443 / 539
436 メーレ王妃失踪
しおりを挟む---ココは古の森の中枢部、精霊王エレフセリアの棲まう聖域。
上位から下位の精霊に至るまで、数多の精霊達で埋め尽くされているこの場所に、普段なら絶対に足を踏み入れることが叶わない人物がいた。
メーレ・アニマウス。
猫獣人で獣人国の現王妃その人である。
ほんの数日前、ココに連れて来た時よりは遥かに血色の良くなった顔で、ノアに手ずから流動食を口に流し込まれている。
連れて来た直後は水分を摂ることさえ難しい状態だったが、ノアが以前錬金術で錬成していた解毒効果のある魔導具の腕輪をメーレ王妃の左手首に装着すると、見る間に体内から毒が消えて熱も落ち着き体調が目に見えて回復したのだ。
この魔導具の腕輪は、竜人には毒も効きにくいが万が一に備えてとノアがめちゃくちゃ高濃度の魔力を込めて錬成した特殊なモノだったため、毒が新種だろうと関係なく解毒してしまったようだ。
そしてもう一つ、そのお陰で呪いも見つけてしまっていた。
キレイに解毒したあとにうっすらと身体に纏わり付く黒い靄が残っていて、ノアの鑑定で呪いの類いだと知れた。
強い思念が呪いになって無意識に纏わり付いたモノだ。
ただ、おそらく呪いをかけた本人はメーレ王妃を狙っていたわけではなく、偶然強く表れて毒の投与対象にたまたまかかってしまったモノのようだった。
そのせいかノアが『聖浄化魔法』をかけたらあっと言う間に霧散して消えてしまったが。
「うん。コレで悪夢を見てたようだね。でも軽い呪いで済んで良かった。もう大丈夫」
そう言ってにこっとしながらメーレ王妃の頭を撫でていた。
さすがはノアというところだ。
で、肝心の毒はというと、ソコはヴァンのくすねてきた例のブツが役に立った。
---そう。
ノアはこの間の宣言通り精霊王に頼んで獣人国の王妃の部屋まで転移して貰い、使用人達の阿鼻叫喚の中メーレ王妃を抱えて連れ去り、ついでに王都の冒険者ギルドで寛いでいたヴァンを引っ掴んで古の森に戻ったのであった。
もちろんその場にはアークも同行していた。
---誰もノアを一人で行かせるなんて言ってないが?
そして無口無愛想仕様のノアに変わってアークがヴァルハラ大公家の封蝋付きの手紙(という名の脅し)を置いていったが、気付いているのかどうか・・・。
現場は大混乱だったから。
古の森に戻ったノアはまずメーレ王妃の毒を消し、ソレからヴァン提供の毒の解析をしつつメーレ王妃の介護をしているのだった。
「・・・さすがに、随分と床に伏せっていたせいで体力はほとんど残ってないね。意識もまだはっきりしないし・・・。でもとにかく口に出来るモノがあって良かった」
呼吸も楽になり、穏やかな寝息だ。
今はとにかく栄養を摂り、ひたすら休んで体力の回復が最優先事項だ。
「そうだな。顔色はだいぶ良いんじゃないか? 最初は紙みたいに真っ白だったもんな」
「うん。・・・まあ数日はほとんど水分だね。栄養のある果汁や野菜類の汁を。ソレから徐々に摺り下ろした果物とか・・・固形物はまだまだ無理だね」
「俺に出来ることは何でも言ってくれ。ノアも心配なんだ。・・・この後は少し午睡してくれ、頼むから」
「むー、これくらい全然平気だけど・・・分かった。少し横になるよ。ありがとう、アーク」
「どういたしまして」
アークがノアを抱えてテント内の寝室に横たえるとすんなり入眠したノアを見て、溜息を吐くアーク。
ソレなりに疲れは溜まっているだろう。
一人で介護をしながら薬草の採取と解析だ。
「---誰か、介護要員、一人くらい連れて来ないとなぁ・・・?」
だがそもそも迂闊なヤツはココに連れて来られないし・・・。
「---どーすっかな・・・」
寝入ったノアの頬を撫ぜながらアークは思案するのだった。
※本年も拙作を読んで応援して下さった読者様方、本当にありがとうございます。
来年もどうぞよろしくお願い致します。
良いお年をお迎え下さいませ。
208
お気に入りに追加
7,351
あなたにおすすめの小説
胸キュンシチュの相手はおれじゃないだろ?
一ノ瀬麻紀
BL
今まで好きな人どころか、女の子にも興味をしめさなかった幼馴染の東雲律 (しののめりつ)から、恋愛相談を受けた月島湊 (つきしま みなと)と弟の月島湧 (つきしまゆう)
湊が提案したのは「少女漫画みたいな胸キュンシチュで、あの子のハートをGETしちゃおう作戦!」
なのに、なぜか律は湊の前にばかり現れる。
そして湊のまわりに起こるのは、湊の提案した「胸キュンシチュエーション」
え?ちょっとまって?実践する相手、間違ってないか?
戸惑う湊に打ち明けられた真実とは……。
DKの青春BL✨️
2万弱の短編です。よろしくお願いします。
ノベマさん、エブリスタさんにも投稿しています。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる