迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
418 / 534

411 貴族牢にて(side獣人国の使者・スーラ侯爵とエレン)

しおりを挟む

ココは竜王国王城の敷地内にある貴族牢の塔。
そこに入っているのは猫獣人の貴族の子息。

歳は成人を迎えたばかりらしい。
そう。
こちらに滞在中の数日前に成人を迎えたと聞いた。

その子息を前に項垂れる中年の猫獣人・・・。
彼・エレンの父親で、獣人国からの使者として竜王国に滞在を許されているカッチェ・スーラ侯爵その人である。

「お前は・・・なんて事をしてくれたんだ・・・」

そう言って肩を落とす。
エレンが見ている何時もの威厳が無く、萎れた花のようであった。

「・・・・・・僕は悪くない」

そっぽを向いてぽそっと呟くエレンにガバッと顔を上げたスーラ侯爵の目は血走っていた。

「何が『悪くない』だ!! 私は散々忠告したぞ! 竜王国では大人しくしていろと! 竜人の番い至上主義は貴族でなくとも有名な話なんだぞ! ソレをところ構わず追いかけ回して大騒ぎし、よりによってヴァルハラ大公家に徒なすなどっ!!」
「ひっ?!」

初めて見る父親のそんな剣幕に尻尾を丸めて震えるエレン。
見た目だけなら可愛いモノだが・・・。

「だっ、だって! あんなに素敵な人が婚約者もいないって聞いたら、ぼ、僕だって良いじゃんって! 父上が何時も可愛いって言ってるじゃん! そんな僕を、絶対、気に入って貰えると思って・・・!! ソレに僕たちが婚約すれば父上の用事だってもっと上手くいくでしょ?! だからっ」
「---この愚か者!! 聞こえていなかったのか?! さっきも言ったろうが!! なんだと!! つまり、運命の番い意外には気持ちが向かないんだよ! 幾らアプローチしても嫌がられるだけなのだ!」
「・・・・・・うそ、でしょ?」

そんなの、聞いてない。
・・・いや、家庭教師が言ってたかも知れないが、僕は覚えてない。

「彼の方がつい最近、運命の番いを得たと聞いた。・・・そのお披露目の為に陛下に招喚され今日謁見に来たそうだ。そこにお前は乱入していって無礼千万、挙げ句にアルカンシエル殿の番いのノア殿を殴って怪我をさせたなど・・・・・・っ! 相手は準王族だぞ! しかも、私が今回、竜王国に使者として来た理由の御方だ!!」
「---は? あの人はただの大公家の嫁でしょ? 獣人国とは関係ないじゃん? 何でそうなるの?」

エレンはキョトンとした。
確かに準王族なら不敬だったが、獣人国の要件とは関係ないだろう。
そう思ったのだが・・・。

「・・・ノア・D・ヴァルハラ殿は、私が獣人国からわざわざ招喚のお伺いを立てに来た薬師マイスターの称号を持つ方だ。今現在、王妃殿下がお命を保っておられるのは、彼の方のポーションのおかげなのだ! 何度も竜王陛下に打診して、やっと、もうすぐお目通り願えそうだったのに・・・・・・お前がやらかしたせいで、御破算になりそうなのだ!!」
「・・・・・・そんな・・・・・・」

そう説明されて真っ青な顔で呆然と立ち尽くすエレンと膝から崩れ落ちるカッチェ。

互いにもう、言葉は無かった。

エレンは漸く、自分のせいで自分の国の王達がピンチだと悟った。

あの心優しい王妃様が、自分のせいでもっと苦しむかもしれない・・・もしかしたら亡くなってしまうかも・・・と。
そして使者としてココにいる父親の命ももしかしたら、自分のせいで風前の灯火なのかもしれないと・・・・・・。

自分自身も危ういのだと、漸く気付くのだった。




※ちょっと短いですが、使者の侯爵と次男のエレンの様子でした。

しおりを挟む
感想 1,184

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶のみ失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...