267 / 533
263 棲み着いたヤツの正体は 2
しおりを挟む「ああ。一つ言っておくけど、この子、アンタらのこと何一つ憶えてないわよ?」
憤っているアーク達の心を読んだのか、ソイツは妖艶に笑って、虚空を見つめるノアの肩を抱き寄せ、なんでもないようにそう言った。
「---な、に?」
「言ったでしょ、かなり抵抗されたって。強情だったのよ。あんなの操るのに邪魔な記憶だもの、綺麗サッパリ忘れて貰ったわ。この子の記憶は今は天涯孤独で独りぼっちで、皆から嫌われ者扱いされてた時のモノだけよ。ふふふ、ちょっと苦労したけどちゃぁんと忘れてくれたわ。おかげで躾けしやすくなって・・・ふふっ」
その時の様子を思い出したのか、愉しそうに笑う。
それを聞いたアーク達は顔を青くさせたあと、怒りで真っ赤にさせた。
---俺と番った事も、その後の幸せな日々も、全部、無かったことにされたのか・・・?!
「---貴様、よほど死にたいらしいな・・・」
アークが再び地を這うような低い声で呟く。
先ほどから全く目線も合わず、動かないノア。
こんなアークの声にも反応しないノアを見て、アークはやり切れない思いだった。
「あらやだ、こわーい。ふふふ、心配しなくてもちゃぁんと相手してあげるわよ。アタシ、これでもまだまだ死にたくないの。・・・だから」
抱き寄せていたノアに囁く。
「---リンデン、アタシの為に、アイツらを殺して?」
リンデンと呼ばれたノアは、その瞬間、虚ろな銀の瞳をアークに向けた。
何の感情ものらない、ガラス玉のような透き通った銀色。
他の冒険者達の瞳は濁ったような銀色だったがノアの瞳は違う。
---きっと、奥底では抗っているはず。
・・・必ず、取り戻す。
「---精霊王!!」
アークが叫ぶのとノアが跳んだのはほぼ同時だった。
ガキンッ!!
ノアのバスタードソードがアークの大剣と斬り結んだ瞬間、アークの背後に眩い金色の魔力が溢れて、瞬きの間に髪も瞳も黄金色の、この世の生物とは思えない美しい容貌の精霊王が立っていた。
《・・・久々に喚ばれてみれば、何やら不味い状況のようだの》
瞬時に状況を読み取った精霊王が溜息一つ落とすとそう言った。
「詳しい話は後で! 手を貸してくれ!」
ノアと斬り結びながらアークが叫ぶ。
《良かろう。もとより義息子の願いを断るつもりは毛頭無いからの。何なりと申せ》
「助かる! とりあえず、俺とノアの攻撃の被害を受けないようにレオン達を守ってくれ!」
アークの言葉に、精霊王が暫しジッと戦っている二人を観察する
《・・・ふむ。ノアは操られておるようだの・・・ちと厄介な。守るだけで良いのか? 避難させられるが?》
「---いや、待ってくれ、精霊王殿? 私達はこのままここに!」
慌ててレオニードが叫ぶと、ギギルル兄弟も言った。
「アークの手助けをしなくちゃ! 絶対あの野郎、他にも何かしでかす---ああ!!」
「ほらな!! おいでなすった! 魔物と操られた冒険者達が・・・!!」
見ると、前回のように大量の魔物に混じって冒険者達も襲ってきた。
《---なるほど。ではあの冒険者達を迷宮から出してやろう。それなら気兼ねなく戦えるのであろう?》
「---出来るの?!」
《ああ、我にならば転移など造作もない》
「・・・・・・転移、それって・・・」
何も知らないギギ達はサーッと顔を青くさせた。
それに気付いて精霊王が言葉を紡いだ。
《心配するな。大丈夫、我だけは命あるものも転移させられる。普通はスプラッタ、とノアに聞いたがな。我は精霊王だぞ? 信じよ》
そう言って綺麗な笑顔を見せたので、ギギルル兄弟もレオン達も、一瞬、ぽーっとなってしまった。
《では、ひとまず迷宮の出入り口に送ろうかの》
そう言った瞬時、冒険者達だけがパッと消えた。
本当に瞬き一つもしない間だった。
精霊王は誰にともなく、どや顔を披露した。
それが何故かノアを彷彿とさせて、ああ、この親にしてこの子あり・・・ということをしみじみ思ったのだった。
202
お気に入りに追加
7,359
あなたにおすすめの小説
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結】偽聖女め!死刑だ!と言われたので逃亡したら、国が滅んだ
富士とまと
恋愛
小さな浄化魔法で、快適な生活が送れていたのに何もしていないと思われていた。
皇太子から婚約破棄どころか死刑にしてやると言われて、逃亡生活を始めることに。
少しずつ、聖女を追放したことで訪れる不具合。
ま、そんなこと知らないけど。
モブ顔聖女(前世持ち)とイケメン木こり(正体不明)との二人旅が始まる。
悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません
ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。
俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。
舞台は、魔法学園。
悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。
なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…?
※旧タイトル『愛と死ね』
男鹿一樹は愛を知らないユニコーン騎士団団長に運命の愛を指南する?
濃子
BL
おれは男鹿一樹(おじかいつき)、現在告白した数99人、振られた数も99人のちょっと痛い男だ。
そんなおれは、今日センター試験の会場の扉を開けたら、なぜか変な所に入ってしまった。何だ?ここ、と思っていると変なモノから変わった頼み事をされてしまう。断ろうと思ったおれだが、センター試験の合格と交換条件(せこいね☆)で、『ある男に運命の愛を指南してやって欲しい』、って頼まれる。もちろん引き受けるけどね。
何でもそいつは生まれたときに、『運命の恋に落ちる』、っていう加護を入れ忘れたみたいで、恋をする事、恋人を愛するという事がわからないらしい。ちょっとややこしい物件だが、とりあえずやってみよう。
だけど、ーーあれ?思った以上にこの人やばくないか?ーー。
イツキは『ある男』に愛を指南し、無事にセンター試験を合格できるのか?とにかく笑えるお話を目指しています。どうぞ、よろしくお願い致します。
純情将軍は第八王子を所望します
七瀬京
BL
隣国との戦で活躍した将軍・アーセールは、戦功の報償として(手違いで)第八王子・ルーウェを所望した。
かつて、アーセールはルーウェの言葉で救われており、ずっと、ルーウェの言葉を護符のようにして過ごしてきた。
一度、話がしたかっただけ……。
けれど、虐げられて育ったルーウェは、アーセールのことなど覚えて居らず、婚礼の夜、酷く怯えて居た……。
純情将軍×虐げられ王子の癒し愛
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる