迷い子の月下美人

エウラ

文字の大きさ
上 下
323 / 534

319 閑話 父の日に贈る

しおりを挟む
※父の日にちなんだアイデアを提案して下さった海月なオカン様。
御本人様に許可を頂きまして、閑話として投稿致します。
ご厚意感謝致します。
ちょっと長いですが、2話に分けるほどでもなかったので1話分に纏めました。




---そういえばもうじき父の日だった。


ラグ爺さんが亡くなるまでは毎年なにかしら贈っていたけど、亡くなってからは贈る相手なんていなかったからすっかり忘れてた。

思えば爺さんに贈れるモノなんて錬金や薬の素材がほとんどだった。

ぶっきらぼうに、でもちゃんと受け取ってくれたっけ。
亡くなる直前は、俺が作ったケーキだったな。

偏屈な性格にそぐわない甘党で。
良く俺の作ったお菓子を食べてくれた・・・。

・・・今年は精霊王がいる。ウラノス義父様もいる。

うん、父の日に贈るプレゼントを作ろう。

「ねえ、アーク」

ちょっとアークに相談しよう。
そう思って声をかけたら後ろから抱き締められた。

「おう、どうした、ノア?」
「もうじき父の日なんだけど、精霊王とウラノス義父様に贈るモノを考えてて・・・」
「---ああ、そういえば・・・。俺も毎年、その日には父上になにかしらあげてたなあ」
「それでね、この前、精霊王って大きな砂時計を見て、暦を他の精霊に任せてるって言ってたじゃない? だから暦が分かる時計を作って贈ろうかなって」

持ち歩けて、時間だけじゃなく暦が分かれば役に立つよね?
特に義父様は仕事があるし。

「ああ、それ良いな。精霊王はとにかく時間の流れに対しておおらか過ぎる。永い時を生きているから気にならなくなっているのだろうが・・・」
「うん。そんな精霊王が、俺達に合わせて時間を確認しているからさ、もっと便利になれば良いと思って」

砂時計を見つめる様子を想像するとクスッと笑ってしまう。

「じゃあ、お仕事もあるから義父様にも時計を作ろうっと。・・・あ、父じゃないけど、大祖父様にもあげた方が良いかな?」

ノアが思い出したようにそう言った。
アークもはっとして考える。

「あー・・・うん、たぶん騒ぐから作った方が良いな。絶対欲しがる」

歳と体だけデカい子供だからな・・・。
そう言うアークに、想像したのか、笑うノア。

「ふふっ、了解。じゃあ、テントの中の作業部屋でちょっと作業するね。その間、アークはどうする?」
「うーん、作業の邪魔になるだろうからテントの中で装備品の点検とかしとくわ。あんまり遅いようなら声をかけるからな」
「うん、ありがとう」

そうしてテントの中でお互い集中していると、ノアが作業を終わらせて出て来た。

「終わったのか?」
「うん、お待たせ。コレなんだけど・・・」

そう言ってテーブルに広げたモノは、掌にコロンと収まるサイズの魔導銀で出来た懐中時計だった。

時計の文字盤の中央に、精霊王は金色、ウラノス義父様には銀色、大祖父様のは蜂蜜色の魔石を嵌めて、周囲の時間のところにはぐるりと黒色の魔石を12個。

針は静かに時を刻み、その魔石を指す。
上部には暦が数字で表示されていた。

「・・・凄いな」
「魔石に周囲からの魔力を吸収して半永久的に動くようにしてあるんだ。極々微量で動くから負担もないし、状態保存の魔法も付与したから傷も付かないはず」
「コレは俺でも欲しいな」
「そう言うかと思って、アークのも作ってあるよ。さすがに父の日のプレゼントじゃあないけどね」

そう言ってアークに渡したモノは、魔導銀に金の細工が入った特別なモノだった。

中の魔石はノアの髪色の黒で周囲の魔石はアークの瞳の金色。
暦もちゃんと付いている。

「---ありがとう、ノア。大切にするよ」
「うん、どう致しまして」


さて、最初は俺の命の恩人で、ある意味養父母でもある精霊王に。

ちなみに焼き菓子も一緒に丁寧に包装してある。

「精霊王、お暇なら来て下さーい」
《はいはーい!! お暇ですよー!!》
「・・・・・・相変わらず軽いな・・・」

アークの声にノアも精霊王もスルーする。

「来てくれてありがとう! 今日は父の日なんです。俺の大切な義父様に、贈り物です!」
《---え、外界にはそんなのがあるんだ? 嬉しい。我に贈り物とな? 開けて良いか?》

わくわくしながらそう言う精霊王に頷くと、壊れ物を扱うようにそっと開いた。

《・・・・・・コレは・・・・・・時計じゃな? こんなに小さくて綺麗なのに動いておる。凄いの! ここで暦も分かるのか! 凄い凄い!!》

大喜びで頬擦りをしている精霊王に言った。

「これなら持ち歩いて日時も分かるから、砂時計を睨んでなくても大丈夫でしょ?」
《本当に助かる! ありがとう!!》
「うん、どう致しまして。また何時でも遊びに来てね」
《うんうん。森に還って精霊達に自慢する!! またの!》

そう言って慌ただしく去って行った。

「凄い喜んでたな」
「うん、贈りがいがあるね」

次に、ウラノス義父様に手渡す。

「義父様、父の日の贈り物です。俺の家族になってくれて、ありがとうございます」
「---え、良いのかい? 私こそ、ウチの息子になってくれて、ありがとう。愛しているよ!」

