迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
489 / 534

481 激震の獣人国王都 1(sideヴァン)

しおりを挟む

アークがウラノスと共にカガシ達を古の森に連れ帰る一時間ほど前のこと───。

我は例の薬草を発見した後はこれといった目的もなくなったので、暇潰しに古の森などを適当に彷徨いていた。

『・・・・・・そういえば獣人国王都の冒険者ギルドにから顔を出してなかったな。ちょっと行ってみるか』

とは、以前勝手に出かけて冒険者ギルドで厄介になっていたときに、メーレ王妃を攫うついでにノアに顔面鷲掴みで連れ帰られた件である。

『アレは恐ろしかった・・・・・・ステイはともかく飯が野菜だけっていうのがなんとも辛かった』

思い出しただけでも震える。

『むぅ、バレたらまた怒られるかの? 一言言ってから──いやいやバレなきゃいいんだ』

あんな目にあったというのに何故かその時の我は楽観視して、エレフに頼んで何時もの獣人国の近くの古の森に転移して貰い、ふらっと王都に向かったのだった。

───よく考えれば、エレフからノア達にバレるというのに。
空気が読めないエレフは悪気なくペロッと口に出すのだから。前回もそのせいで鷲掴みからの肉抜きステイだったのに、迂闊なエレフのことをすっかり忘れていたのだった。

そして例の如く認識阻害魔法で姿を誤魔化して王都に入ると、何やら騒々しい。
近くの建物の屋根に飛び乗ると、そこから更に高い建物に飛び移る。そして街並みを見回すとどうやら薬師ギルドと錬金術師ギルドの辺りが騒ぎの元のようだった。

『・・・・・・む? 何やら捕り物中のようだの』

見れば薬師ギルドで数名、王立騎士団と思われる騎士達に魔法で拘束されて連行されている。
その薬師ギルドからかなり離れた並びにある錬金術師ギルドの方は、更に騎士の人数も捕縛された人数も多い。

『・・・・・・アレか、毒の件がようやく進展したのか』

古の森に隔離したメーレ王妃が意識を取り戻した際に証言した内容をノア達はウラノスに報告していた。
その後も毒の元となった薬草など、関連性のある事柄は常に情報提供している。
───まあ、どうでもいい日常もしっかり報告していたようだが。それ、ウラノスが喜ぶだけだろう。

そこから確証を得て証拠となるモノも出たのかもしれない。そこら辺は我はタダの幻獣だから知らんけど。興味もないわ。

『・・・・・・彼奴、ココにいてもあの臭いがプンプンするわ。おそらくアレが主犯かの』

風に乗って届いたあの毒薬の臭い。精製されたモノを長期間扱っていたのだろう。浄化魔法でも深く身体に染みついた汚れが消えなかったのか、単に術者が魔法が下手なせいか・・・・・・。後者の方が有り得るな。

もっとも我だから気付いたくらい些細な臭いかもしれぬ。

『・・・・・・仕方ないの』

我は認識阻害の魔法をかけたまま錬金術師ギルドの方へと向かうと、騎士の一人に声をかけた。

『おい、あの一番偉そうなヤツから臭いニオイがプンプン漂っておるぞ。彼奴が主犯ではないか?』
「───っは!? フ、フェンリル様!?」

声をかけてから我は失敗を悟った。
そうだった、受け答えすると認識阻害の魔法は解けるんだった!

『ぅ、いや・・・・・・その、だな?』
「フェンリル様が!」
「何!? 本当だ!」
「うおおー!」
『お、お前ら、落ち着け』

認識阻害魔法が解けた途端、見事な体躯の幻獣フェンリルの姿が露わになり、周囲は阿鼻叫喚。
興奮する者、畏怖する者・・・・・・。しかしさすがと言うべきか、騎士達は興奮しつつも冷静に行動し、周りを宥めて場をおさめていった。

「フェンリル様、よろしければ我らと城にご同行願えませんか?」
『う、む。騒ぎの一端は我にも責がある。よかろう』
「ありがとうございます」
『それに、アレについても気になることがあるのでな・・・・・・』

そうして騎士達と一緒に王城に向かうことになったのだが、こっそり行動しようとしていたことをまるっと忘れた我は、速攻でノアにバレたことに気付いていなかった。

《ヴァン様、またやらかした?》
《コレはノアに報告、だよねえ》
《精霊王様がもうペロッと言っちゃってない?》
《いや、たぶん今は薬師ギルドの人達のことで忙しいから忘れてるんじゃない?》
《・・・・・・あー、有り得る》

遥か頭上の精霊達の会話は聞こえなかった。






※そろそろ獣人国でのフェンリルの立ち位置を書きたい。


しおりを挟む
感想 1,184

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...