迷い子の月下美人

116 スタンピードの幕開け

まず最初にアークがすごい勢いで奥のケルベロス一体に肉薄して、大剣で一刀両断。

次いでその足で更に奥へと駆ける。

その間にノアが手前の二体に『サンダー』を落として黒焦げにした。

･･････とても初級の『サンダー』の威力では無かったけれども。

息の根が止まったことを確認してからアークが行った奥に気をやると、アークがすごい勢いで魔物を屠っていた。

しかしさすがに範囲が広すぎてその両脇までは手が出せていない。
そこをノアが魔法でカバーする。
範囲指定で『サンダー』をガンガン放っていくから、辺りは眩しい光で溢れていた。

さすがに森の中では炎系の魔法は使えない。
たまに雷系が効きにくいのがいれば氷で貫いたり、風魔法で切り裂いたり。

魔力が無尽蔵のノアには全く苦ではないのだが、周りで警戒していた冒険者がもの凄い心配をしていたようだ。

「魔力回復ＭＰポーションあげた方が良いんじゃ･･･？」
「いや、Ｓランクなんだから魔力の減り具合とか把握出来てるんじゃないか？」

だってケロッとしてないか？
なんて声が聞こえるが無視した。

－－－殲滅に忙しい。

その一言に尽きる。

「･･････どうしてこんなに湧いて来たんだ。･･･もっと奥に大きな魔力を感じるんだが･･･それが元凶かな」

ブツブツと小さく独り言を言うノアの頭上をワイバーンが通り過ぎようとして、周りの冒険者がパニックになった。

それを見もせず、氷漬けにして落とす。

唖然としている冒険者を放置して、森の中の魔物を魔法で殲滅する傍らで空中から迫り来る飛行型の魔物を凍らせたり雷で焦がしたりと忙しなく無詠唱でガンガン屠っていく。

時たま魔法を逃れた小物を愛用のバスタードソードで斬って捨てる余裕もあった。

ある程度森の中の魔物を散らしていたアークが一旦引いたのを見て、一気に殲滅魔法を発動した。

「『アブソリュート・ゼロ』」

ぽつっと一言言ったキーワードであっと言う間に見える範囲の森は一面真っ白に凍り付いた。

その間も空にいる魔物を屠っている。

そこにアークが翼を顕現して翔んできた。

－－－その後ろを見ると、何やらすごい勢いで翔んでくるモノ達が･･･。

つい、ノアが氷の魔法を放とうとして･･･。

「待て待て待て－－－い！！」

その翔んで来るモノ達の方から何やら制止の叫び声が聞こえた。

「･･････何？」

ノアがピタッと止めた。
･･･こちらの魔物は撃ち落としているが。

「－－－あー、うん。ノア、アレは大丈夫だ」

ノアの元に戻ったアークがそのモノ達に思い至ったようでノアにそう告げた。
アークがアレと言った人物はあっと言う間にノア達の目の前に翔んできた。

その背には赤い翼。
髪も翼と同じ燃えるような赤で瞳は翡翠色。

身に着けている防具はシンプルだがかなり質の良いモノで、胸元に刻まれた紋章は･･･。

「－－－こんなところにいたのか、アルカンシエル！！　いやあ、正直、助かった！」
「･･････煩い、ルドヴィカ」

そう言いながら渋面のアークの肩をバンバン叩くその気安さに、以前聞いた話を思い出したノアは頭をコテンとして思わず呟いた。

「･･････アークの従兄弟で乳兄弟の、魔法騎士団長？」

あの竜と剣の紋章は竜王国のモノだったと思う。

耳ざとく聞いたその彼はハッとしてノアの方をガバッと向いた。

それにビクッとしてぴるぴるし始めたノアをバッと抱き込むアークに、その彼はあからさまに驚いて見せた。

「あのアルカンシエルがガッツリ囲ってるだと？！」

そうこうしているうちに、他の魔法騎士達も到着したようだった。

「俺の大切な番いを怖がらせるな、ルドヴィカ」

アークの言葉に一瞬キョトンとしてから･･･。

「－－－はああああぁ－－－っ？！」

その声で更にぴるぴるしたノアをギュッと抱きしめ直して、アークはその長い足でルドヴィカを蹴り倒したのだった。





※以前、最初の街の迷宮のボス戦でノアの武器が『大太刀』と出ましたが、魔物によって使い分けてるだけなので、愛用の武器は『バスタードソード』なんです。片手持ちも両手持ちも出来る剣です。