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102 猫まみれ希望
しおりを挟むオーガスタの街を出て歩くこと3日目、小さな村に辿り着いた。
古の森に近いところに、10軒も無いような本当に小さな村だった。
着いたのは太陽がだいぶ傾いた夕暮れ時。
別に村に寄らずとも野宿で問題なかったのだが、休憩所で野営の準備に取り掛かろうとしたところ、たまたま大人とはぐれたらしい子供を助けて、この村まで連れて来たのだった。
村に近付くと、何やら大声が聞こえて、皆、慌ただしく動き回っていた。
「---ああ、こりゃあ坊主を探す準備をしているようだな」
「そうみたいだね」
村の入り口辺りでひときわ大きい声が聞こえた。
「早く探さないと暗くなっちまう!」
「だが日が落ちると魔物が活発になる。危険だ!!」
「でもそんなこと言ってたらリーフが・・・!!」
その声に反応したのか、連れて来た男の子が叫んだ。
「とーちゃん!! 俺、ここにいるよ!!」
「---!! リーフ?!」
「リーフだ! 帰って来た・・・!!」
「お前、どうやって・・・、この人達は?」
「俺を助けてくれた人達!!」
あっと言う間に囲まれて、ノアが人見知り発動でぴるぴるしてしまった。
ひとまず父親らしき男に子供を預けるとノアを抱き締めた。
「すまないが、番いは人見知りなんだ。少し離れてくれると助かるんだが・・・」
「おお、スマンの! おい皆の者、距離を取れ」
「ありがとう。・・・で、問題無ければひとまず村にいれてくれるか?」
「ああ!! コレは失礼をしました。どうぞ中へ。何もないところですが。儂はこの村の村長でフィンと申します」
壮年のガッチリした男が前に出て来て挨拶をした。
「俺は冒険者のアルカンシエル、コッチは番いで冒険者のノアという」
「・・・ノア、です」
抱き締められたまま何とか振り向いて村長に挨拶をするノア。
失礼かと思ってフードを下ろした。
瞬間、村の連中がぴたっと動きを止めた。
「---美人さんだあ」
助けたリーフが思わずという感じで呟いた。
そういえば、出逢ってからリーフに一度も顔を見せてなかったな。
でも別に美人ではないのでは?
・・・今まで散々貶められてきたノアは、実は自分が儚げ美人だという認識に欠けていた。
なのでそんなことを言われても自覚が無いためキョトンとして首を傾げた。
ソレを『可愛い!!』と思われているという事にも気付いていない。
「・・・アルカンシエル殿、苦労なさいますなあ・・・」
「・・・・・・ああ・・・」
村長の言葉に遠い目をするアークであった。
「・・・それにしても、この村の住人は・・・・・・」
アークがザッと見渡して言うと、村長が頷いて言った。
「この村は全員、猫獣人ですにゃ・・・あっ、つい・・・」
村長のフィンが思わずという感じで語尾に『にゃ』をつけて照れた。
---そう。
この村の住人は、個体差があるが、皆、猫耳に尻尾が付いている。
何ならもふもふの大きな猫が二足歩行しているような容姿の人もいた。
もふもふ天国・・・・・・!!
「ふああ・・・・・・猫ちゃんだ・・・・・・」
「ノア、待て」
「うえ・・・・・・どうして?!」
そこにもふもふがあればモフるのは当然じゃないか!!
「あのな、獣人の耳や尻尾はデリケートな部分なんだよ。家族や恋人や番いにしか触らせないんだ。だから抱きつくのも禁止な!」
「---えええ・・・・・・うん・・・分かった。触らないよ」
そう言われたら、俺だってアークの事をベタベタ触られるの、嫌だもんな。
「絶対だぞ!」
「絶対、触りません!!」
「---ヨシ」
---ああ、猫まみれ・・・憧れだったのに・・・。
内心、シクシクと泣いていたノアだった。
もちろん顔には出なかったが、雰囲気がはっきりと落ち込んでいた。
見るに見かねたリーフがノアに近付いた。
「あのね、あのね。俺の事触って良いよ? 俺、子供だし少しなら良いよ? ね、とーちゃん?」
「えっ、あ・・・おう! ちょっとなら良いぜ。恩人だしなあ・・・」
「・・・・・・ありがとう。じゃあ、ちょっとだけ」
ノアはそういって、リーフの頭をそうっと撫でた。
もちろん耳は外して。
さすがにさっきのアークの話を聞いた後に、そんな破廉恥な事は出来ない。
「---ふぁ、ふわふわ・・・・・・」
「・・・えへへ」
リーフの髪は癖のあるミルクティー色でふわふわ柔らかかった。
数度撫でたら、手を離した。
満足したし、何よりアークの嫉妬が・・・。
さすがのノアも察していた。
アークが『ヨシ!』と言わんばかりの顔で頷いた。
でももっと猫まみれになってみたかったな・・・・・・。
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