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99 閑話 淡い恋心(sideノア)
しおりを挟む※アークと出逢う一年くらい前の話がメインです。冒頭の失恋相手の事とか、以前も気にかけて下さった読者さんがいたので、書いてみました。
読まずとも本編に影響はありません。
俺が住むアインの街には、人気の雑貨店がある。
代々昔から続く老舗らしいそこは、今は改築され、可愛らしい外装の店舗になっている。
そこに跡継ぎでいわゆる看板息子と呼ばれる、雑貨店にお似合いの可愛らしい青年がいた。
歳は俺と同じだが、もっと下に見えるその容姿で売り子をしているので、当然、店は繁盛していた。
俺は可愛らしい雑貨も好きなので、店を通り過ぎる時に何時もチラッと店先に飾られたモノを流し見ていたのだが。
その日はたまたま、店内にいた冒険者らしき男と目が合った・・・ように思う。
いや、一瞬だし、コッチはフードを深く被っていたし、気のせいだろう。
だけど、太陽のような黄金色の髪と綺麗な空色の瞳が頭の隅に残っていた。
「---お客様ぁ、どうしましたぁ?」
その冒険者は暫く窓の外を見つめていたが、看板息子に声をかけられてハッとした。
「・・・いや、さっき店の前を通ったローブ姿の青年が・・・」
「---ああ、アレね? アレは駄目ですよ、お客様ぁ! 偏屈で無愛想で無口な、薬を作るだけしか能が無い役立たずですってぇ」
「・・・・・・そうなのか?」
「街の皆がそう言ってますぅ。それよりもぉ、何か買っていって下さいねぇ?」
甘えたように腕に絡みつく看板息子に気を取られて、この後冒険者はローブの青年・・・ノアの事を頭から消していた。
しかし、それから再会したのはすぐだった。
冒険者ギルドのクエストボードの前にいるローブの青年に既視感を覚えて、声をかけた。
青年は無言でスッと距離をとって逃げるように出ていってしまったが。
ギルド職員に聞いたところ、Aランク冒険者で人見知りが激しいから、初対面では何時ものことだと。
妙に気になって、それからは見かけるたびに声をかけ続け一ヶ月、何とか挨拶をするくらいにはなった。
・・・しかし、最近この街に移って来たローランはノアがこの街で村八分なのを知らなかったのだ。
ノアに声をかけるたびに、街の皆に、如何にノアが駄目人間で人嫌いかを訥々と諭され、それを信じてしまったローランは次第に距離を置き出した。
姿を見かけても声をかける事をしなくなり、目も合わせない。
ノアは元々そういう待遇に慣れていたので、やはり気紛れや物珍しさだったのだな、と何時もの生活に戻ったのだが・・・。
---人の好意なんて、そんなものか・・・。
淡い恋心に育ちつつあったノアの胸はチクリと痛んだ。
結局、独り。
---でも、遠くから思うだけでもいいよな。
そう自分を納得させた。
暫くして、彼が雑貨店の跡取り息子とデキ婚したと聞いた。
そういえば、最近、冒険者を辞めたらしいと・・・。
そっか、そういうことか。
俺は誰にも知られずに失恋したのか。
・・・失恋って言っていいのかも分からないくらいの感情だったけど。
幸せそうな二人を見るのが少し辛くて、連日のように迷宮に潜っては八つ当たり気味に魔物を倒してドロップアイテムを拾う。
その日も何時ものようにギルドに寄ってポーションを卸すと迷宮に籠もった。
途中の階層でテントを張って、竈にスープをかけて煮込む間にポーション作製・・・出来ずにテントから慌てて出てみれば。
竈の前で鍋をかき混ぜる美丈夫が・・・。
---いや、誰?
アークとの出逢いからのその後の怒涛の展開に、俺の些末な失恋の記憶はすっかり上書きされて、一欠片も思い出す事なく綺麗サッパリ忘却の彼方へと飛んでいった。
---そんな程度の淡い恋心とも言えないものだったんだ。
優しくされて、ちょっと絆されただけの・・・。
今もコレからも、俺にはアークだけだよ。
・・・・・・だからアーク、そんなに牽制しなくても俺はアーク以外には靡かないから。
もう番いなんだから。
一生アークだけの俺だよ。
嫉妬深い、そんなアークも大好きだけどね。
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