迷い子の月下美人

エウラ

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152 鎮魂祭と雪祭り 5

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ギギルル兄弟を宿に連れて来てから、再びのんびりと街中に繰り出す。

ギギ達は宿でひと息吐いてから散策するそうだ。
鎮魂祭には参加すると言っておいたからあとで合流出来るかな?

街の中では至る所で灯籠が売っていた。
野菜を売る店にも並んでいた。

「昨日言ってたヤツかな?」
「ああ。思ったよりも小さいんだな」
「今のうちに買っとこうか」

そういってノアが近くの屋台で売っている灯籠を買っていた。
アークも一つ買って説明を聞くと、夕方頃に広場に行けば良いらしい。

「中の魔石に少し魔力を注ぐと光って自然と空に浮かぶからね。その時に死者の魂に、浄化されて来世に無事に逝けるようにお祈りするんだよ」

そういって屋台のおじさんが笑った。

「そう言えば、あんたらだろ? 広場の花と竜とフェンリルの氷像作ったの。あれ、昨日皆がこぞって見に来てて凄かったぜ! 暗くなってきたらまた魔導具で光るから、見ると良いよ」

そう言われて、そんなに凄かったかなと首を傾げるノアだったが、アークは何となく察した。

---ノアが無詠唱で作ったってだけでも凄いのに、精緻な花と竜とフェンリルだったもんな・・・。

アークが遠い目をする。
その時の騒ぎが目に浮かぶようだった。


夕方、暗くなってきた頃に雪がまた降り出した。

寒くないようにもふもふのフードを被ると、ノアは教えて貰った氷像のライトアップに興味があったので、アークを誘ってみた。

「ちょっと早めに行ってみない?」
「そうだな、雪も降り出してきて暗くなってきたし、ちょうど良いかな?」

街灯もちらちらと光りだして、舞い落ちる雪を仄かに照らし出した。
灯りの中を花弁のようにひらりと落ちる雪は幻想的だった。

そんな中をアークと手を繋いで寄り添いながらゆっくり歩いて行く。

広場に近付くにつれて人が多くなってきた。
ノアのように早めに来た人が結構いるようだ。
氷像にも灯りが灯っている。

魔石の種類なのか刻まれた魔法陣の効果なのか、赤や青、緑、黄色などの光が照らし出す氷の像はキラキラと乱反射し、とにかく綺麗だった。

その中でも人集りが出来ていたのがノアの作った氷像で・・・。

「・・・・・・やっぱり・・・」
「・・・ええ? どうして?」

心底不思議そうに首を傾げるノアの頭を苦笑してフードの上からポンポンと撫ぜるアーク。
そこに聞き慣れた声が聞こえた。

「いやいや、だってノアのだから!」
「あれ、やっぱりノアのだったねえ」

振り向けばギギルル兄弟がいつの間にかいて、ノア達に近づいて来ていた。

「よお、さっきぶり!」
「だからお兄、煩いって。ごめんね、騒々しくて」

賑やかなギギと申し訳無さそうなルルが対称的で周りも笑いが溢れる。

冒険者装備を外してすっかり普段着の2人は、体格も良く容姿も整っていて男らしい顔立ちなので、周りの人が黄色い歓声を上げていた。

生憎と2人共まだお相手はいないようだが、竜人族のように番いとかあるのだろうか?

気になったノアは2人に聞いてみた。

「そう言えばギギ達はアーク竜人みたいに番いがいるの?」
「あー、そういうのがあるっちゃあるんだが、気長に探すヤツもいればさっさと気になったヤツと婚姻するのもいるし、でも竜人ほど執着はしないかな」
「へえ・・・」
「婚姻後に番いが見つかって離縁する事もあるし、番いと分かってもそのまま今の相手と婚姻関係を続けたり。魔人族にとっては、単なる相性が良い相手、くらいかな?」
「・・・なるほど?」
「ま、ノアはアークと番って幸せなんだろ? それが一番だって」
「そうそう。もし周りが何か言ってきても気にする必要は無いよ。---まあ、アークがそんなことさせないだろうけど」

ルルが言った最後はぽそぽそしてて聞き取れなかった。
でもまあ、竜人族と魔人族の番いの認識の違いが分かってスッキリしたノアだった。


暫くギギ達と歓談していたら、いつの間にか広場に領主と冒険者ギルドのマスターがいて、鎮魂祭の開幕をしていた。

「今年も無事に一年、乗り切る事ができて嬉しく思う。我らの生活は戦士達や尊い犠牲のもとに得られた安寧だ。感謝し、彼等の魂を今日この時、浄化し来世へと送り出そう」

領主の挨拶を合図に共にめいめい灯籠に灯りを灯す。

あちこちで仄かな橙色の光が空へと舞い上がっていく。

ノアとアークも灯籠に灯りを灯すと手を離した。
ふわりと浮いていく。
隣ではギギ達も灯していた。

「---母さん、爺さん。俺は幸せだから、心配しないで」
「何かあってもノアは俺が護ります」

そういって2人はお互いをぎゅっと抱き締めた。

無数の灯籠がゆらゆらふわふわと空の彼方へと消えた頃、パーンと音が響いた。

驚いて見上げると、音の数だけ、魔法で作ったらしい花火が咲いていた。

「鎮魂祭が終わり、雪祭りの合図だ」

側にいた住民が教えてくれた。

「これから夜通し大騒ぎさ! 君達も楽しんで!!」

そう言う間にも、皆がわあっと騒ぎだす。
俺達は挨拶だけでもと、領主とギルマスの元へ向かった。

ギギ達もついてくる。

「---領主殿」
「・・・おお、ヴァルハラ大公子息殿!! 楽しんでおりますか?」
「とても幻想的でした」
「これからもっと盛り上がりますよ!」
「・・・あの、花火って俺があげても大丈夫ですか? 記念に、その・・・」
「ええ、ええ、もちろんですとも!」
「あ、ありがとうございます!」
「・・・良いのか?」

それを聞いたアークとギギ達がちょっと引いたが、気にせずにノアは魔法を放った。

パンッと軽快な音に似合わない大輪の花火が幾つも空を彩り、ノーザンクロスの街全体を明るく照らし出した。

有り得ないくらいの規模で光ったそれは、静かに消えたあと、光る雪となって街中に降り注いだ。

「・・・・・・奇跡だ」

誰かが言った言葉を皮切りに、一瞬静まり返った広場はわあっと弾けるような大騒ぎになった。

「・・・・・・あちゃあ・・・・・・」
「・・・言わんこっちゃない」
「・・・・・・だと思った」
「「・・・・・・」」

騒ぎだす周りにポカンとするノア。
同じくポカンとする領主、ギルマスを放ってアークは翼を顕現してノアと翔び立った。
ギギ達も浮遊する。

住民達で足の踏み場がなかったからだ。

「---やらかしたな」
「ノアらしいけどね・・・」
「・・・・・・ごめんなさい?」
「・・・いや、気にするな。皆、喜んでたし」

ご愁傷様・・・。
---領主達、後始末は任せた。


そんな気持ちで宿へと向かったのだった。






※ちょうど年末っぽいお話になりました。皆様も良いお年を!


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