そう言って抱き付いてきたから、アークに何時ものように引っ剥がされた。

「くっつくな! 俺の!!」
「良いじゃないか、家族なんだから」
「駄目!」
「・・・アーク、大祖父様のところにも行くんだから、お終いにしてくれる?」
「---ああ、悪い。じゃあ、そういうことで、また!」
「行ってらっしゃい」
「ん、行ってきます」

包みを開けたウラノス義父様がキャーキャー騒いでいるのが後ろから聞こえた。
こちらも喜んで貰えたようで良かった。



さて、一応先触れは出したけど、ほとんどアポなし面会になってしまって少々不安だったが、大祖父様はちゃんと時間を取ってくれた。

「お忙しいところごめんなさい。父の日ということで、精霊王とウラノス義父様に贈り物をしたのですが、大祖父様にも贈りたくて・・・受け取って貰えます?」

そう言ってノアが差し出した贈り物を見て感動に打ち震える竜王陛下。

「嬉しい! とっても嬉しいぞ、ノアちゃん! ありがとう!!」
「良かった。これでお仕事頑張って下さいね」
「おお! 張り切って仕事を熟すぞ!」
「良かったですね。やる気満々で助かりますよ」

リュウギがニヤリと黒い笑みを浮かべた。

「あ、大祖父様、あと御願いが・・・・・・」

ちょっと言い辛そうに静かに言うノアに、クリカラもテンションを抑えて真面目な顔になった。

「何じゃ、儂に出来ることならばやるから、遠慮せずに言ってみよ」

ノアは大祖父様をしっかり見て、言った。

「・・・・・・はい。あの、これ・・・リンデン父さんに・・・大祖父様のインベントリに居る父さんにも贈りたくて、どうにか出来ないかなって・・・」
「---リンドヴルムに・・・そうか。うむ、インベントリの中で更に別空間に区切った部屋におるからの、そこに捩じ込めば渡せる。・・・本人が気付くかは分からんがの。それでも良いか?」
「構いません」
「ヨシ、ではこの空間に入れてくれ。リンドヴルムに繋がっておる」
「---父さん、ノアだよ。貴方の息子だよ。アリテシア母さんが残してくれた、貴方の息子だよ。いつか、会える日を・・・待ってるから」
「俺はノアの番いのアルカンシエルです。ノアは俺が大切に守り愛します。貴方に会える日を楽しみに待ってます」

アークも手を添えて、贈り物をインベントリに押し込んだ。

スウッと吸い込まれていくと空間は閉じた。

「うむ、無事に届いたようじゃ」
「ありがとうございます。これで一安心しました。じゃあ、帰りますね。お邪魔しました!」
「うむうむ。またおいでのー!!」
「はいはい、仕事して下さい」

そう言ってリュウギが引き摺るようにクリカラを引っ張っていくのを笑いながら見送り、帰る二人。

「皆、喜んでくれて嬉しかった」
「これから先もずっと、何回でも贈れるさ」
「うん。家族になれて良かった」



・・・・・・。

---優しい魔力の気配がする・・・・・・懐かしい・・・・・・アリテシア・・・・・・似てる・・・・・・誰?

導かれるようにぼんやりする視界の先に写った綺麗な箱。

そっと手で触れると、アリテシアに似た魔力がした。
中には懐中時計。
オリハルコンの蓋の中、開けると、アリテシアにそっくりな黒髪の青年と銀髪褐色の美丈夫の姿絵。

魔力に乗って優しい声が聞こえる。



---父さん。
俺、父さんとアリテシア母さんの息子だよ。
生きてるよ。
番いが出来たんだ。
いつか、会えると良いな。



・・・・・・俺と、アリテシアの子・・・?


そうか。


・・・・・・うん。
もう少し眠って、癒されたら・・・・・・きっと・・・。



・・・・・・いつか会いたいな。



再び静まり返った空間の中・・・・・・。



懐中時計の音だけが酷くゆっくりと時を刻んでいた・・・・・・。






※忘れているかもなので、補足を。
竜王陛下のインベントリは特殊なので、もの凄く時間の進みは遅いのですが、停止ではないので生き物も入れる仕様です。
アークは今回、ノアと一緒に懐中時計を贈ったという設定なので、アークは贈ってないじゃん、と言うのは無しで御願いします😄




しおりを挟む
感想 1,184

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

フェンリルさんちの末っ子は人間でした ~神獣に転生した少年の雪原を駆ける狼スローライフ~

空色蜻蛉
ファンタジー
真白山脈に棲むフェンリル三兄弟、末っ子ゼフィリアは元人間である。 どうでもいいことで山が消し飛ぶ大喧嘩を始める兄二匹を「兄たん大好き!」幼児メロメロ作戦で仲裁したり、たまに襲撃してくる神獣ハンターは、人間時代につちかった得意の剣舞で撃退したり。 そう、最強は末っ子ゼフィなのであった。知らないのは本狼ばかりなり。 ブラコンの兄に溺愛され、自由気ままに雪原を駆ける日々を過ごす中、ゼフィは人間時代に負った心の傷を少しずつ癒していく。 スノードームを覗きこむような輝く氷雪の物語をお届けします。 ※今回はバトル成分やシリアスは少なめ。ほのぼの明るい話で、主人公がひたすら可愛いです!

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...