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216 俺の大切な好一対 3
しおりを挟む先ほどから頻繁に執務室が揺れる。
竜王国は天空に浮遊しているので、ついぞ地震などというものに遭遇したことは無い。
そう、コレは自然現象ではないのだ。
「---陛下・・・コレほどとは・・・」
近衛騎士達が少々青ざめている。
儂の側近達もそわそわと落ち着かない。
そんな中、時折、ビリビリと飛んでくる威圧。
---防御結界を張っているのにコレか。
先日の私室での対面の時に張っていた防音の結界魔法はえげつない強度だった。
今回もアレと同等の防御結界魔法を張っているはず。
・・・空恐ろしい。
思わず己の異空間収納魔法を窺ってしまう。
今は静かに眠る古竜。
200年ほど前のあの事件のせいで大賢者ラグナロクと氷の幻獣フェンリルのヴァンが封じた金色の狂竜。
・・・その彼の血を引いているというノアという青年。
そしてウラノスの末っ子アルカンシエルの番い。
よもや古竜と黒兎人の混血で、更には精霊王の魔力に染まった規格外だとは・・・。
誰も予想だにしなかっただろう。
「ウラノスから彼の報告が上がったときは、コレほどとは思わなんだが・・・」
つい先ほど、魔法騎士団長のルドヴィカからこの振動の原因を聞かせられた時には些か血の気が引いたが・・・。
「まあ、散々陰口をたたいてきた連中もこれで思い知るだろう。己が何を敵にまわしたのかをな」
「・・・そうで御座いますね。おかげでこれで少しは静かになりましょう」
「アルカンシエルに感謝せねばなるまいて」
ほっほっと軽快に笑う陛下に気を緩める側近達。
しかし、鍛錬場での騒動を思えばこのひとときは貴重だなと思い直す。
もうじき、後処理で首が回らなくなるほどの忙しさになると、薄々感じていたのかもしれない。
今だけは穏やかな時間が流れていた。
一方の騎士団の鍛錬場では・・・・・・。
要塞都市でノアの実力を知っている者や番いを得ている騎士達は固唾を呑んで見守っている。
というか、動けずにいる。
何故なら、ノアが竜化しているから。
黄金色の翼を顕現し、瞳孔が縦に割れ、爪も鋭く伸びている。
無意識なのだろうが、タダでさえ強い威圧が何倍にも膨れ上がっていた。
ノアの展開した結界の中には、周りにいる彼等以外の独身者でノアを蔑んでいた騎士達が総勢500人程はいたと思うが・・・。
集団私刑の場と化した鍛錬場は、戦闘が開始されておよそ5分足らずで5分の1、100人ほどの騎士の屍の山(まだ死んではいない)が築かれていた。
もちろんノアは、死なせないようにという約束を守って手加減しているのでこのペースなのだが。
「・・・・・・知ってはいたが、凄まじいな・・・」
「・・・本当に。要塞都市では、アレでも加減していたんだね。あの時は翼を出してたけど、瞳は普通だったし・・・」
純血であるアルカンシエル様も地形が変わるほどの威力があるが、ノア様は下手をすると大陸一つ消滅させられるのでは・・・?
あんな結界が張られているというのに、気合いを入れて踏ん張っていないと、威圧だけで吹き飛ばされそうだ。
それにこの地響き・・・。
「---絶対、王宮内にも届いてるよな」
「・・・そうだな」
その証拠に、鍛錬場をぐるりと囲む観覧席がどんどん埋まってきている。
何事かと集まってきた野次馬どもだ。
様子を窺うと、ノア様を陰で嘲っていた者達が多い。
おそらく、今日ここで集団私刑をすると知っていたのだろう。
ノア様がボコられる様子を見て嗤う気だったのかもしれないが・・・。
逆だ。
一騎当千の枠から外れすぎている。
殺さないでくれという我々の願いを聞いてくれてコレなのだ。
生死問わずと言ったら、一瞬でここはアイツらごと消え去っている。
ここは森じゃ無いから、焔の殲滅魔法で一撃だろう。
幾ら物理、魔法耐性が高い竜人といえども、アレを食らったら一瞬で跡形もなく消える。
それを涼しい顔でやってのけるのだ、あの方は。
それを知らないアイツらの何と憐れな事よ。
「どうした? 早く来いよ。さっきの言いっぷりだと俺はお前らより劣るんだろ? 俺は『何処の馬の骨かも分からぬ竜人と繁殖しか能のない淫乱兎の混血』なんだろ? お前らの方が流れる血も誇りも凄いんだよなぁ? 心配しなくても、俺のポーションで綺麗に治るから、幾らでもかかって来いよ」
そういって実際、ポーションをきゅぽん、バシャッ、ぺいって(マジックバッグに回収)してるし?!
それってポーション無くなるまで永遠に終わらないヤツ?!
普段、人見知りでぴるぴるしてあまり喋らないノア様が、無表情で感情の籠もらない声で饒舌に話しているのが恐ろしい。
アレだ。
普段怒らない温厚な人が本気で怒ると恐ろしいってヤツ。
今まさに、ノア様がソレだ。
アイツらは眠れる金竜を起こしてしまったんだ。
「ひ、ひいぃ・・・・・・!!」
「ぅ、嘘だ・・・!! こっ、こんな、ひょろっこい混血に・・・!」
「な、なななんで、その翼・・・?!」
「ウワアア! 来るなあ!! バケモノー!」
「き、貴様・・・騙したのかっ?!」
混乱する騎士達は大騒ぎだ。
「---騙したって、何が? 俺は何も言ってないけど。何処の馬の骨が金竜だったこと? それこそ俺は否定してないよな?」
ノアが正論を叩きつける。
確かに噂は勝手に広まったもので、ノアは一切関与せず、否定も肯定もしていなかった。
こんな状況でもノアは冷静である。
一方の騎士達は、体はもちろん精神がズタボロだった。
もう訳が分からず、責任転嫁でノアを責める。
当然だが死にかけてポーションで体は元通りになっても心は治らない。
だからすでに心が折れかけていた。
腰を抜かすもの、恐怖で涙と鼻水でグチャグチャなものなど、コレが竜王国最強と謳われる魔法騎士団員か・・・。
「情けない・・・・・・まあ・・・気持ちは、分からんでも無いが・・・」
「・・・・・・まあうん、そうだな。自業自得ってヤツだな」
「「・・・・・・」」
まともなヤツらの心は一つだった。
俺達の敵じゃ無くて良かった!!
コレに尽きる。
※ノアは黒兎族の里と神聖な霊山の冒険者ギルドでキレてやらかしている。
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