迷い子の月下美人

エウラ

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それからは黙々と鑑定作業に没頭した。

今回押収した物品は、錬金術師ギルドと薬師ギルド両方からなので量も多く種類も多岐にわたる。

俺はまずまとめて貰った薬草類の鑑定を行った。俺が知っている素材が大半だったので鑑定自体はサクサク進んだ。

案の定、特に不審な効能は見受けられない。

薬草類にはこれといった効能のモノは見つけられなかったが、しばらく鑑定を続けていると怪しいモノが引っかかった。

「・・・・・・このキノコ・・・・・・」

そのキノコは乾燥されたモノと生の状態のモノがあり、それぞれの鑑定結果に大きな違いがみられた。

名前は『シメピ』。

大きさはカサが直径一センチメートルで丈は五センチメートルほどの小さく地味なキノコ。乾燥させたモノはもっと縮んで見失いそうになるほどの細さだった。

生でも乾燥させても食用に向かない。香りはいいが苦みの強いキノコで、成分も主に虫下しや下剤に使われるモノだ。

俺もそういった調薬に必要なモノだからと採取してたくさんインベントリに入れているが、俺のモノは生と乾燥後の成分に違いはなかった。多少凝縮されたくらいだ。

それがごく一般的なシメピなんだけど。

「・・・・・・これも古の森に生えてたシメピなのかな?」

もしかしたらあの森の濃い魔力で突然変異した亜種なのかも。
乾燥前は俺の持つシメピと同じなのに、乾燥の工程で変化するのか元からそういう要素があったのか分からないが、乾燥後はどうにも変わった効能が現れていた。

「アーク、ちょっといい?」
「ん? どうした、ノア。何かあったか?」

アークに声をかけると作業を中断して来てくれたので簡単に事情を説明する。

「───という訳で、押収した中の鉱石類を最優先で鑑定して貰っていい?」
「分かった。その中にあるだろうを見つければいいんだな?」
「うん。おそらくこのキノコとあわせるとが出来る」
「・・・・・・なるほど? ソレは証拠に成り得るな。ヨシ、早速取りかかろう」

大量にあったこの乾燥シメピの中には俺の持つシメピと同じモノもあった。ただ、騎士団が押収したときに混じったのか、それともワザと混ぜて誤魔化そうとしたのかの判別が俺には出来ない。

なので、この鑑定を元に実験をして仮説が確定になったらティンバー団長に任せよう、そうしよう。

今アークに探して貰っているのは『イエローアパタイト』と呼ばれる輝石にあたる鉱石。

普通に貴金属として取り引きされる宝石だが、実はあまり一般には知られていないが、良い意味でも悪い意味でも俺達のような錬金術師にはいわく付きの鉱石だ。

この鉱石には『誘惑』という石言葉があり、普通の人には『誘惑』されるくらい素晴らしい輝石という意味にとられるが、実際、この鉱石には周りを誘惑し魅了する効果が大なり小なり付いているのだ。

もちろん魅了魔法のようなあからさまな効果はない。若干、惹きつけられるような気持ちになるというくらいだ。

だがさっきの乾燥シメピなどを組み合わせて錬成するとになるという鑑定結果が出たんだ。

───つまりエレンが使っていた、あの香水のことだ。
今回の捕縛はそれを罪状にしているそうだから、証拠が出ないと長期の拘留は難しいらしい。

俺が自白剤を作って飲ませれば手っ取り早くていいんじゃない? と言ったら『それは最終手段で』って言われたからやらないけど。
作ったことないけど、たぶん後遺症とかなしでイケると思うんだけどな。
試してみない? って提案してみたけどオウランに速攻で却下された。

『世に出してはいけない薬になるから駄目だ』ってアークにも言われたから止めておこう。
それはともかく。

「押収した書類などにもレシピが残っていないなら、ヴァンが一番臭いと言ったその偉いヤツが頭で覚えているだけなのかも」

証拠を残さないために用意周到なヤツなのかもしれない。

「メーレに盛った毒の元のレシピもすでに破棄されたようで残ってないらしいし。頭に残せるくらいには賢いってことだよね」

その頭を違うことに使えばよかったのにね。

「まあ、何にせよ、俺は材料を揃えて本当にあの香水が出来るか試作するだけだね。ふふふ、楽しみ」
「・・・・・・何かノアが含み笑いをしてるが、アレは絶対、何かやらかすな・・・・・・」
『・・・・・・ノアのヤツ、心の声が漏れてるぞ。思いっきり楽しみにしてるだろう』

アークのジト目と呆れた声、それとヴァンのぼやきが聞こえたが、俺は鑑定作業に没頭しているように装い、聞こえないふりをした。

だって、新しい実験って楽しいよね!






※イエローアパタイトは石言葉に実際にあるらしいですが、こちらはフィクションなので実物を怖がったり嫌わないで下さいね。
参考にしただけですので。
そしてシメピももじっただけです。
あと、ノアは別にマッドサイエンティストではありません。
実験って楽しいよね? 出来たら試したいよね? ってくらいの気持ちです(いやそれがマッド・・・・・・?)。
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