやすく優秀で稀少なαとαの子を孕みやすい稀少なΩ、そのどちらでもない大多数の妊娠できない一般的なβに分けられるようになった。バース性だ。

この世界では男性のみに現れるバース性。

アレから女性も病を克服して数が持ち直したので今はあまりバース性は特別視されなくなったが、相手が男の恋人で子供が欲しいヤツはやはり気にするようだ。

「でもまあ、好いた相手がβの男で自分が後継を残さないといけない立場ならあり得るだろう」
「ふーん、そういうもの? もしかしてだけど・・・・・・アスティも子供欲しかったりする?」
「いや要らない。ロジェと二人の時間が減る。ロジェだけいればいい」

不安そうなロジェに俺は真顔で即答する。これ以上ロジェとの時間を減らしてなるものか。

「・・・・・・そっか。よかった」

ホッとして俺にギュッと抱き付くロジェが愛おしい。

ちなみに立場は濁しているが、某国の王太子だったぞ、アレ。
ロジェは世情に疎い、いや俺が遮断してるからなのもあるが、だからそういうことに詳しくない。

王太子として後継が必要だと反対でもされたか。
だが手放したくない王太子は秘密裏に魔女に頼みに来たのだろう。

「彼の者をβからΩにして欲しい」と。

もちろん対価さえキッチリ払って貰えればロジェも否やはないしソレが出来る腕前だ。
ソレで相手の男がどうなろうと知ったことではない。バース性の変更など、同意があったかなんて知りもしない。

いやなのは、依頼を遂行した結果の醜聞がロジェの耳に入ることだ。

ハッピーエンドなら気にしない。
だがココに来るヤツらは大抵が私利私欲のため、己のエゴのためが多い。

依頼の結果、バッドエンドも少なくないのだ。

ソレを目にしたり聞いたりしたら、きっとロジェの心は少しずつ壊れてしまうだろう。

仕事と割り切って笑える俺や他の魔女と違って心優しいロジェ。

そんな彼を護るためなら、俺はいくらでも泥を被る。

そして幸せそうなロジェと二人で永遠を過ごすんだ。









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