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275 閑話 カフカとラミエルの出逢い 2
しおりを挟む---ぞっとした。
いつかは父母の元に逝けると思って頑張って生きてきたのに、終わりが無いかも、なんて・・・。
ソレに気付いてからは、より一層無茶な依頼を熟すようになった。
どうせどんなに傷付こうともあっという間に塞がるのだから。
痛みを感じる瞬間だけが生きているという実感を得られた。
ソレに余計なことを考えずに済んだ。
・・・半ば自暴自棄になっていたんだろう。
冒険者ギルドの職員も心配そうに声をかけて来るが、愛想笑いであしらって、どんな依頼でも受けた。
そんなある日、何時もなら他所の冒険者達と仕事をしないのだが、厄介な魔物だからと他のSランク冒険者PTと一緒に受けた魔物の討伐依頼で来た森で、夢魔の少年に出逢ったのだ。
「ラグ、ヒュドラをマジックバッグにしまったらここら一帯の毒を浄化してくれ」
「ほいほい。相変わらず人使いの荒いヤツじゃな、リンデンは」
「仲が良いんだな」
「「何処が?!」」
「プッ・・・そう言うところが」
今回の依頼で一緒になった彼等は、リンデンが竜人でラグナロクが竜人と魔人族の混血というPTで、竜人の番い至上主義の精神が強いから番いではない俺に懸想することもなくて気楽だった。
それが今回依頼を受けた理由でもある。
そんな二人と討伐後の軽口を叩いていると・・・。
「---!」
「---、---!!」
近くで言い争う声が聞こえて二人と共に様子を見に近付いて行くと、不意に叫び声が聞こえてから静まり返る。
そして充満する血の匂い。
俺達は慌てて駆け寄った。
血の匂いで魔物が寄って来るかもしれない。
それに叫び声は子供の声のようだった。
理由はともかく、助けたい---カフカはその時、何故かそう思った。
辿り着いたそこには、両掌と腹の辺りを槍のようなモノで貫かれ、血塗れで樹木に磔にされた少年がいた。
辺りに他の気配は無く、犯人と思しき者は見当たらなかった。
「---酷いことをする」
「本当じゃ、一体誰が・・・」
カフカは慌てて槍を抜き、少年をそっと地面に下ろすとポーションをかけ、傷を癒す。
幸いカフカ達がすぐに駆け寄って治療したことと深い傷はそこぐらいだったので、少年はすぐに意識を取り戻した。
「---う・・・・・・」
「話さなくて良いよ。心配するな。魔物が寄ってきたら厄介だから移動するよ、いいかい?」
「---」
少年はコクンと頷いた。
それにほっとして、一言断ると少年を片手で縦抱っこした。
「急いで離れよう---リンデン?」
「・・・・・・ああ」
リンデンが少し辺りを気にする仕草をしたが、そのまま何もなかったように首を振ったのでその場を離れた。
---思えばこの時、リンデンはアイツに執着されたのかもしれない。
・・・・・・もっと注意していれば、あの悲劇は起きなかったかも知れないのに。
俺は・・・俺達は強者だったが故に、問題ないと些細なその違和感を放置した。
---結果、最悪の事態になるのはもう少し先の未来・・・。
そのまま森を出て、どうせだからと冒険者ギルドまで行くことにした。
手持ちのローブを頭からかけて包むと、縦抱っこのまま歩き出す。
門に着くまでに事情を聞いてみると、彼は夢魔のラミエルと名乗った。
彼を殺そうとしたヤツは同じ夢魔の一族の者だという。
ソイツはオネエ言葉の妖艶な美人で、自分とはもの凄く相性が悪くて何時も傷付けられていたと。
突然変異なのか、自分は夢魔の中で誰もが持つはずの力が弱く、一族の中では出来損ないだと言われているとも。
本来、夢魔は色んな人に様々な夢を見せたりして自分に好意を持つように操り、性交する事で生命の糧を得る一族だ。
普通の食事で得られる栄養は微々たるモノ。
だから夢魔にとっては他の種族の食事と同じ意味合いなのだが。
だがそのせいで夢魔は別名『淫魔』とも呼ばれる。
たまに強制的に快楽を求めて相手が腹上死するまでヤルような夢魔がいて、ソイツは当然討伐対象になるので、見つけ次第処罰されるが。
そんな種族の中でラミエルは、相手に自分に好意を持つような夢を見せられないのだという。
「夢魔ってそういうの自在に操れるんじゃないのか?」
「ああ、儂も昔、何処ぞの夢魔が儂の理想とする男の姿形で夢に現れて、良い思いをしたことがあったぞ。まあ、その一度きりだがな!」
ワッハッハと笑うラグナロクに苦笑していると、ラミエルは渋い顔で言った。
「---俺は、良い夢を見せる力が弱く、逆に悪夢しか見せられない。誰がそんな夢を見せられて喜ぶと思う?」
そう言われて見れば、抱えているラミエルは痩せ細っていて骨と皮のようだった。
・・・・・・なるほど、ソレが本当ならばろくに性交をしていなかったことになる。
もしくは童貞処女か・・・・・・。
「ラミエルって、今、いくつ?」
「・・・・・・覚えてないけど。たぶん、20歳くらい?」
「えっ、少年じゃ無かった?! ソレは・・・・・・その歳では小さすぎ。うん、ギルドでカード作って良く確認しよう。で、その後は俺が保護者な」
「え? は? 何、どういう・・・・・・?」
戸惑っているラミエルに、久しぶりの心からの微笑みを見せてカフカは言った。
「俺がお前を護るって言ってんの。心配するな、俺はこれでもSランク冒険者だ。死なないし強いぞ」
「ああ、それがいい。カフカは強いぞ! 美人だしな!」
「そうだな。美人な癖にめちゃくちゃ強いからな」
「美人は関係ないだろう。それに強いのは二人ともだろう!」
そんなことを言いながら笑い合った。
カフカは絶望の中でようやく生き甲斐を見つけたように心が温かくなった。
ラミエルが自分の元を去るまで、いや、もし離れていっても、影から死ぬまで護ろうと誓ったのだった。
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