152 / 533
148 鎮魂祭と雪祭り 2
しおりを挟む街はお祭りムード一色だった。
死者の魂を鎮める祭りと聞いていたが、どうも沈痛な面持ちでやるのではなく、亡くなった方も残された方も、悔いなく寂しくないように陽気に盛り上げるのだそうだ。
・・・と、屋台のおっちゃんが言っていた。
「あー、でも分かる気がする。残された方が何時までもぐずぐず嘆いていたら、亡くなった方は心配で来世に行けないと思うよ」
ノアが寂しそうに言った。
・・・お爺さんの事を考えているんだろう。
たった1人の家族を失って、嘆く暇もなかったのだろうが・・・。
強がって、独りでも大丈夫って自分に言い聞かせて踏ん張っていたんだろう。
「・・・きっと、お爺さんは安心して来世に向かっていったよ」
「---そうだな。ありがとう、アーク」
さあ、気分を切り替えて色々見てまわろうか。
途中で地元住民らしき人に声をかけて市場の場所を聞きながら辿り着いた。
道の両側にアーケードがあり、雪が積もっても通れる造りになっている。
そこでは冬に採れる野菜や果物が所狭しと並べられていて、真っ白い景色とは対称的に鮮やかな緑や黄色、オレンジ色などが異彩を放っていた。
「これ、野菜だよね? 凄い色してる。どんな味なんだろう?」
「ああ、果物も濃い色をしてるな。竜王国のよりも濃い色だ。味も違うのかな?」
「アーク、食べたことあるの?」
「うちの方も冬は寒いから似たような食物があるぞ。これなんかは色は濃いが俺も食べる果物だな」
そういってアークが手に取ったのはめちゃくちゃオレンジ色の柑橘。
「お兄さん、これ一つ」
「はいよ、50Gね」
アークは鉄貨5枚を渡してから、その場でナイフを出すとスルスルと皮を剥いた。
器用に房からカットしてノアの口元に持って行く。
「ほら、あーん」
「ん、あーん」
素直に口を開けるノアに笑って実を入れてやる。
もっくもっくと咀嚼して飲み込んでからひと言。
「甘い」
「・・・みたいだな」
顔を見てりゃ分かる。
キラキラした瞳で頬がほんのりと赤い。
気に入ったようだな。
アークは自分の指先に付いた果汁をペロリと舐め取った。
---うん、甘い。
濃厚だ。
やはり色の濃いモノが味が濃いのかな?
ノアに催促されるまま、綺麗に食べさせてアークは追加で籠ごと買っていた。
ノアは何やら、剥いた皮をとっていた。
どうやら使えるらしい。
「・・・うーん、香りを付けたり、油汚れを落とす洗剤にしたり・・・出来るかな? 後で錬金術で錬成してみよう」
ぶつぶつと呟いていたが、キリが良かったのか、ぱっとアークに抱きついて歩き出した。
「どうした?」
「ふふっ、せっかくアークとデートなのに錬金術とか考えちゃってもったいないなって・・・それにくっついていると、暖かい」
とても嬉しそうにはにかんだ。
「俺は別に気にしないぜ? ノアはノアらしく好きなことをして言って良いんだ。俺は何があってもノアから離れないし、裏切らないよ」
「うん、知ってる・・・でも俺がそうしたいんだ。アークと一緒に楽しくなくちゃね?」
楽しいことも辛いことも2人で分かち合いたい。
だって愛してるから・・・。
共に生きていこうと思っているから・・・。
アークはノアをぎゅっと抱き締めてから腕を絡めて、寄り添いながらのんびりと銀世界の街並みに消えていった。
※今回はたぶんまったりと話が進みます・・・たぶん。(2回言ったが・・・未定)
269
お気に入りに追加
7,359
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる