迷い子の月下美人

エウラ

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159 新雪に跡を残して

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翌々日の朝。

アークとノア、それにギギルル兄弟の4人でノーザンクロスの街をあとにする。

幸いな事に、今日は快晴だ。
日差しが暖かい。

「気を付けて、良い旅を!」
「世話になった」
「門衛さんもお元気で」
「「またいつか!」」

北門の門衛に別れを告げて暫く歩く。

雪深い土地柄、ここの街道沿いも魔導具である程度溶かされ、積もっている雪は少ないがそれでも踝くらいまで埋もれる。

まあ、周りの積雪に比べればはるかに少ないので、街道だと区別がついて助かるが。

ノアは新雪にサクサクと足跡を付けては楽しそうにしていた。
ギギルル兄弟も心なしかウキウキ気分だ。

そういえば魔人族の国は南の暖かい土地だったか。

「もしや、お前達も雪は初めてか?」

アークに聞かれてギギ達が笑って応えた。

「「ああ、初めてだ! 楽しいな、ノア?」」
「---うん。冷たいけど、綺麗だ。ぎゅっと踏む感触も不思議!」
「「なー!! 面白いよな!」」
「・・・・・・そのうち飽きるぞ。四六時中、銀世界だからな」
「「「それまでは楽しむ!!!」」」
「・・・・・・はいはい」
『・・・諦めが肝心だぞ、アーク』

最初は誰もこんなモンだ。

アークとヴァンは溜息を吐きながら、はしゃいで先に行く三人のあとをついていった。


やがて街道沿いは雪が積もって白くなった木々で覆われはじめる。
徐々に森が深くなってきたようだが、全体的に雪で白いので暗い感じはしない。

雪のせいか魔物もほとんど現れない。
---それ以上に強い氷の幻獣の気配に寄って来ないともいうが・・・。

さすがヴァン。
いるだけで魔物ムシ除けになっている。

たまに姿を消すのは食い扶持食材の為だが、適度に狩りをして周りを牽制する意味合いもあった。

ノアやアークに言われたわけではないが『働かざるモノ食うべからず』だと何処かで聞いた気がするので、それを実行しているのだった。

まあ、運動狩りをしたあとの御飯が美味いというのもある。
もはや嗜好品の枠から外れているただの食いしん坊だった。


空に雪雲が集まり出した。

そろそろ昼時だと思われる頃、適当に開けた場所でノアが軽く結界を張り、雪を退かす。
そこにテーブルと椅子を出し、竈を組んで・・・というか、組んだ状態の竈を出して火を熾して鍋をかけた。

「さっきヴァンが狩ってきたボアの肉をスープに入れて、残りは焼いて食べよう。すぐ作るから待ってて」
「何か手伝おうか?」
「じゃあコッチの肉を好きな厚さにカットしてくれる? 食べたいだけやっちゃって」

ルルが手伝いを申し出てくれたのでお願いする。
スープの方は野菜をたっぷり入れよう。
肉食系が多いから、栄養が偏らないように。

皆、体が大きいからたくさん食べるだろう。
この間、一緒に食事をしたときはかなりの量を食べていたから、それを目安に作ろうかな。

そう考えて大きい寸胴鍋を火にかけていた。


アークとギギは地図を広げて今のおおよその場所を確認している。

なにせ、一面真っ白の雪だ。
目印などないし、そもそもこの先、ろくに村や街など無いに等しいのだ。

マジックバッグやノアのインベントリに有り余るほどの食材や素材があるし、特別製のテントもあるから心配はしていないが、万が一逸れたりしたらさすがに命の危険がある。

そもそも、ギギ達は今回、初めての雪の中での旅路だ。
何が起こるか皆目見当もつかない。
対策は十全にしておくにこしたことはない。

「今更感が否めないが、この先、万が一俺達と離ればなれになった場合の事を想定して連絡手段や落ち合い方を決めておかないと・・・」
「・・・そうだな、確かに今更だが。すっかり忘れてたな、そういう事を・・・。だがどうやって? こんな目印もない場所では・・・」
「---俺が魔導具を錬成して付与魔法つければ問題ない」
「「・・・・・・」」

不意にノアに声をかけられて二人してピタッと固まる。

「? この腕輪みたいに錬成して付与すれば良いんでしょ? 地図も居場所も感知するように出来るよ。二人とも魔人族で魔力は十分あるし、問題ないでしょ?」

そう言って自身の腕輪をかざす。
ガッチガチに魔法付与したノアの特別製だ。

さも当然のように告げるノアに天を仰ぐ二人と、苦笑して竈で鍋を混ぜているルル。

薄曇りの空からチラリと雪が舞い降りてきた。

「・・・・・・俺、何かヘンな事を言った?」

一人分かっていないノアが困ったように眉を下げてポツリと言った声が、降り出した雪に吸い込まれて消えた。


『・・・・・・御飯、まだ?』

ヴァンの呟きも雪の中、掻き消されたのだった・・・。





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