156 / 533
152 鎮魂祭と雪祭り 5
しおりを挟むギギルル兄弟を宿に連れて来てから、再びのんびりと街中に繰り出す。
ギギ達は宿でひと息吐いてから散策するそうだ。
鎮魂祭には参加すると言っておいたからあとで合流出来るかな?
街の中では至る所で灯籠が売っていた。
野菜を売る店にも並んでいた。
「昨日言ってたヤツかな?」
「ああ。思ったよりも小さいんだな」
「今のうちに買っとこうか」
そういってノアが近くの屋台で売っている灯籠を買っていた。
アークも一つ買って説明を聞くと、夕方頃に広場に行けば良いらしい。
「中の魔石に少し魔力を注ぐと光って自然と空に浮かぶからね。その時に死者の魂に、浄化されて来世に無事に逝けるようにお祈りするんだよ」
そういって屋台のおじさんが笑った。
「そう言えば、あんたらだろ? 広場の花と竜とフェンリルの氷像作ったの。あれ、昨日皆がこぞって見に来てて凄かったぜ! 暗くなってきたらまた魔導具で光るから、見ると良いよ」
そう言われて、そんなに凄かったかなと首を傾げるノアだったが、アークは何となく察した。
---ノアが無詠唱で作ったってだけでも凄いのに、精緻な花と竜とフェンリルだったもんな・・・。
アークが遠い目をする。
その時の騒ぎが目に浮かぶようだった。
夕方、暗くなってきた頃に雪がまた降り出した。
寒くないようにもふもふのフードを被ると、ノアは教えて貰った氷像のライトアップに興味があったので、アークを誘ってみた。
「ちょっと早めに行ってみない?」
「そうだな、雪も降り出してきて暗くなってきたし、ちょうど良いかな?」
街灯もちらちらと光りだして、舞い落ちる雪を仄かに照らし出した。
灯りの中を花弁のようにひらりと落ちる雪は幻想的だった。
そんな中をアークと手を繋いで寄り添いながらゆっくり歩いて行く。
広場に近付くにつれて人が多くなってきた。
ノアのように早めに来た人が結構いるようだ。
氷像にも灯りが灯っている。
魔石の種類なのか刻まれた魔法陣の効果なのか、赤や青、緑、黄色などの光が照らし出す氷の像はキラキラと乱反射し、とにかく綺麗だった。
その中でも人集りが出来ていたのがノアの作った氷像で・・・。
「・・・・・・やっぱり・・・」
「・・・ええ? どうして?」
心底不思議そうに首を傾げるノアの頭を苦笑してフードの上からポンポンと撫ぜるアーク。
そこに聞き慣れた声が聞こえた。
「いやいや、だってノアのだから!」
「あれ、やっぱりノアのだったねえ」
振り向けばギギルル兄弟がいつの間にかいて、ノア達に近づいて来ていた。
「よお、さっきぶり!」
「だからお兄、煩いって。ごめんね、騒々しくて」
賑やかなギギと申し訳無さそうなルルが対称的で周りも笑いが溢れる。
冒険者装備を外してすっかり普段着の2人は、体格も良く容姿も整っていて男らしい顔立ちなので、周りの人が黄色い歓声を上げていた。
生憎と2人共まだお相手はいないようだが、竜人族のように番いとかあるのだろうか?
気になったノアは2人に聞いてみた。
「そう言えばギギ達はアークみたいに番いがいるの?」
「あー、そういうのがあるっちゃあるんだが、気長に探すヤツもいればさっさと気になったヤツと婚姻するのもいるし、でも竜人ほど執着はしないかな」
「へえ・・・」
「婚姻後に番いが見つかって離縁する事もあるし、番いと分かってもそのまま今の相手と婚姻関係を続けたり。魔人族にとっては、単なる相性が良い相手、くらいかな?」
「・・・なるほど?」
「ま、ノアはアークと番って幸せなんだろ? それが一番だって」
「そうそう。もし周りが何か言ってきても気にする必要は無いよ。---まあ、アークがそんなことさせないだろうけど」
ルルが言った最後はぽそぽそしてて聞き取れなかった。
でもまあ、竜人族と魔人族の番いの認識の違いが分かってスッキリしたノアだった。
暫くギギ達と歓談していたら、いつの間にか広場に領主と冒険者ギルドのマスターがいて、鎮魂祭の開幕をしていた。
「今年も無事に一年、乗り切る事ができて嬉しく思う。我らの生活は戦士達や尊い犠牲のもとに得られた安寧だ。感謝し、彼等の魂を今日この時、浄化し来世へと送り出そう」
領主の挨拶を合図に共にめいめい灯籠に灯りを灯す。
あちこちで仄かな橙色の光が空へと舞い上がっていく。
ノアとアークも灯籠に灯りを灯すと手を離した。
ふわりと浮いていく。
隣ではギギ達も灯していた。
「---母さん、爺さん。俺は幸せだから、心配しないで」
「何かあってもノアは俺が護ります」
そういって2人はお互いをぎゅっと抱き締めた。
無数の灯籠がゆらゆらふわふわと空の彼方へと消えた頃、パーンと音が響いた。
驚いて見上げると、音の数だけ、魔法で作ったらしい花火が咲いていた。
「鎮魂祭が終わり、雪祭りの合図だ」
側にいた住民が教えてくれた。
「これから夜通し大騒ぎさ! 君達も楽しんで!!」
そう言う間にも、皆がわあっと騒ぎだす。
俺達は挨拶だけでもと、領主とギルマスの元へ向かった。
ギギ達もついてくる。
「---領主殿」
「・・・おお、ヴァルハラ大公子息殿!! 楽しんでおりますか?」
「とても幻想的でした」
「これからもっと盛り上がりますよ!」
「・・・あの、花火って俺があげても大丈夫ですか? 記念に、その・・・」
「ええ、ええ、もちろんですとも!」
「あ、ありがとうございます!」
「・・・良いのか?」
それを聞いたアークとギギ達がちょっと引いたが、気にせずにノアは魔法を放った。
パンッと軽快な音に似合わない大輪の花火が幾つも空を彩り、ノーザンクロスの街全体を明るく照らし出した。
有り得ないくらいの規模で光ったそれは、静かに消えたあと、光る雪となって街中に降り注いだ。
「・・・・・・奇跡だ」
誰かが言った言葉を皮切りに、一瞬静まり返った広場はわあっと弾けるような大騒ぎになった。
「・・・・・・あちゃあ・・・・・・」
「・・・言わんこっちゃない」
「・・・・・・だと思った」
「「・・・・・・」」
騒ぎだす周りにポカンとするノア。
同じくポカンとする領主、ギルマスを放ってアークは翼を顕現してノアと翔び立った。
ギギ達も浮遊する。
住民達で足の踏み場がなかったからだ。
「---やらかしたな」
「ノアらしいけどね・・・」
「・・・・・・ごめんなさい?」
「・・・いや、気にするな。皆、喜んでたし」
ご愁傷様・・・。
---領主達、後始末は任せた。
そんな気持ちで宿へと向かったのだった。
※ちょうど年末っぽいお話になりました。皆様も良いお年を!
269
お気に入りに追加
7,359
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる