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411 貴族牢にて(side獣人国の使者・スーラ侯爵とエレン)
しおりを挟むココは竜王国王城の敷地内にある貴族牢の塔。
そこに入っているのは猫獣人の貴族の子息。
歳は成人を迎えたばかりらしい。
そう。
こちらに滞在中の数日前に成人を迎えたと聞いた。
その子息を前に項垂れる中年の猫獣人・・・。
彼・エレンの父親で、獣人国からの使者として竜王国に滞在を許されているカッチェ・スーラ侯爵その人である。
「お前は・・・なんて事をしてくれたんだ・・・」
そう言って肩を落とす。
エレンが見ている何時もの威厳が無く、萎れた花のようであった。
「・・・・・・僕は悪くない」
そっぽを向いてぽそっと呟くエレンにガバッと顔を上げたスーラ侯爵の目は血走っていた。
「何が『悪くない』だ!! 私は散々忠告したぞ! 竜王国では大人しくしていろと! 竜人の番い至上主義は貴族でなくとも有名な話なんだぞ! ソレをところ構わず追いかけ回して大騒ぎし、よりによってヴァルハラ大公家に徒なすなどっ!!」
「ひっ?!」
初めて見る父親のそんな剣幕に尻尾を丸めて震えるエレン。
見た目だけなら可愛いモノだが・・・。
「だっ、だって! あんなに素敵な人が婚約者もいないって聞いたら、ぼ、僕だって良いじゃんって! 父上が何時も可愛いって言ってるじゃん! そんな僕を、絶対、気に入って貰えると思って・・・!! ソレに僕たちが婚約すれば父上の用事だってもっと上手くいくでしょ?! だからっ」
「---この愚か者!! 聞こえていなかったのか?! さっきも言ったろうが!! 竜人は番い至上主義なんだと!! つまり、運命の番い意外には気持ちが向かないんだよ! 幾らアプローチしても嫌がられるだけなのだ!」
「・・・・・・うそ、でしょ?」
そんなの、聞いてない。
・・・いや、家庭教師が言ってたかも知れないが、僕は覚えてない。
「彼の方がつい最近、運命の番いを得たと聞いた。・・・そのお披露目の為に陛下に招喚され今日謁見に来たそうだ。そこにお前は乱入していって無礼千万、挙げ句にアルカンシエル殿の番いのノア殿を殴って怪我をさせたなど・・・・・・っ! 相手は準王族だぞ! しかも、私が今回、竜王国に使者として来た理由の御方だ!!」
「---は? あの人はただの大公家の嫁でしょ? 獣人国とは関係ないじゃん? 何でそうなるの?」
エレンはキョトンとした。
確かに準王族なら不敬だったが、獣人国の要件とは関係ないだろう。
そう思ったのだが・・・。
「・・・ノア・D・ヴァルハラ殿は、私が獣人国からわざわざ招喚のお伺いを立てに来た薬師マイスターの称号を持つ方だ。今現在、王妃殿下がお命を保っておられるのは、彼の方のポーションのおかげなのだ! 何度も竜王陛下に打診して、やっと、もうすぐお目通り願えそうだったのに・・・・・・お前がやらかしたせいで、御破算になりそうなのだ!!」
「・・・・・・そんな・・・・・・」
そう説明されて真っ青な顔で呆然と立ち尽くすエレンと膝から崩れ落ちるカッチェ。
互いにもう、言葉は無かった。
エレンは漸く、自分のせいで自分の国の王達がピンチだと悟った。
あの心優しい王妃様が、自分のせいでもっと苦しむかもしれない・・・もしかしたら亡くなってしまうかも・・・と。
そして使者としてココにいる父親の命ももしかしたら、自分のせいで風前の灯火なのかもしれないと・・・・・・。
自分自身も危ういのだと、漸く気付くのだった。
※ちょっと短いですが、使者の侯爵と次男のエレンの様子でした。
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