迷い子の月下美人

エウラ

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60 北の迷宮 1

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翌日、アークが立てたフラグは半分は回収された。

「別に良いよ。俺も暴走した自覚があるし」

そう。
残り半分はノアが酔った事による暴走だったため、喧嘩両成敗のような形で終わった。

「---まあ、でも・・・・・・感じすぎると、辛いんだね・・・・・・」

ノアが目元を赤らめて明後日の方向を見ながらぽそっと呟いたのを見て、アークが密かに滾っていた。

艶っぽいその顔を誰にも見せたくねえ!
このまま二戦目に行きてえ---!


何とか自制して身支度を済ませると、下に降りて朝食を取るのだった。


夜とは違い、軽めの朝食を食べた二人は冒険者ギルドに顔を出した。
この街で管理している北の迷宮ダンジョンの情報を仕入れるためだ。

受付に行くと、昨日と同じ職員が座っていた。

「おはようございます。今日は何か依頼を受けられるんですか?」
「おはよう。ああ、いや、ここの迷宮の事を聞きたくてな。誰か詳しいヤツはいるか?」

さすがに朝の忙しい時間帯に受付や職員の時間を潰すことはしたくない。
察した職員がダンジョンの地図を出してくれて、食堂兼酒場を指差した。

「あちらのマスターはここの冒険者でしたので迷宮に詳しいですよ。あと、今はいらっしゃいませんがAランクのギギ殿もしょっちゅう潜っていて詳しいので、見かけたら声をかけてみて下さい。よくあそこにいますので」

そう言った職員の声が聞こえていたようで、あちらに目を向ければまだまだ現役そうなダンディなマスターがニカッと笑って手を挙げた。

「ありがとう」
「ありがとうございます」

受付に御礼を言ってそちらへと向かう。

「やあ、いらっしゃい」

にこやかに笑って言うマスターは、サウスという狼族の獣人だった。
灰色の毛色で瞳が灰がかった蒼色の、ちょっとゴツいおじさんだ。

「俺はアルカンシエル、アークでいい。こっちは番いのノアだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
「この食堂のマスターのサウスだ。よろしく。迷宮について聞きたいんだって?」

取りあえず座りなよ、と席を勧めてくれたので遠慮なく座り、ついでに飲み物を注文した。

「で? 何が知りたいんだい?」

はいコーヒーと差し出しながら聞いてきた。
それにありがとうと言いつつ話をする。

「取りあえず迷宮の傾向と難易度、総階層辺りかな」
「そうだな・・・。北の迷宮は上中下の中でも上級の中辺りになるかな。最下層まで到達した者はまだいないようだ。今までで最高47階層だと聞いている。だがボス部屋はまだ下だろうと言う話だ」
「サウスさんは、何処まで潜ったんです?」

ノアがぽそっと会話に入ってきた。
珍しい。
よっぽど迷宮が気になるんだな。
まあ、前の街の迷宮では潜りっぱなしなくらいだったからな、好きなんだろう。

「俺はねえ、40階層までかな。もちろんパーティー組んでだよ。AとBランクで5人、タンクと前衛の剣士にシーフ、後衛の魔術師と回復術士ヒーラーのPTだった。ちなみに俺は剣士だ。皆、仲も良かったし、無理はしないヤツらだったから生き残れた感じだな」

他のヤツらはまだ現役だよ、と笑って言った。

「PTのバランスは良いな」

アークが感心したように言った。
ふうん、そうなんだ。

「ぼっちでソロだった俺には分からない世界だな」

本当に、ただただ純粋な気持ちでそう思って言ったのに、アークがもの凄く辛そうな顔になってノアの頭をそっと自分の胸に引き寄せた。

「---ごめんな、ノア」
「なんでアークが謝るの? 俺が独りだったのはアークのせいじゃない」
「それでも、だ。出来ることならせめてお爺さんが亡くなる前に逢いたかった」
「・・・・・・その気持ちだけで十分・・・・・・」

思わずぎゅっと抱きしめたら・・・・・・。

「---あ―と、話の続き、するか?」

サウスさんが気まずそうに声をかけてきて、ノアは我に帰った。

---そうだよ、サウスさんずっと目の前にいたじゃん!!
恥ずかしい---!!

アーク、そんなに睨まないの!!
悪いのはこっちだろ?!








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