迷い子の月下美人

エウラ

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94 乗りかかった舟

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あの後アーク達から、大まかに精霊王の件を聞いて倒れそうになったギギルル兄弟。

まあ、そうなるよな。

---さすがに全部を話す訳にもいかないから、母親アリテシアが古の森に逃げ込んだ後、ノアが精霊王に命を救われた件と大賢者がノアを引き取って育てた件を(精霊王の魔力と父親封印云々を除いて)ザッと話して聞かせた。

「---そんな大層な話を俺等にするんじゃねえよ?!」

ギギがアークに噛み付く。

「死ぬかと思った・・・精霊王とか・・・大賢者とか・・・お伽話のような話・・・・・・」

ルルは顔色が若干青い。

「お前たちは悪いようにしないだろう?」
「しねえよ! しねえけど、気持ちの問題だ!!」

アークは確信犯だな。
それにまだ何か隠してる。
・・・・・・相当ヤバい事柄なんだろうな。

アークがニヤリと笑う。
いやいや、藪蛇だからな、突っ込まねえぞ?!

ノアは純粋に俺等への信頼からだろうが・・・。

「・・・・・・勘弁してくれ」

巻き込みやがって。
ギギとルルは苦い顔をした。


「そういや、大賢者のいたPTパーティーって知ってるか?」

急にアークが話を変えてきた。
何だ?
・・・・・・まだ何かあるのか?
隠し事の一つか?

「・・・・・・知っているが、俺達が生まれた頃にはすでに伝説だったな」
「・・・そう言えば二人は何歳なんだ?」

ノアがおずおずと聞いてきた。
そういや、種族とか教えてないもんな。
長命種なのは分かってるだろうが。

「ああすまない、隠してる訳じゃ無いんだが。俺達は魔人族で、350歳だ。そして実は俺達は双子なんだ」
「そうそう」
「---ぇ、そうなんだ? え、双子?!」
「二卵性双生児ってヤツで、あんまり似てはいないかもな」
「色味や体格は似てるけどね」
「双子ってこと自体珍しいからな。長命種は孕みにくいから。大抵は歳の近い兄弟に見られるぜ」

ギギルル兄弟は言われ慣れてるのか気にしない性分なのか、カラカラと笑って言った。

「そっか。長命種って本当に若い見た目なんだね。アークよりも少し年上ぐらいにしか見えない」

ノアがほっとした。
それを見てアークが苦笑している。

「何だ? 何かあったか?」

ギギが心配顔で聞いてくる。

「・・・いや、ノアがな、自分が221歳って事にショックを受けててな」
「・・・・・・え、ああ、そういや200年以上前の出来事だもんな。でも、何で・・・・・・あ、あー・・・」

思い至って納得した。

「そういや200年ずっと寝てて、目覚めて21年だって言ってたな、精霊王の件さっきの話で。・・・そりゃあ実質21年しか生きてないのにいきなり200年歳くってたってなりゃあ・・・うん、そうだよな」

ギギが苦笑した。
ルルはそれに対してなんてこと無いように言った。

「別に拘んなくていいんじゃ無いの? お爺さんに育てられてアークと出会ったがあれば、年齢なんて関係ないよ?」

長命種の200年なんて瞬きくらいの時間だよ、と言うルルに、そっか、そうだよねと微笑んだノアが可愛すぎる!

ルルと悶えたら殺気が飛んできた。

---いやいや、そういう感情じゃ無いから!!
だからアーク、威圧すんなって!

「ゴホンッ---で? その大賢者のPTが何だってんだ?」
「・・・・・・うーん、そうだな・・・」

ギギが仕切り直す。
アークがどう言おうか少し考えているうちにノアがポロッと零した。

「父さんが・・・」
「---へ?」
「爺さんのPT仲間だったって」
「・・・・・・は??」

ギギとルルがギョッとして固まった。
アークはあちゃあ、という顔をしている。

ギギとルルが錆びた道具のように、ギギギ・・・と首を動かしてアークを見た。

「・・・・・・まあ、ぶっちゃけて言うと、ラグナロク・ニヴルヘイムのPT仲間の竜人が父親だそうだ」

精霊王さっきの件で倒れそうだったからどう上手く言おうかと思案したんだが、手遅れだったようだ。

ノアのフライングで、アークはもう良いかと開き直った。

「精霊王から聞いたのは竜人ということくらいだ。ノアの瞳の色が父親の色だとお爺さんが言ってたらしい。それくらいしか分からない」

アークの説明を聞いたギギはふむ、と考える。

「・・・・・・確かに伝説と謳われた彼らのPT仲間に竜人がいたのは聞いたことがある。だが、かなり昔にPTを解散して個々に活動していたようだから詳しくは分からないな」

ギギが思い出すようにしながら話してくれたが、ルルも同じような情報しか持っていないらしい。

「・・・・・・やはり竜王国に帰らないと情報が集まらないかな・・・」

ふむ、とアークが思案する。
ノアも仕方ないと溜息を吐いた。

「今回は母さんの事が分かっただけでも凄い事だし。思ったよりも早く知れて良かった。それにいい出会いもあったし」
「・・・そうだな。助かったよ、ありがとう二人とも」
「いや、少しでも役に立てたなら良かった」
「本当だよ。素晴らしい出会いだった。うちの父さんも、ノアの事を知ったらきっと喜ぶよ。・・・知らせてもいいかな? ノア、アーク」

ルルが眉を下げて聞いてきた。
きっと二人の父親は今も心の何処かで黒兎人アリテシアの事で罪悪感を持っているのだろう。

「もちろん。少しでも安心させてやってくれ」
「---ありがとう。必ず・・・・・・」
「・・・すまない、ありがとう」

ほっとしたルルに、同じ思いだったのだろう、ギギも頭を下げる。

「---じゃあ、はい! 湿っぽい話はこれでお終い!!」

ノアが手を合わせて、パンッと音を立てた。

「そうだな。今日は本当にありがとう。楽しかったよ」
「---ああ、美味しかったし楽しかったよ」
「何かあれば冒険者ギルドに言付けてくれ。俺達はあちこち寄り道しながら竜王国に向かう予定だ」
「乗りかかった舟だ。俺達も何か手がかりを探してみよう。竜王国にも行ってみたかったんだ。ここの迷宮も適当に熟して一度帰郷して親父に会いに行ってくる。そうしたら竜王国に向かおう」
「ああ、楽しみに待ってる」

お互いの予定を教え合って、ギギ達は宿から去って行った。

「とりあえず、ここの迷宮を踏破してからだな」
「---うん、そうだね!」

食材楽しみーなんて言っているノアを愛でつつ、久しぶりの故郷に思いを馳せるアークだった。






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