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84 昇級試験と迷宮探索 5
しおりを挟むさて、その後はアーク達にとっては特に何事もなく30階層の転移魔法陣を踏んでまた戻った。
30階層は昨日の海エリアのように砂浜と海、森が広がっていた。
しかしここはリヴァイアサンしか出現しないらしい。
そのリヴァイアサンもわざわざこちらから攻撃しないと、静観したまま滅多に海中から上がってこないので、倒せない、もしくは倒さなくても気にしない冒険者達はスルーして31階層へ下りてしまうそうだ。
「まぁ、海中にいて特に浮上しないなら、手を出さずに進んだ方がいいもんね」
浮上させるには魔法や武器攻撃をしないと駄目らしい。
だが強いうえにドロップ率が低い魔物を倒すメリットが少ない為、手を出す冒険者はごく少数だとか。
殺られたら終わりだもんね。
『龍玉』は錬金術の素材になるが、そもそも今は扱える錬金術師がいないため、ただの宝飾品扱いになっているらしい。
稀少ということで、王侯貴族が高値で買い取るので一攫千金を狙う冒険者がいるくらいか。
「俺は錬金術に使うのに欲しいなあ」
「まぁ、そうだろうな。何個か出たらとっておけ。固定エリアだというし、何度でも来て倒せば良い」
「ん」
サッと探索魔法をかける。
とりあえず周りに他の冒険者の気配は無い。
「じゃあ、どのくらいの強さなのか、腕試ししよっか」
ノアが軽い感じで言った後に『サンダー』の魔法を海に放った。
何時もの、ケサランパサランを倒すときのような範囲魔法じゃ無い。
一点集中のヤツだ。
数百匹に分散して放つサンダーを全部集めた威力・・・。
---あ、コレ、死んだな。
アークは心の中で思った。
『ご愁傷様』と。
案の定、雷が落ちた勢いで波立った海面が落ち着いた頃、すうーっと銀色の鱗の、体長10mほどの海龍が浮かび上がってきた。
・・・・・・腹を上に向けて、ぷかりと。
そしてすうっと消えていなくなった=死んだ。
残念ながら龍玉はドロップしなかったが。
「・・・・・・あれ?」
さすがにノアも戸惑っていた。
おそらく、というか全く全力じゃ無いだろうが。
---だから瞬殺だって言ったんだ。
龍玉は無かったが代わりに鱗をドロップしたのでアークがささっと回収した。
「・・・・・・アーク、あれ? えっと・・・ただのサンダーだったんだけど・・・?」
あれえ?
首を傾げるノア。
めちゃくちゃ戸惑ってるな。
だがな、アレはただのサンダーじゃねえ。
『サンダーボルト』の間違いだろうってくらいの威力だった。
俺が力のゴリ押しならノアは魔力のゴリ押しだな・・・。
「次のリスポーンまで時間があるが、どうする? 待つか? 進むか?」
「う、ん・・・。なんか気がそがれちゃったから、帰ろうかな・・・」
確かに気が抜けたような空気になってるな。
焦る必要は全く無いし、良いんじゃないか?
「じゃあ、今日はもう帰って宿でいちゃいちゃしようぜ」
「---い、いちゃいちゃ?! それはそれで・・・・・・良いかも」
帰ろうと言ったら、照れるノア。
可愛いが過ぎる---!!
そうと決まればと、さっさと転移して迷宮から出る。
今度は別のギルド職員が声をかけてきた。
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「魔導銀ゴーレムを叩き潰してきた。ノアが」
「・・・・・・は?」
「リヴァイアサン、『サンダー』で一撃だった」
不本意な声でノアが言った。
「---へ?」
職員がポカンとした。
・・・・・・そうなるよな?
まさに開いた口が塞がらないってこういう事だよな?
「・・・・・・えーと?」
内容を噛み砕いて呑み込む前にノアが続けて言った。
「ん、手応えなさ過ぎて、やる気がそがれたから帰ってきた。また後日倒しに行く」
「30階層まで行ったし、時間的にも今日は上がるかって事になってなあ。ちょっと早いけど、帰ってゆっくりするわ」
アークも付け加えて、帰って行った。
「あっはい。お疲れ様でした!」
困惑しながらもしっかりと挨拶を交わして見送ったギルド職員達は、未だに飲み込めていなかった。
「---つまり? どゆこと??」
「・・・海龍が弱すぎて、萎えたって事じゃ無いの?」
「・・・・・・魔導銀ゴーレムを叩き潰したって言ってた?」
「アレって魔法じゃほぼ倒せないゴーレムでしたっけ?」
「じゃあ、腕力? あの細腕で??」
---謎過ぎる・・・・・・。
ギルド職員を困惑の渦に巻き込んだまま去って行った二人だった。
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