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123 長い道程と最下層のボス
しおりを挟む今回の迷宮内の魔物の間引きは、主にアークが先行してノアは補助に回る事になった。
というか、ノアも腕が鈍りそうと言うので、魔法で補助をしつつお互いメインは剣で行こうとなったのだが。
アークは愛用の大剣を振り回し、ノアも愛用のバスタードソードを振り回す。
一階層は何度か実験の為に出入りしたのでコロコロとエリアが変わっており、今回は初めの頃に出た極寒の氷雪地帯だった。
「寒くないか、ノア?」
「ん、これくらいは全然平気。装備も良いモノにしてあるし。ていうか、要塞都市より先はこんな感じなのか?」
「んー、まだコレよりは暖かいはずだ。本格的に寒くなるとこれよりも寒いかもな」
アークが少し考えてから応えた。
なるほど、今はまだココまでは寒くないんだ。
じゃあ、色々な温度変化に対応出来る防寒具を何着か錬成しよう。
そんなことを考えつつ進んで行くと、氷狼や雪熊が現れた。
二人とも何をいうでもなく、阿吽の呼吸でそれぞれの魔物を相手にする。
一階層の魔物だからか、さほどの強さはない。
両方とも一刀両断で消えた。
ただ、今はスタンピードで下の階から上に上がって来る魔物が混じり合っている為、気を付けないといけない。
魔物の密度が下がれば自然と自分に見合った階層で行動するようになるはずなので、とにかく討伐していくしか無い。
時間が経てばその階層に見合った魔物のみリスポーンするので、仮にノアが階層全体を殲滅魔法で消し去っても問題は無いのだが、さすがにそれは止めておこうということになった。
---おそらく更地になる未来しか見えない。
迷宮といえど、さすがにそれは見るに堪えないとアークも思うのだった。
後、単純にエリア内に散らばったドロップアイテムを拾うのが面倒臭かったのもあった。
たぶん9割はこれが理由。
以前、森水晶のドロップアイテムの為にケサランパサラン討伐をしたことを思い出し遠い目をするアーク・・・。
---いや、愛しい番いの為ならばいくらでもやるけども、この迷宮の全階層は勘弁して欲しい・・・。
そんな感じで10階層まで潜って転移魔法陣で1階層に戻ってから再び10階層に行く。
「・・・うん、転移魔法陣も水晶もキチンと作動している。このまま間引きしながらどんどん潜ろう」
「そうだね」
問題なく戻れることを確認して更に下へ下りていく。
20階層では中ボス的なオーガキングがいて、アークが戦闘していた。
中々に硬かったようだが、アークは手応えが無さそうにスルッと一刀両断していた。
30階層にはサイクロプスがいて、コレもノアが腕力だけで倒していた。
40階層はミノタウロスが、50階層にはグリフォンがいた。
どちらも二人で瞬殺だったが。
アークは違和感を感じていた。
---どうも通常のスタンピードとは違う気がするな。
溢れているのももちろんあるだろうが、何となく、何かに追い立てられているというか、逃げてきているというか・・・。
「・・・アーク? どうかした?」
「・・・・・・いや、大丈夫だ。先に進もう」
とにかく、行ってみないと分からないな。
途中、キチンと安全地帯もあった為、適度に休憩を挟んでいたが、すでに日付が変わると思われる時間だ。
「まだ続くのかな?」
「コレばかりは行ってみないと分からないな」
「まだまだ続くようなら、今夜は徹夜かな」
「まあ、俺は数日くらい寝なくても問題は無いが、ノアは?」
「俺もね、作業に没頭すると2,3日はざらに徹夜するから慣れてるよ」
「・・・・・・そういうのは、コレからは無しな。俺が許せない」
アークに真顔で言われて、はい以外何も言えないノアだった。
だが今回は仕方ないので。
「このまま踏破まで進むからな。おそらく、外のルドヴィカ達もそのつもりで討伐しているだろうし」
「そうだね。きっと向こうも徹夜だよね。頑張ろうね、アーク」
「おう」
そうして突き進むこと遂に100階層。
やっとボスまで来たようだ。
今はおそらく、明け方近くになっている頃だろう。
目の前には重厚な扉がある。
辺りには異様に濃い魔力が漏れ出していた。
「・・・これがスタンピードの原因だな」
「古の森みたいに濃いねぇ。これは魔物も逃げ出すよね・・・」
むちゃくちゃ強者の魔力だ。
通常の魔物は恐れをなすだろう。
溜息を吐くアーク。
心当たりのある魔力だ、と頭の中で思った。
扉を押すとゴゴゴ---という鈍い音を立てながら内側に開いていく。
その部屋の奥に鎮座していたのは・・・・・・。
「---フェンリル」
「え? マジ? うわ、初めて見た」
アークの一言にノアが興奮した。
『フェンリル』
銀灰色の魔狼。
氷の幻獣とも言われるその魔狼は知能が高く、人語を解するという。
先に出て来た氷狼とは全くの別物だ。
そのフェンリルが部屋の奥で身を横たえ、眠っている。
体長は3m程か。
「・・・・・・フェンリルは本来こんな迷宮にいるはずないんだけどな・・・」
「そうなの?」
「ああ、俺達竜人の住まうセイクリッド・リョーゼンにいるのがほとんどだ。迷宮内で生まれる魔物じゃない。そもそも高い知能を持つからむやみに人を襲ったりしないし」
アークの説明を聞きながらもノアの両手は空中でワキワキしていた。
それにアークは気付いていたが・・・。
「へえ・・・ああ、もっふもふ・・・・・・もふ・・・」
「・・・ノア?」
ついに心の声が漏れて、アークに半目で見られた。
「へあっ・・・! あっ、あれ、声に出てた?! ぅああ、だって・・・あんなもふもふが、目の前に・・・」
『---面白いヤツよの。我を目の前にしての感想がそれとは・・・』
「・・・よう、久しいな」
「え?」
不意に聞こえた声にアークが返事をして、ノアがキョトンと首を傾げた。
---どういう事?
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